第348話『えらいえらいえらい!』
あんぐおーぐが俺の手を引いてベッドまで歩いていく。
俺たちはそのまま……手を繋いだまま、並んでベッドに腰かけた。
キシ、とベッドのスプリングが小さく軋む。
お互いの呼吸音と、触れ合う肩から伝わる熱がやけに印象的だった。
《そ、その……ママぁ》
《なぁに?》
あんぐおーぐが甘えた声で俺のことを「ママ」と呼んだ。
俺もなるべく優しい声音で返し……耐えきれなかった恥ずかしさを誤魔化すように、すこし顔を隠した。
《あ、あはは。やっぱりちょっと照れるね》
《そ、そうだな》
それはあんぐおーぐも同じだだったようで、恥ずかし気に身体を縮こまらせていた。
そんな彼女を見て、「よし」と俺は意を決して行動を起こした。
《おーぐ》
《なんだ?》
《……ぎゅ~っ!》
《ほ、ほへぇぁっ!?》
あんぐおーぐの体はとても小さくて華奢だった。
まぁ、あまり俺も他人のことを言えないんだけど。
そのまま自分のほうに引き寄せ、もたれかからせる。
まるで”抱っこ”しているような姿勢に彼女を誘導する。
《どどど、どうしたんだイロハ!? こんなにも積極的だなんて!? なんか――”いつもとちがう”ぞ!?》
《そ、そんなことないよ。ただ、ほらっ! たまにはご褒美をあげようかな~って。おーぐはいつもすっごくがんばってるよね。わたし、知って
《そう言われると、悪い気はしないっていうか》
《おーぐはえらい、えらい。よしよ~し》
《はわわわ~!?》
頭を撫でてあげているうちにだんだんと、あんぐおーぐの表情が溶けていく。
やがて、完全に赤んぼうと化し……。
《ママぁ~~~~!》
あんぐおーぐはベッタベタに俺に甘え、抱き着いてくるようになっていた。
それから自分の欲求を素直に口に出してくる。
《あのね、ママ。ワタシ、のどが乾いたなーって。なにか飲ませてほしいなーって》
そう言って、ちゃっかりベッドの上に持ち込んでいた赤ちゃんグッズを視線で示してくる。
俺はくすりと笑ってあんぐおーぐに言った。
《へぇ~、またわたしに飲ませてほしいんだ? おーぐはとっても甘えんぼさんだね》
《い、今のワタシは赤ちゃんだからいいんだっ》
《あはは、そうだね。おーぐはわたしの赤ちゃんだもんね~。でも、本当に赤ちゃんグッズのほうでいいの?
《「どっち」?》
ピンときていないらしく首をかしげるあんぐおーぐの耳元に、俺は顔を寄せた。
そして、甘い声でささやく。
《哺乳瓶のミルクか、それとも――ママの
《!?!?!? えっ、それって……えぇっ!?》
《ほら、早く答えないと勝手に決めちゃうよ? さーん、にぃー、いーち……》
《アワワワ!? そ、その!? ママの、イロハのおっぱいがいい!》
《へぇ~?》
俺はその返答を聞いて、ニヤニヤとあんぐおーぐを見た。
彼女は自分がなにを言ったのか遅れて気づいたらしく、べつの意味で顔が赤くなる。
《ち、ちがっ!? 今のは!?》
《ちがうの?》
《ち、ちがわない、けどっ!》
《ちがわないんだ? わたしのがいいんだなんて……おーぐのえっち》
《なぁ~っ!? だ、だってオマエが選んでもいいっって言うから!》
《ウソウソ。今のおーぐは赤ちゃんだからね。……いいよ》
《へ?》
俺はちらりと服をまくって、お腹まで素肌をさらす。
あんぐおーぐの視線がそこにクギづけになり、「ゴクリ」とのどが鳴った。
《え、ジョークじゃなくて? ほ、本当にいいのか?》
《……》
俺は答えず、さらに服をたくし上げていく。
胸元が見えるか見えないか、ギリギリのラインのまでやってくる。
《はぁっ……、はぁっ……》
あんぐおーぐは興奮のせいだろう、息が荒くなっていた。
吸い寄せられるように俺の胸元へと顔が近づいてくる。
《イロハ、いいんだよな? ワタシ、もう……!》
やがて、ガマンできなくなったように彼女が俺に抱き着いてくる。
その瞬間、俺は……。
《――はいっ、ウッソ~~~~!》
顔はギリギリでバッと服をおろしていた。
あんぐおーぐの顔面が「むぎゅっ!?」と服の胸元にぶつかる。
《……!? ……!?!?!?》
まだ頭が追いついていないらしい。
あんぐおーぐがぶつかった自分の鼻頭を押さえながら、俺の顔と胸元を交互に見てくる。
《やーい、おーぐ。引っかかってやんの~! さすがにそこまでさせるわけないじゃんっ! これはね~、赤ちゃん配信なんて黒歴史を作らされた仕返しだよ》
ほかにもアドベントカレンダーのプレゼントがおしゃぶりだったり……。
あとは配信中、俺の記憶がないうちにずいぶんと好き勝手やってくれたらしいことへの報復だ。
《ま、これくらいは当然の権利だよねっ。いや~、おーぐの恥ずかしい姿がいっぱい見れちゃったな~?》
「いつもとちがう」って言われたときはバレたかと焦っちゃったし、動揺して嚙んじゃったし、ネタバラシが楽しみでついつい”笑み”がこぼれてしまった。
けれど、無事に成し遂げられて大満足! 俺がそう笑っていると……。
《……オイ》
《ん? なぁに……ひゃぅっ!?》
ギシっ! とベッドが揺れた。
なぜか俺はあんぐおーぐに押し倒されていた。
《え、えーっと? おーぐ?》
《……吸わせろ》
《え?》
《吸わせろ~~~~!》
《ぎゃぁ~~~~!?》
なぜか、あんぐおーぐが完全に暴走していた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます