第314話『ゲーム実況の存在意義』

「ヒャッホォオオオ! キャッホォオオオ! イエェエエエイ!!!!」


>>イリーシャ落ち着けwww

>>うれしすぎて発狂してんの草

>>まぁ、気持ちはめっちゃわかるけどな!


「いや~、本当は遠慮したかったんだけれど、このままだとソロ曲なしでVTuber国際イベントを迎えちゃいそうだったから。それはさすがに困る、って運営の人から言われて」


>>そりゃ運営の人も困るわwww

>>それで、ついに歌から逃げきれなくなったわけかw

>>これまでは数少ない歌枠や、有志が作った”棒読みイロハ”の曲で慰めるしかなかったからうれしい


「マサニ、そのとおりなのデス! ワタシもこれまで出た”ぼイロ曲”……ボイス□イド曲ならぬ棒読みイロハ曲はすべてチェックしてマスガ、やはり本家オリジナルのソロ曲には代えがたい価値ガ……」


「そんな略されかたしてるの!? 初耳なんだけど!? え~、じつは今回の作曲はそんな”ぼイロ曲”? を作っているPにお願いしていたり。正確には、本人から『オレに作らせてくれ』って連絡がきたんだけど」


「そうだったのデスカ!? Pサン、よくやりマシタ!」


「で、その関係で曲中にちょっとした仕掛けもあったり? PVは近日公開なので、ぜひお楽しみに~」


「ハーーーーイ!!!!」


「す、すごくいいお返事。そして、最後に! デモ版ではまだ実装されていない……というか出ないようになっているのですが、正式実装のときにはシークレットキャラクターがガチャから排出されるとか?」


「ワタシたちもマダ、詳細は知らされてナクテ。すっごく楽しみデスネー!」


>>マジかよ! 今回のコラボどんだけ力入ってるんだ!

>>シークレットだれだろう?

>>みんないいなぁ……日本語版と英語版しかないから、オレにはプレイできないんよなぁ(宇)


「あっ……」


 ウクライナ語のコメントが俺の目に留まる。

 そうか、イリェーナのファンはウクライナ語圏やロシア語圏の人が多いが、このゲームはまだ……。


 しかし、一朝一夕で解決できる問題でもない。

 俺が言い淀んでいると……。


「大丈夫デス!」


 イリェーナがそう断言した。

 彼女は自信と、それから慈しみの満ちた声で告げる。


「そういう人のタメニ――ワタシの配信があるのですカラ!」


「……!」


 俺は今まで、そんな風に考えたことがなかった。

 ゲーム実況系の配信は、ただその人のリアクションを楽しむだけじゃないのか。


 いろんな事情でそのゲームがプレイできない人とも、おもしろさを共有することができるのか。

 イリェーナは俺に憧れてVTuberになったと言っていたが、すでに俺よりもずっと先を……あるいは俺とはちがう、自分だけの道を切り開いて歩いていた。


「けれどワタシとしては……やっぱり言語を覚エテ、自分でもプレイして欲しいデス! そこでイロハサマ、よけレバ……ワタシと語学配信をしていただけまセンカ!?」


「もちろん!」


 そういうコラボのお誘いなら大歓迎だ。

 むしろ、俺からお願いしたいくらいだと思った。


>>マジ? 次回コラボの約束?

>>うれしい! 楽しみにしてる!(宇)

>>ちなみにASMRのほうもまたコラボしてくれもええんやで?


「ナルホド!? イロハサマ、というわけでぜひASMRコラボも併セテ!」


「抱き合わせ商法やめて!? さっきまでイイハナシだったのになー!? わたし、絶対にイヤだからね? だってイリェーナちゃんエッチなことするんだもん!」


「ししし、しまセンヨ?」


「じぃ~」


「……でも事故は起こるカモ」


「ほらぁー!?」


「ワーっ、冗談! 冗談ですカラ! しませんから”普通に”ASMRしマショウ!」


「本当だよね? わかった。じゃあいいよ」


「そんなこと言ワズニ……、エっ?」


>>!?!?!?

>>もしかして今、「いい」って言った???

>>あのイロハちゃんが!? 最近、あっちこっちでデレまくりやんけ!?


「エェエエエ!? ほほほ、本当にいいんデスカ!? 大丈夫デスカ、勘違いされてまセンカ!? ASMRコラボ、デスヨ!? わかってマスカ!?」


「そんなに確認しないでも。けど、1回だけ……だからね?」


「~~~~っ! ヤッター!」


 まぁ、ご褒美とお礼みたいなものだ。

 イリェーナの活動への。


「じゃあジャア、いつやりマショウ!?」


「ストップストップ、落ち着いて! まずは語学配信、でしょ?」


「そうでシタ」


「それに今、わたしはアメリカで……オフコラボは難しいし。けど、1~2ヶ月後に一度日本に帰ろうと思ってるから。できれば、そのときイリェーナちゃんに会いたいな」


「もちろんデス! 必ず予定を空けておきマス!」


>>くっ、なかなか焦らされるな!

>>1〜2ヶ月後っていうと年末くらいか?

>>ん??? ちょっと待って? それってもしかしてクリスマスじゃ!?


「あーっと、イリェーナちゃん! じゃあ、それまでにASMRのシチュエーション考えておいてね?」


「わかりマシタ! ……初夜にスルカ、新婚の朝にするか悩まシイ」


「なんでその2択!? まぁ、その話は置いておいて、語学のほう……直近で予定が空いてるのっていつ?」


「少々お待ちくだサイ。ワタシのスケジュール送リマス」


「了解。予定合わせて準備でき次第、みんなにも告知するね。……というわけで、今回の配信はここまで!」


「イロハサマ、イロハサマ!」


「ん?」


<だーい好き!>


「げほっ、ごほっ!?」


「というわけで、”プヴァーイ”!」


「お、”おつかれーたー・ありげーたー”!」


>>大規模イベントに向けてか、発表や告知の多い配信で大満足だった

>>イロハちゃんに動揺がwww

>>おつかれーたー&またね~!(宇)


「あ~、イリェーナちゃんめ。最後の最後にしてやられた」


 配信が切れたあと、俺はそう呟いた。

 不意打ちだったから、ついむせてしまった。


 その後、イリェーナからもらったスケジュールを確認して、直近で俺の空いてる日を伝える。

 即座に「了解です!」と返信がきた。


 もう何度言ったかわからないが、こういうとき個人勢は強い。

 企業Vだと……とくに最近のあんぐおーぐがそうなのだが、”仮押さえ”――『この日かこの日かこの日のどこかで収録します!』みたいな不確定の予定が多くて、なかなかコラボできないからなぁ。


「語学配信、か。……ふふっ」


 無意識に自分が笑っていたことに気づく。

 どうやら俺もずいぶんと、イリェーナとのコラボが楽しみになっていたらしい。


   *  *  *


 と、そんなゲームの宣伝配信をした翌日。


《イロハ……ちゅっ、好きだぞ》


《ダメっ……おーぐ、そんなとこっ……やん、んっ!?》


 なかば日課のように、リビングで俺があんぐおーぐにイタズラをされていると……。

 バーーーーン! といきなり玄関の扉が開かれた。


《《!?!?!?》》


 えっ!? カギかけ忘れてた!?

 にしてもこんなにハデに扉を開ける人物なんて……いや、ひとり心当たりがいた。



「――イロハちゃん、おーぐ! 遊びに来たぞ~~~~!」



 予想通りというべきか、なんというか。

 視線を向けたそこには、元気ハツラツといった様子のあー姉ぇが立っていた――。

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