閑話18『”賭け”ゲーム~トライアル~』


「イロハ!」「イロハちゃん!」「イロハサマ!」


「……ぇ?」


「オイ、どうしたんだイロハ? そんなボーっとしテ」


「いや、わたし……えっと、あれ? どうしたんだろう?」


 俺はキョロキョロとあたりを見渡した。

 顔の動きに合わせて画面の”翻訳少女イロハ”も慌ただしく表情を変化させていた。


 ここはアメリカにある自分の部屋だ。

 なぜか、とても夢見心地な気分だった。


「もうっ、しっかりしなきゃダメだよ~イロハちゃんっ☆ 今は配信中なんだから姉ぇ~!」


「配信中……そっか、そうだったね、うん。ごめん、なんでだろう? なんか、さっきまですっごく”死にたくない”みたいなことを思ってた気がして」


「イロハサマ、おもしろいこと言いマスネ!」


「そうだゾ、イロハ。死にたくないなんテ、そりゃみんな同じだゾ」


「そ、そうだよね。わたしどうかして……」


「そうだよイロハちゃんっ、なんたって今日の配信は……」



「――”デスゲーム回”、なんだから姉ぇ~!」



「んんんっ!?!?!?」


「もうっ、忘れちゃったの? 具体的に言うと……」


 混乱が画面越しにも伝わったのだろう、あー姉ぇが説明しようとする。

 しかし、それより早くどこからともなく高笑いが聞こえてきた。


「ふははは! 諸君、よく来たな!」


>>姫殿下、なにやってんすかwww

>>変な仮面とマントまでつけて

>>中二病はもう卒業しないと……


「うるさいっ! 中二病じゃないから!?」


 姫殿下、と呼ばれたバーチャルライバーが仕切りなおすように「んんっ」と咳払いする。

 そうだった。今日は彼女の企画にお呼ばれしてるんだった。


「今日、キミたちに集まってもらったのはほかでもない。これからキミたちには――殺し合いをしてもらう!」


「イヤやわー、うち死にとうないわー」


「えぇーっ、殿下! わてら死んでまうんすか!」


 姫殿下の発言にオルトロス系ライバーと錬丹術師系ライバーが反応する。

 彼女ら3人は”サンボケ”の愛称で呼ばれているVTuberユニットだった。


 これまで俺個人も彼女たちとは何度かコラボしたことがある。

 とくに姫殿下とは、あー姉ぇに連れ出され一緒にプールへも行った仲だ。


「あっ、いや!? 本当に死んだりしないので大丈夫です! ただ、負けたら恥ずかしいセリフを言ってもらって……社会的に死んでもらう、みたいな感じで!」


>>やさしいwww

>>この運営チョロそうだなw

>>なんて、ほのぼのとしたデスゲームなんだwww


「あと今の私は殿下ではない! ゲームマスターだ!」


「ほーん、わかったわ殿下」「ところで姫殿下~」


「わかってなーい!?」


 サンボケの3人がいつもの漫才を繰り広げていた。

 そこに俺、あんぐおーぐ、あー姉ぇ、イリェーナの4人を加えた総勢7名。なかなか大型のコラボだ。


 ファンとしてはサンボケのやり取りを永遠に聞いていたいところだが、これじゃあいつまでも話が進まない。

 イリェーナが「あの~」と恐縮そうに、声を出す。


「姫殿下サン、そろそろルールの説明をお願いしてもよろしいデスカ?」


「わーっ!? ごめんなさい! では今回、キミたち6人のプレイヤーに参加してもらう『ライアーゲーム』の内容を発表しよう!」


>>相変わらずギリッギリの名前してんなぁw

>>いいかげんに怒られろwww

>>わくわく……


「今回、行うゲーム。それは……『”賭けベット”ゲーム』!」


「「「ベットゲーム?」」」


 そう俺たちは首を傾げ……。

 なぜか、あー姉ぇが「イロハちゃん!」と興奮した様子で俺に話しかけてきた。


「べべべ、ベッゲームなんて!? そんなのえっちすぎるよ~!?」


「お前はなにを聞いてたんだ!?」


「あーでも、お姉ちゃん……一緒のベッドに入るなら、相手はイロハちゃんがいいな~なんて」


「あー姉ぇと同じベッドなんて、死んでもゴメン・・・・・・・だーーーー!?」


「あれ? ちがった? じゃあットの……」


「オイ、アネゴー。進行のジャマだからちょーっと静かにしてようナー?」


「……えーと、こほんっ。ではルール説明ですが、せっかくなので練習を兼ねて1度プレイしてみましょうか。イロハちゃんとおーぐさん、協力してもらってもいいですか?」


「了解です」「もちろんダ」


「まずプレイヤーには30枚ずつチップが配られます」


 姫殿下がOVSを操作したらしい。

 俺たちの立ち絵の脇に、それぞれ積み上げられたチップのイラストと『30』という数字が表示された。


「そして、プレイヤーが行うのただひとつ――チップを”賭けベット”すること、それだけです」


「えっ!? ベットするって、なにかに対して賭けるわけじゃないんですか?」


「はい。このゲームでは、だたベットだけを行ってもらいます」


「それは……また、とんでもなくシンプルというか」


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう! ただし、ベットする枚数には制限があります。最大で5枚、最低でも1枚は必ず賭けてもらいます」


「うーん、まだピンとこないかも」


「マぁ、とりあえずやってみればいいんじゃないカ?」


「そうだね」


「賭ける枚数は個別にチャットで送ってくださいね」


 俺は姫殿下にDithcordで『3』というメッセージを送った。

 あんぐおーぐも送ったようだが、その数字は俺にはわからない。


「はい、プレイヤー全員のベットが確認できました。では結果を発表します」


 ・ベット枚数

  1枚:

  2枚:

  3枚:イロハ

  4枚:

  5枚:おーぐ


 いったいなにが起こるのか。

 ごくり、と俺たちは固唾を飲み……。


「今回はだれも枚数が被らなかった・・・・・・ので、ベットしたチップは返却されます」


 ・所持チップ

  イロハ……30枚

  おーぐ……30枚


 あ、あれー? なにも起こらない?

 俺とあんぐおーぐの所持チップはゲーム開始時と変わらず、30枚のままだった。


「いや、”被らなかったから”ってことは」


「はい。もしだれかと枚数が被ってしまった場合、そのプレイヤーがベットしたチップは没収となります」


「……! なるほど、そういうことか」


 ベットできる枚数は1~5枚。

 そして、練習ではふたりだけだったが、実際のプレイヤーは全部で6名。



 つまり、必ずだれかは――ほかのプレイヤーと被ることになるのだ!

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