閑話24『”賭け”ゲーム~第9ラウンド②~』


 この『”賭けベット”ゲーム』で勝つのに必要なチップはたったの1枚。

 そんな錬丹術師系ライバーの言葉に、イリェーナが困惑した様子で問う。


「それはいっタイ、どういう意味デスカ?」


「あっ……えっと、その」


「……?」


 しかし、イリェーナの問いかけに錬丹術師は言葉を濁す。

 言い出しっぺの責任があるのだろう、説明の続きをオルトロスが引き継いだ。


「イリェーナはん、今このゲームの1位ってだれやと思う?」


「そんなのおーぐサンに決まってイマス」


「せやね。けど、そのおーぐはんは”5枚ベット”しかせえへんよな?」


「それはそうデスヨ。だって勝ち確定なんですカラ。ほかの枚数をベットする必要なんてありマセン」


「そして、うちらは当然、被るから5枚ベットできない。わざと被せても負けるだけやし」


「アノ、どうして今さらそんな当たり前のことを確認するのデスカ?」


「その当たり前がめっちゃ大切やねん。なぁ、イリェーナはん。この状況って、つまりこうとも言い換えられると思わへん? 現在、このゲームの”ルール”は……」



「――プレイヤー数が5人、ベットできるのは1~4枚まで、なのと同じ」



「エっ? ……あっ、あアアアーっ!?」


 イリェーナもようやく理解したらしい。

 本来は6人で、最大ベットが5枚のはずが、実質的にはそうなってしまっている。


「そして”5人”の中での1位は……」


「……アネゴサン、デス」


「せや。そして、この必勝法はここで終わりやない。今度はアネゴはんが4枚固定でベットし続けはったら、どうなると思う?」


「残りのプレイヤー4人で、1~3枚の間でベットすることになッテ……!?」


 イリェーナも段々、このゲームの結末がわかってきたらしい。

 今なら、オルトロスが「許してな」と言った意味も理解できるだろう。


「ほな、その次は?」


「3人デ、1枚か2枚ヲ」


「そして、最後は……」


「最下位のプレイヤーふたりで……”1枚ベット”をし続けるだけになリマス」


 そこにプレイヤーの意思が介在する余地はない。

 確実に、互いの所持チップが1枚ずつ減っていくだけで……。


「そ、そんナノ、もはやゲームではありマセン! ただの作業デス!?」


「だから、”必勝法”やねん」


「マサカ、ソンナ……」


 つまりは、この必勝法は”1位”が順番に・・・使うことができたのだ。

 そして……。


「チップの枚数が今、一番すくないノハ」


 ・所持チップ

  おーぐ  ……25枚

  アネゴ  ……21枚

  イロハ  ……19枚

  オルトロス……19枚

  錬丹術師 ……17枚

  イリーシャ……16枚


「……ワタシ、デス。錬丹術師サンと”1枚差”で」


 そのたった”1枚差”ですべての勝敗が決まる……いや、すでに決まっていたのだ。

 錬丹術師が申し訳なさそうに言う。


「ほんまごめんな? わて『一緒にがんばろう!』とか言ったのに」


「イエ、気づけなかったワタシが悪いんデス。このゲームの本質に気づけなカッタ、ワタシが」


「そのあたりは運もあったし気にしなやー?」


「あっ。そういえば、この必勝法って第1ラウンドが終わった時点で、すでに……気づけさえしていれば、使えてたっちゅーことよな?」


「エ……た、たしカニ! たとえ100枚チップを持っていようトモ、最下位になった時点で負けが確定するわけですカラ……最短、たった1ラウンドでゲームの勝敗を決めることすらできたわけデスカ!?」


「そういや、そのときの順位は……」


 ・所持チップ(第1ラウンド終了時点)

  アネゴ  ……30枚

  錬丹術師 ……30枚

  イリーシャ……29枚

  オルトロス……29枚

  イロハ  ……28枚

  おーぐ  ……28枚


「うわー!? 敗者はイロハさんとおーぐさんやったやん!」


「ウウ~! 気づけてさえイレバ……!」


「というか、イロハはん……気づいとったやろ」


「うぇっ!? どどど、どーですかねー!?」


「は~、そんな気ぃしたわ。イロハはん、自分が負けるから黙っとったんやな?」


「……ノーコメントで」


「ま、待ってくだサイ! たしかに序盤はイロハサマがずっと最下位でシタガ、そのあとはちがいマス。イロハサマ、いったいドウシテ……?」


「そ、それもノーコメントで」


「……イロハはんは、やさしどすなー」


「まさかイロハサマ、ワタシのタメニ!?」


「いやっ、ちがっ!? そんなんじゃなくって!」


 俺は慌てて否定した。

 ただ、俺にもその……すこし、事情があっただけで!?


「まぁ、でもそのおかげでたっぷりゲームを楽しめたわー」


「ケド、これで本当にゲームは終了デスネ」


「いやー。最後、怒涛の展開やったねー。正直、わてはもうちょいゲームが続くと思ってた。まさかオルちゃんが本当に、たった1ラウンドでゲームの勝敗を決めてしまうやなんて」


「たしかにまぁまぁやるじゃないカ! だガ、そんなことは関係なイ! このゲームの1位ハ……このワタシダー!」


 あんぐおーぐが高笑いしていた。

 そして、勝者の特権とばかりにみんなを煽りまくる。


「オマエら、ワタシを崇めロー! いヤー、ちょっと強すぎちゃったかナー? もっと手加減したほうがよかったナー? プププ~、イリェーナ。罰ゲーム忘れるなヨ~?」


「ウワぁ~!? そうデシター!? わわわ、ワタシ社会的ニ……!?」


 弛緩した空気が流れていた。

 そこへ、俺は……。



「――待った。まだゲームは終わってない!」



「「「……え!?」」」


 待ったをかけた。

 ここで終わってもらっては困る。


 それでは、俺があえて必勝法を黙っていた意味がなくなってしまう。

 そして……使えなかった・・・・・・事情もそのままになってしまう。


「ねぇ、イリェーナちゃん、みんな……このままおーぐに負けっぱなしじゃあ、悔しくない?」


「ソレハ、そうデスガ」


「そら、まぁ。おーぐはん、えらい煽ってきはるし」


「でも、イロハさん。すでに勝負は決してるやろ?」


「いいや、まだだよ。みんな、よく聞いて。わたしには……」



「――おーぐを倒す”秘策”がある」


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