第334話『平均的な言語は存在しない』
>>日本人を怒らせると怖いぞ。なんたって美少女にされるからな(宇)
>>↑なんという拷問(宇)
>>↑なんというご褒美(宇)
<だから、そっちじゃなくてギジン法です!>
コメントにイジられて、イリェーナが改めて訂正の言葉を口にしていた。
俺は笑いながら、話を先へと促す。
<擬人法って「風がささやく」とか「ペンが走る」とかだよね?>
<はい。最初のころは、物を人みたいに”ヒユ”的に表現されるたびに一瞬「ん?」となっていました>
<言われてみると不思議な言い回しかも>
<そうなんです! けれど、さっきのコメントを見てすこしだけ思ったことがあります>
<「美少女にされる」って話で!?>
<ですから、そちらではなく!? 八百万の神ってほうです! もしかすると、ギジン法とギジン化は関係があるのかもしれない、と。どちらも宗教観が影響を与えているように感じました>
<それは……どうなんだろうねぇ>
<けれど実際、日本における”神さま”の捉えかたは特殊ですよね?>
<良くも悪くもフランクというか。どこにでもいるもの、という考えに近いからね。わたしも「ひと粒のお米には7人の神さまがいる」って、ごはんを残さず食べるように教えられたし>
>>神さまを食べる!? やはり日本はクレイジー(宇)
>>イロハちゃんは神をも喰らうビッグガールだった?(宇)
>>今日のイロハちゃんはデケェ(宇)
<いやいや、あくまで比喩だからね!? 「水、土、風、虫、雲、太陽……それから作る人。その7つが揃ってようやくお米はできている」って意味で!?>
>>7人の神さまって”七福神”かと思ってたんやけど、ちがったんか
>>まぁでも、海外ほど神さまを崇めているかと聞かれると微妙なのはたしか
>>わりと簡単に「神」って単語使いがちやしなぁ
<イロハサマは”神”です! あとイロハサマの新曲もマジで”神”なので、ミナサン聴きましょう!>
>>イロハちゃんは神(宇)
>>イロハちゃんは神。間違いない
>>↑いや、イロハちゃんは天使やろ
<あ、あはは……けど、たしかにねー。たとえば、近年の英語は宗教に配慮して「
>>「
>>あとは「
>>日本語だと英語でいう「God」と「gods」みたいな区別もないよね(米)
<そうだね。海外ほど明確に一神教の神さまと八百万の神さまが区別されてるわけじゃあないかも>
唯一神――固有名詞ゆえの大文字と、そうではない一般名詞ゆえの小文字、みたいな差もない。
ちなみに、これは雑学だが……一人称の「I」に関しては、大文字になっているのはそういった事情ではなくただの印刷の都合上、見えづらかったからだとか。
<……と、ずいぶんとたくさん語りましたね>
<そうだね~>
<いろいろ話していて、ワタシは改めて思いました。日本語はすっごく特殊だと>
>>だよなー。自分が使ってる言語だけど、心底そう思ったわ
>>まったく、これから日本語を勉強するってのに……苦労させられそうだぜ!(米)
>>日本語って本当に変わっているよね(宇)
<……うーむ>
<イロハサマ、どうかされましたか?>
<あぁ、いや。そろそろ訂正しておくべきかなーと思って>
<えっ? もしかしてワタシ、なにか間違えていましたか!?>
<あっ、いや! ごめん、今のは言いかたが悪かった。間違ってるわけじゃないんだけど、正確でもない部分があるから、言っておいたほうがいいかなーってだけで>
<ええっと? それはいったい?>
<じつはね、さっきから挙げてくれてる日本語の特徴って……>
<――ほとんど全部、韓国語にもあるんだよね>
<え、えぇえええ!? 日本語特有のものじゃなかったのですか!?>
<もちろん全部が全部、同じってわけじゃないけれどね>
>>マジ???
>>えっ、どれも日本語だけのものだと思ってた
>>なんかめっちゃ似てるなーと思いながら聞いてたwww(韓)
<じつは、語順も同じだし、敬語も「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3種類あるし、助数詞も多いし、なんならオノマトペなんておそらく韓国語のほうが豊富だし>
<し、知りませんでした>
<イリェーナちゃん、さっきから日本語が「特殊だ」って言ってるでしょ? それは大正解。ただ、もっと正確にいうと……日本語にかぎらず、すべての言語が特殊で特別なんだよ>
<……!>
<英語も特殊だし、ウクライナ語も特殊だし、韓国語も特殊。平均的な言語、なんてのは存在しないから>
たとえば、例外がひとつもないように作られたエスペラントという人工言語があるのだが……。
あれだって「例外がひとつもない」という例外になってしまっているし。
とはいえ、言語によってそれぞれに得意不得意は存在する。以前も話したが、日本語なら”翻訳”とか。
そのあたりはプログラミング言語と同じだな。
<なんだかこうなると、逆にどうしてそこまで日本語と韓国語が似ているのか気になりますね>
<収斂進化的に似ていったのか、それとも言語が交わったからなのか、はたまた地理や気候の問題か。そのどれかかもしれないし、あるいは全部かもしれない。今はまだわからないかな>
<イロハサマ……言語って、おもしろいですね!>
そんなイリェーナの言葉に、俺は「うん!」と強く頷いた――。
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