閑話20『”賭け”ゲーム~第2ラウンド~』
「アネゴさん、もう大丈夫ですよね? いけますよね!?」
「もうカンペキっ☆ お姉ちゃんに任せなさーい!」
「頼みますからね、ホント!?」
ゲームマスターである姫殿下が、ゲーム崩壊のピンチに悲鳴を上げていた。
な、なるべく俺のほうでフォローするようにしよう……。
「えー、みなさんお待たせしました。改めて、第1ラウンドの結果を反映します。現在、みなさんが所持しているチップの枚数は以下のとおりです」
・所持チップ
アネゴ ……30枚
錬丹術師 ……30枚
イリーシャ……29枚
オルトロス……29枚
イロハ ……28枚
おーぐ ……28枚
「では、第2ラウンドを開始してください」
タイマーがリセットされ、再度カウントダウンをはじめる。
そこからのゲームは比較的、穏便に進行した。
まぁ、多少のトラブルはなくもなかったが。
たとえば……。
* * *
「イロハサマ、すこし密談よろしいですか?」
「え? うん」
そうイリェーナに誘われ、通話を密談用のボイスチャンネルに切り替える。
これで俺たちが話す内容はほかのメンバーに漏れない。
同時に周囲の声も聞こえなくなり、静かになる。
まさしくヒミツの会話、といった雰囲気。
「それで、どうしてわたしを指名したの?」
「じつはソノ、イロハサマとふたりきりでお話ししたいことがアッテ」
「うん、具体的には?」
「……? イエ、ふたりっきりで話すこと自体が目的デスガ?」
「!?!?!?」
「ウェヘヘ~、ふたりっきりですねイロハサマ! これで残りの制限時間、イロハサマをひとりじめデス! こんなことを思いつくだナンテ、サンボケのみなさんは天才デスネ!」
「ぎゃーっ!? だれか助けてーっ!?」
姫殿下も「使いかたは自由」みたいなことを言っていたが、絶対にそういう意味じゃない!?
そう、俺は悲鳴を上げて全体会話用のボイスチャンネルへと逃げ帰ったり……。
* * *
「あー姉ぇ、また5枚もベットしたの!? あの、姫殿下からの説明ちゃんと聞いてたんだよね!?」
「もちろんだよっ☆ けどお姉ちゃんは天才だから、わかっちゃったんだよ姉ぇ~」
「……ちなみに、いったいなにがわかったの?」
「つまり、このゲームは――数字が大きいほど強いんだよっ!」
「ちっがーう!?」
まだルールを理解していなかったの!?
……いや、待て。あるいは、理解していると言えなくもないのか?
5枚ベットはハイリスクだがハイリターンでもある。
それを「強い」と表現することも、できなくはない?
「……あー姉ぇ、わたし信じてもいいんだよね?」
「もちろんバッチリだよ~! ていうか、お姉ちゃん本当は最初から全部ルールわかってたし? これもすべて作戦、みたいなっ!」
「まぁ、そういうことなら」
しかし、あー姉ぇが次のラウンドでベットしたのは3枚だった。
全員が「なんでー!?」と悲鳴を上げた。
行動に一貫性がなさすぎる!?
理由を聞いたら……。
「気分!」
「……そっか~」
「オイ、イロハ。今、理解することを諦めただロ」
「ソンナコトナイヨ」
まぁ、でもべつにそれでいいと思った。
お祭り企画だし、どうせ現状はみんな似たようなもんだ。
ベット枚数が読めないのはあー姉ぇにかぎらず、ほかのみんなも同じ。
しかし、そんなことが数回続いたあと、ゲームの空気は一変することとなる――。
* * *
「お前らー! なんだその腑抜けた戦いはー!? じゃれ合うなー! 私は本気の騙し合いをご所望だ! これはライアーズゲームだぞー!」
「「「え~?」」」
姫殿下がお怒りだった。
しかし、がんばって威圧感を出そうとしているのが、逆に……。
「うぉいっ! コメント欄のお前らもだぞー! 『かわいい』じゃなーい!? そこは『怖い』とか『恐ろしい』って言うところでしょーがっ!」
俺たちからコメント欄は見えないが、案の定イジられているようだ。
振り回されている姫殿下を見て、つい笑ってしまっていると……。
「そういうところだぞー、お前らー! こうなったら仕方ない。まずはこれを見たまえ!」
・所持チップ
アネゴ ……27枚
おーぐ ……25枚
イロハ ……25枚
イリーシャ……24枚
錬丹術師 ……23枚
オルトロス……23枚
「第4ラウンド終了時点の結果がこれだ! とくに最下位のふたり、必死さが足りーん!」
「そない言われてもなー」「わてらもがんばってるんや」
「まだ口答えするかー! ならば、諸君らに敗者の受ける罰ゲーム……じゃなかった。社会的な死がどんなものか、具体的に教えてやろう!」
DithCord経由でなにやらデータが共有される。
その内容は……。
「「「!?!?!?」」」
一気に空気が変わった。
サンボケのふたりが「「ごほっ、ごほっ!?」」とむせていた。
「いくらなんでも、これは恥ずかしすぎるんだけど!?」
「わわわ、ワタシこんなの絶対にムリだゾ!?」
「わっ、ワタシだってそうデス!」
「あははっ! これ最高におもしろい姉ぇ~っ!」
俺たちのお遊び気分も吹き飛んでいた。
ただし、あー姉ぇは除く。
絶対に負けられない、負けたくない。
そんなお互いの思いがひしひしと伝わってくる。
「おー、いい感じにギスってきましたねー! あっ、でもホントのケンカはダメですからねー。……おいコメント、なに笑ってる! 大事でしょーが、そういうのは!」
肝心なところで悪に徹しきれない姫殿下だったが……。
俺たちの意識はしっかりと切り替わっていた。
「さぁ、では空気が引き締まったところで……第5ラウンド開始~っ!」
姫殿下の号令、と同時に動いたのはあんぐおーぐだった。
彼女は全員に向かって宣言した。
「聞ケ、オマエら! ワタシは今後すべてのラウンドで――上限である”5枚”をベットすル!」
「「「なっ!?」」」
こうして真のライアーズゲームはじまった。
本当の騙しあいゲームが幕を上げていた――!
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