第333話『VTuberこれくしょん -Vこれ-』

<ほかにも英語での、ものの数えかたにはおもしろいのがいくつもあって……たとえば『ライオンのプライドア・プライド・オブ・ライオンズ』と書いて”ライオンの群れ”になったり>


<それ、ちょっとカッコいいです>


<ほかにもカラスは”殺人”だし、ネズミは”イタズラ”、さっき話に出てたバッファローは”ギャング”だったり。いろいろ>


<へぇ~。知りませんでした>


<まぁ、あんまり一般的な数えかたでもないから。けれど、日本語の助数詞にはない遊び心を感じるよね>


 本当に、言語のおもしろさはどこまでいっても尽きない。

 これ以外にも英語での動物の数えかたは何百種類とあるので、調べてみるといろいろ発見も多いかも。


<結構、こういうところに海外の……アメリカ人の価値観や感性が、はっきりと出やすいし>


<価値観や感性、ですか。これはワタシの持論ですが、やはり言語を学ぶにはその国の文化も一緒に学ぶ必要があると感じます。というより、避けられない問題というか>


<そういえば前にも、ウクライナに帰郷したとき日本とのギャップがスゴかった、って言ってたよね>


<そぉおおおなんです!>


<おおうっ!?>


 イリェーナがすごい勢いで食いついてくる。

 なにやら、ずいぶんと語りたいエピソードがあるようだ。


<日本では食事の前には、「いただきます」と言う習慣がありますよね?>


>>食材や農家の人、料理を作ってくれた人に感謝を捧げる言葉だよね(宇)

>>ウクライナにはない言葉だな(宇)

>>こっちでも食事前に使う言葉がないわけじゃないけれど(宇)


<ですね。ただ、それは「食事を楽しもう!」という意味が強くて、あまり感謝の意味は含まれません>


<アメリカでもそうだね。宗教によって、食事前に大地や神に祈りを捧げることはあるけど、日本語の「いただきます」とはかなりニュアンスがちがうかも>


<ウクライナは、文化としては日本よりはアメリカのほうが近いですし、よくわかります。というより、島国である日本が”特殊”すぎるだけかもしれませんが>


>>それを言われるとなんも反論できんwww

>>もし日本で、なにも言わずにいきなり食べはじめたら失礼だと思われてしまうだろうね(宇)

>>↑こっちでの乾杯のあいさつみたいなもんか(宇)


<それです! ワタシが一番語りたかったのは!>


<ど、どうしたのそんなに興奮して>


<ウクライナでは、食事の前に口上のようなものを語ります。たとえば「健康のため」とか具体的に言う必要があって、かつ長ければ長いほうがいいです>


<うへぇ~>


 なんとも、日本人がニガテそうなことだ。

 得意なのは校長先生くらい。いや、アレはむしろ短くしてほしいが。


<もしそれを言わなかったり、ひと言で終わったりしたら「ん?」ってなります。ワタシが帰省して友だちと食事したときも……状況的に、ワタシが一番多く語る必要があって>


 なるほど……。

 日本文化に染まってしまったイリェーナにとっても、それは同じということだろう。


<わたしも、そういうスピーチみたいなのあまり得意じゃないから苦労しちゃいそう>


 アメリカのハイスクールではプレゼンテーションやスピーチ、発表する機会が非常に多い。

 そのせいもあって、なかば強制的に慣らされてはいるものの……。


<あっ、べつに話す内容はなんでも構わないので、VTuberのことでも大丈夫ですよ>


<それなら余裕! いくらでも語れる!>


>>おいバカ、やめろ!?(宇)

>>イロハちゃんにVTuberのことを語らせたら、いつまで経っても食事がはじまらなさそう(宇)

>>ウクライナ人ですら辟易させるイロハちゃんis何者


<なので、ワタシもイロハサマのことを布教しておきました!>


<……んんんっ!? あれっ!? 苦労したって話じゃなかったの!?>


<いいえ? イロハサマのかわいさは世界共通という話をしたかっただけですが>


>>草(宇)

>>これはイリーシャだわ(宇)

>>オレも次の友だちとのディナーで、布教しとくわ(宇)


<そ、その話はもう十分だから! ほかに、日本とウクライナで文化のちがいってあったりする?>


<そうですね。ウクライナには他人に対して笑顔……愛想笑いをする文化がありません。笑顔は親密な相手にだけ見せるもの。そうではない人に笑顔を向けるのは逆に失礼、という考えがあります>


<えっ、そうだったの!?>


<はい。だから日本のかたが笑顔で話しかけてきたら、警戒してしまうウクライナ人は多いと思います>


<ぶ、文化って難しいね>


<けれど、べつに不機嫌なわけじゃないので誤解しないでもらえると助かります。同時にワタシたちも、相手を不愉快にしてしまわないように気をつけないといけませんね>


<うーん、知らなかった。というか気づかなかったなぁ。イリェーナちゃんって、わたしに対していつも……というか最初っから? 満面の笑みを向けてくれていたイメージがあるから>


<それは当然ですね! だってイロハサマには家族へ向ける以上の、とびっきりの笑顔を見せてますから!>


<……そ、そうなんだ。ありがとう>


<いえいえ! ワタシの本心ですから!>


<お、おう>


>>イロハちゃんが押されてるwww

>>↑押されてるし、推されてるなw

>>なんだかんだ、イロハちゃんはこうやってストレートに気持ちを伝えられると弱いとこある(宇)


<ほかに日本特有の文化というと、物を人のように扱うことが多いですよね? ほら、日本人はよく物を”ギジン化”させますし>


>>国、戦艦、刀、動物……細胞まで、日本人が擬人化してないものを探すほうが難しいね(宇)

>>日本では万物に八百万の神が宿るというし、おそらくはそれらも偶像崇拝の一種じゃないかな(宇)

>>↑すまん。「萌える」かどうかしか考えてないわw


<……ま、間違えました。”ギジン法”で表現することがある、って言いたかったんです>


<あははっ。そっちか>


 イリェーナがすこし恥ずかしそうに、訂正した。

 けれど、俺も擬人化って嫌いじゃない。どころか大好きだ。


 なんたって……VTuberにだって、そういうモチーフはとても多いからな!

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