閑話22『”賭け”ゲーム~第6ラウンド~』


「おーぐさんの『5枚ベット』宣言に加えて、オルちゃんまで『4枚ベット』宣言やて!?」


 錬丹術師系ライバーが驚愕の声を上げる。

 しかし、オルトロスのその発想に俺はすごく納得していた。


 この『”賭けベット”ゲーム』はひとりの勝者を決めるものではない。

 ひとりの敗者を決めるものだ。


 そんな性質だからこそ、現れた戦略。

 たとえ2番目だろうと……勝ちは勝ちなのだ!


「いいい、イロハサマ! どうしマショウ!? コレデ、5枚ベットだけじゃなく4枚ベットもできなくなってしまいマシタ!? 選択肢が3つしかないとナルト、ますます被りヤスク……!」


「うーん、3つじゃ済まないかも」


「エ?」


「ま、待って! そんならわては……これから毎回、”3枚ベット”する!」


「そ、そンナぁ!? ……ハっ!? ソッカ、これって”早い者勝ち”なんデスネ!? イロハサマ、ワタシたちも急いでベット枚数を宣言しナイト!」


 ゲームはまさかのプレ・コミットメント合戦へと突入していた。

 イリェーナが慌てた様子で錬丹術師に続いて宣言する。


「ワタシはこれから”2枚ベット”シマス! ……アっ、でもそうすると残リガ」


 残っているのは”1枚ベット”だけ。

 しかし、プレイヤーはふたり。


 俺と、それから「なるほど?」と状況がわかっていない様子のあー姉ぇ。

 このゲームの敗者はふたりのどちらかに絞られた……かに、思えた。


「あー。みんな、ちょっと落ち着いて」


「イロハはん、豪胆やなー。ほぼ負け確やのに、そない落ち着いとるやなんて」


「だって、まだわたしの負けは決まっていませんから」


「へ? でも、すでにわてらがほかのベット枚数は宣言してもうてるし……」



「――その必勝法には”穴”がある」



「「「なっ!?」」」


「おぉっとー!? これは熱い展開だー! コメント欄も非常に盛り上がっております!」


 あのー、姫殿下? なんかもうゲームマスターというか、実況みたいになってるんですが。

 まぁ、それはともかく……。


「ごほんっ。そのことを今からわたしが証明してあげる」


 俺は仕切りなおすように咳払いし、そう告げた。

 プレイヤーたちが「ごくり」と固唾を飲み、耳を傾けたのがわかった。


「証明ッテ。でもイロハサマ自身がおっしゃられたのデスヨ? 『これは必勝法だ』ッテ」


「それは勘違いだよ。わたしが言ったのは、あくまでそれが”チキンゲーム”の必勝法だってことだけ」


「エっ!? でも実際におーぐサンはこれで優位に立っていマスシ」


「たしかに、おーぐは”チキンゲーム”の要素をこのゲームに持ち込んだ。けれど、冷静に考えてみて? 当たり前のことを言うけど、これはチキンゲームじゃない。そして――このゲームの本質はべつのところにある」


「もうっ、イロハはん。ほんまいけずやわー。もったいぶらずに、その”穴”ってーのを教えてーな」


「あはは、すいません。じゃあ、わたしが今から実際にオルトロスさんの戦法を崩してみせます」


 俺はしばしの溜めを作る。

 静寂が訪れた瞬間を狙うようにして、告げた。



「――わたしはこれから毎ラウンド、”4枚ベット”し続けます!」



「……ほぇっ!?」


 オルトロスがかわいらしい声で驚きを示した。

 それもそのはず、”4枚ベット”はまさに彼女が宣言していたことで……。


「い、イロハサマ!? それでは毎回確実にベット枚数が被ってしまいマスヨ!?」


「そうだねー、被っちゃうねー。そして、被り続けたらどうなると思う?」


「それはモチロン、ふたりともチップが減り続ケテ……アっ!? そういうことデスカ!? 現在のミナサンの所持チップ枚数ハ……!」


 ・所持チップ

  おーぐ  ……25枚

  アネゴ  ……24枚

  イロハ  ……24枚

  錬丹術師 ……23枚

  オルトロス……22枚

  イリーシャ……21枚


 俺も改めて、現在のチップ枚数を確認した。

 オルトロスが持っているチップは22枚。対して俺はそれよりも2枚多い24枚。すなわち……。


「うわー、ほんまや!? それされたら、うち絶対に負けてまうやん!?」


 そのとおりだ。

 先にチップがなくなるのはオルトロス。彼女のひとり負けとなる。


「ほーん。わて、ちょっとだけわかったかも? おーぐさんがこの必勝法……戦法を使えてるのって、持ってるチップの枚数が1番多いからってこと?」


「ナルホド! ほかの人に被せらレテモ、生き残るのはおーぐサンのほうですモンネ」


「……あれ? でも、ちょっと待ってーな。イロハはんは、そのことにいつから気づいてたんや? 口ぶりからすると、もしかして最初っから気づいとったんとちゃう?」


「うっ、鋭いですね。じつは、そのとおりです」


「やっぱり! けど、そうなると不思議やなー。なんでおーぐはんが”5枚ベット”を宣言したとき、この情報を共有して阻止しようとせぇへんかったん?」


「言われてみると変デスネ。たしかそのときはマダ、おーぐサンは単独首位ではなかったハズ」


「じつは、それには事情があって……。みんな、そのときの順位とか覚えてたりする?」


「さすがに細かいところまでは、覚えとらんなー」


「ワタシもデス」


 そうなると、ちょっと説明がしづらいな。

 そう思っていたところに助け舟を出してくれたのは、錬丹術師だった。


「ふっふっふ、わてに任せーい! じつは、毎回きっちりメモ取ったんよ! たしか……」


 ・所持チップ(第5ラウンド時点)

  アネゴ  ……27枚

  おーぐ  ……25枚

  イロハ  ……25枚

  イリーシャ……24枚

  オルトロス……23枚

  錬丹術師 ……23枚


「これで間違いないと思う! みんな、優秀なわてのこと褒めてくれてもええんよ?」


「それでイロハはん、事情って?」


「スルーせんでもろて!? ボケてもツッコまれないときが一番ツラいから!?」


「あの、よく見てほしいんだけど、このときの1位って……あー姉ぇなんだよね」


 そして、俺は魂の奥底から叫んだ。



「たったの10分1ラウンドで、あー姉ぇにこれだけの内容を理解させるだなんて――そんな自信、わたしにはなかったんだよぉおおおっ!」



「「「あっ」」」


「……ほぇ?」


 みんながなにかを察したように声を漏らし……。

 あー姉ぇはなにもわかっていない様子で、首を傾げていた――。

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