閑話19『”賭け”ゲーム~第1ラウンド~』

 ほかの人と被らない枚数をベットする……。

 意外にも、この『”賭けベット”ゲーム』はシンプルだが奥が深そうだ。


「なーほーね! 完全に理解した!」


 あー姉ぇは説明を聞いて、そううなずいていた。

 あの、大丈夫? 本当にルールわかってる?


「1ラウンドは最大で10分。もし時間内にベットできなかった場合、そのプレイヤーは即座に脱落!」


 ゲームマスターである姫殿下が脅すようにそう告げた。

 かなり厳しいルールだな。と、思いきや……。


「そう言いたいところなのですが、あの、本当に脱落されると困るので。なるべく余裕をもってベットしてもらえると助かります。なにとぞ、お願いしますっ!」


>>ゲームマスターめっちゃ下手に出てるの笑う

>>悲しいけどこれ配信なのよね。撮れ高ないと困るから、ちかたないねw

>>実際、1ラウンド目でゲーム終了! とかなったら目も当てられないもんな


「それと全員がベットしたらその時点でラウンドは終了するので、サクサク進めたいと思ったらすぐにベットしちゃうのも手かもしれませんね」


「んっ?」


 俺はその言い回しに引っかかりを覚えた。

 逆にいえば、自分が投票しなければギリギリまで時間を引っ張れる、かのような。


 あるいはこのゲーム、重要なのはチップの枚数ではなく時間のほうなのかもしれない。

 なんとなく、そんなことを思った。


「だれかのチップがなくなった時点でゲームは終了です。なにか質問はありますか?」


「えっと、じゃあわてが質問してもええか?」


 錬丹術師系ライバーが声を上げる。

 姫殿下が「はい、どうぞ」と学校の先生みたいに先を促した。


「チップの受け渡しって可能だったりするんけ?」


「すいません、今回はナシでお願いします。というのも……私ひとりじゃ管理しきれなくなるので!」


>>まぁ、それはしゃーないwww

>>理由が切実で草

>>デスゲームが実在したら運営のほうが大変そうよなw


「ほかになにかありますか? なければ、ゲームを開始したいと思いますが」


「大丈夫です」「だナ」「……? おっけーいっ☆」「ハイ、お願いシマス」


 俺たち4人はそう返す。

 相変わらず、あー姉ぇだけちょっと不安だったが。


「では最後にひとつだけ。私のほうで、全体会話用のほかに密談用のボイスチャンネルも用意してます。こちらでは相手を指名して、ふたりきりでナイショ話をすることが可能です」


「へー、なんやできそうやねー。まぁ、今んとこはとくに思いつかんけどー」


「まぁ、こちらから使い道は指定しないので、そのあたりは自由にやってもらえればと思います」


「フっ、オルちゃん。密室でわてとふたりきりにならないか?」


「変態術師はほっといて、先進めてもろて」


「錬丹術師ね!?」


 サンボケのコントを最後にいよいよ空気が変わった。

 ついに、はじまるらしい。


「なおゲーム中、コメント欄はゲームマスターである私以外は見られませんのでご注意を」


「「「はーい」」」


「みなさん、準備はいいですね? それじゃあ――『”賭けベット”ゲーム』開始~っ!」


 そうしてタイマーが動き出した。10:00……09:59……09:58……。

 同時に、全員の現在の所持チップも表示されていた。


 ・所持チップ

  アネゴ  ……30枚

  イリーシャ……30枚

  イロハ  ……30枚

  おーぐ  ……30枚

  オルトロス……30枚

  錬丹術師 ……30枚


「当然デスガ、最初はみんな同じ枚数デスネ」


「これからどうすル?」


「んー、とりあえずベットしてみるとか?」


「ええんでない? 言っても運みたいなものじゃろ? わて、先にベットしてまうね。……よし、オッケー!」


「早いな~。で、数字なににしたん? うちに教えてーなー?」


「言ったらゲームになんないでしょうが!?」


「1? 2? 3? ……あっ、この反応は3やな」


「わてに心理戦しかけるのはやめてもろて!? 先にベット・・・・・したら、なんか不利になったんですけど!?」


「あははっ」


「……ふム」


 サンボケは姫殿下が抜けたふたりだけになっても変わらぬ調子で漫才をしていた。

 そんなやり取りを聞いて、あんぐおーぐはなにやら考えこんでいる様子。


「おーぐ、どうかした――」


「イロハちゃんイロハちゃん!」


 しかし、訪ねようとした矢先、割り込むようにあー姉ぇに話しかけられてしまう。

 やむをえず、聞き返す。


「えーっと、どうしたのあー姉ぇ」


「あの姉ぇ~……お姉ちゃんがいったいなにしたらいいのか、こっそりアドバイスしてほしいな~なんて」


 ズッコけた。

 というか、小声にしてもそれ全員に聞こえてるからな!?


「あー、まぁ好きな数に賭ければいいんじゃない?」


 実際、最初はみんなテキトーにベット枚数を選びそうな雰囲気だし。

 俺はそう投げやりに返した。


「なるほど姉ぇ~! わかった!」


 ……し、心配だなぁ。

 結局、第1ラウンドはそんな風に雑談だけで、制限時間を半分以上残して全員のベットが完了した。


「では第1ラウンドの結果を発表します」


 ・ベット枚数

  1枚:イリーシャ、オルトロス

  2枚:イロハ、おーぐ

  3枚:錬丹術師

  4枚:

  5枚:アネゴ


「ありゃ、被っちゃったか」


「フフフ。イロハ、お揃いだナ」


「ナ~っ!? ワタシもイロハサマとお揃いがよかっタノニー!?」


「やめて!? ゲームの趣旨が変わってきてるから!?」


 まぁ、でも妥当な結果だろう。

 いきなり、4枚や5枚をベットするのはリスクが大きい。


 かといって3枚は錬丹術師がベットしたっぽいし。

 自然と1枚や2枚に人が集まってしまったようだ。


「へー、あー姉ぇはなかなか攻めたね。初回から5枚もベットするだなんて」


「いや~、イロハちゃんのおかげだ姉ぇ~!」


「へ?」


「ん? だってイロハちゃんが言ってくれたでしょ? 『好きなをベットすればいい』って。あたし、今は5が一番好きな数字なんだよ姉ぇ~! これ、そういうゲームだったんだ姉ぇっ☆」


「全然ルールをわかってないー!?」


「あああ、あのっアネゴさん!? ちょっといいですか!?」


 不安が的中していた。

 慌てて姫殿下が介入し、あー姉ぇへと追加で説明をはじめる。


「すみません、すみません! うちのバカがすみません~っ!?」


 いろんな意味でハラハラするゲームが幕を開けていた――!

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