閑話23『”賭け”ゲーム~第9ラウンド①~』


「イロハはんはなーんも悪ない! なんも悪くなかったんや!」


 オルトロス系ライバーが、ぶわっと大げさに涙を流していた。

 立ち絵には通常の表情と、スイッチで切り替える特殊表情があることが多い。


 今回の場合、間違いなく後者だな。

 かわいい。


「ナルホド。おーぐサンが”5枚ベット”宣言をしたトキ、彼女より所持チップが多かったのはアネゴサンだけ。ソシテ、アネゴサンは……」


「みんな、どうかしたの~? お姉ちゃんに言いたいことがあるなら、どーんとこーいっ!」


「コレ、ですモンネ」


「「「……はぁ~」」」


 あー姉ぇを除いた面々が大きなため息を吐いた。

 どこからともなく「フフフ」と声が聞こえてくる。


「フーッハッハ! そ、そういうことダ! つまリ、ワタシの勝ちは揺らがなイ! ……ア~、ビックリしタ。まさかそんな手があったなんテ。一瞬、本当に負けるかト」


「おーぐ、本音漏れてるよ?」


「ううう、うるさイ! べつにいいんだヨ! どうセ、なにを言ったところでもうワタシの勝ちは揺らがないんだからナ!」


「うわー、めっちゃ煽られてる! でも実際、おーぐさんの言うとおりなんだよなー」


「このママ、ワタシたちの中から敗者を決めるしかありまセンネ」


「しかも必勝法が使えないとなると、完全な運勝負。……いや、でも」


 どうやら全員の見解が一致したらしい。

 オルトロスだけ、すこしなにかを考え込んでいる様子だったが……。


「せいぜいオマエら負け犬同志で醜く争いあうんだナ! フーハッハッハー!」


 あんぐおーぐの高笑いが響いていた。

 この状況になった以上、仕方ない。俺は……俺にできること・・・・・・・をやるしかない。


「ふ~ん、なるほど姉ぇ~? ……なるほど~?」


「ちょっとちょっと、あー姉ぇ」


「イロハちゃん、どうかしたの?」


 わかった風なことを言って頷いているあー姉ぇに、声をかける。

 やっぱり、彼女にもちゃんとわかった上でこのゲームを楽しんでほしいからな。


「あー姉ぇ、なにもわかってないでしょ? 教えてあげるから密談用のボイスチャンネルにおいで」


「え~? あっ、じゃあみんなにも一緒に説明をしてあげたほうが……」


「みんなはもう理解してるの! ここで教えると説明の繰り返しになるし、ジャマになっちゃうから!」


「お姉ちゃんだってカンペキに理解してるよ~っ☆」


「はいはい、そういうのは密談のほうで聞かせてもらうからねー」


「なんだかイロハサマ、犯人を連行する警察官みたいデス」


 それから数ラウンドはあんぐおーぐの独擅場どくせんじょうだった。

 彼女のチップ減少は0。対して俺たちは……。


   *  *  *


「第9ラウンド時点での所持チップは以下になります!」


 ・所持チップ

  おーぐ  ……25枚

  アネゴ  ……21枚

  イロハ  ……19枚

  オルトロス……19枚

  錬丹術師 ……17枚

  イリーシャ……16枚


「ついに、みんな20枚を割ってきたね」


「ウゥ~っ、ワタシが最下位デス」


「ゆーて、わても1枚差やし似たようなもんよ。イリェーナさん、一緒にがんばろうなー?」


「うちらの中でまだ20枚以上あるんはアネゴはんだけかー。さすが、持っとりますなー。……でも、それより」


「フハハハ! いヤー、勝者ってのは気分がいいナー!」


「おーぐさんが、あれから1枚も減ってないが強すぎる。わてらのジリ貧や」


「ほらほラ、オマエらー。1位さまがヒマしてるゾー? 早ク、決着をつけてくれヨー!」


「ムキー! イロハサマ、悔しいデス!」


 煽ってくるあんぐおーぐに、イリェーナがそう叫ぶ。

 この状況が今後も続くかに思われた、そのときだった。


「……イリェーナはん、許してな」


「エっ?」


 オルトロスがぽつりと呟くように、言った。

 ……ついにきたか。ずっと考えている様子だったから、いつかはこうなるだろうと思っていた。


「おーぐはん。そこまで言うなら、うちがこのゲームを終わらせたるわー」


「ほウ? 最短の4ラウンドとまでは言わないガ、6ラウンドくらいで勝負を決めてくれれバ……」


「いんや。4ラウンドやない。うちはこのラウンド中・・・・・・・に決着をつけたる」


 そして、オルトロスは全員に向かって告げた。



「うちは――このゲームの”必勝法”を見つけた」



「「「ひ、必勝法!?」」」


「さっきのとはちがって、今度は本当の必勝法やで」


「終わらせる? 必勝法? って、いったいどないするつもりなん?」


「いや。じつはこの必勝法、うちには使えへん。それができるのは……アネゴはん、ただひとりや」


「……へっ? あ、あたしぃっ!?」


 あー姉ぇがあきらかに動揺した様子で、視線をキョロキョロさせていた。

 そんな彼女に、オルトロスは伝授する。



「その必勝法とは――アネゴはんが”4枚ベット”を宣言すること」



「って、えぇーっ!?」


「ちょ、ちょ待ってーな! それってまさに、オルちゃんが失敗したエセ必勝法ちゃうんけ!?」


「せやなー」


「ジャア、やっぱりダメじゃないデスカ! その必勝法は1位であるおーぐサンにしか使えないんデス! だからこそミンナ、ランダムにベットしていたワケデ」


「イリェーナはん、そのとおりや。この必勝法は1位にしか使えへんねん。……”1位”にしか」


「えっ? あっ……、あぁあああ~っ!?」


 錬丹術師が叫んだ。

 と同時に、物でも倒したらしくドンガラガッシャンという音が聞こえてくる。


「だ、大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ……ごめんごめん。ちょっと、ビックリしすぎて。もし、わての理解が間違っていなければ、この『”賭けベット”ゲーム』で勝つために必要なチップの枚数は……」


 そして、錬丹術師は衝撃の事実を口にした。



「――たったの”1枚”、や」

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