第311話『ファンとして対極のふたり』
自分をユニットに組み込むことで、理想のVTuberハーレムを作れる。
そのコメントを見て俺は……。
「はぁあああ!? なに言ってるの? わたしの考えた最強ユニットに、わたし自身が入る余地あるわけないでしょうがぁあああ!? わたしの推しを貶めるようなこと言わないでくれる!?」
>>ヒェっ、ごめんなさい……
>>えぇぇ……?
>>イロハちゃんブチ切れで草
>>ガチ勢怖すぎてワロタ
>>イロハちゃん、ファンとしての一線には厳しいからなぁw
>>彼はきっとまだ新入りなんだ、許してあげよ?www
怒りだした俺にコメント欄はドン引き、というかおもしろがっていた。
俺はハッとして謝罪する。
「あっ、いや!? こっちこそ、ごめんね! つい! でも、上等な料理にハチミツをぶちまけるみたいなことをいきなり言うから!」
俺はVTuberと絡みたいわけではない。
しいていうなら、VTuberが絡んでいるのを見守る壁でありたいのだ。
「そうだよ! だから、自分の理想のハーレムを作るなんて……なんて……、はぅぁ~」
>>おい、今ちょっと想像しただろw
>>悪くないな、とか思っただろwww
>>微妙に心揺れ動いてて草
「う、動いてないし!? ナイナイ、絶対にナイから! そ、それよりも! さっきからイリェーナちゃんがやけに静かな気がするんだけど、いったい……」
「アァ~~~~ン、モウ! イロハサマかわいスギテ、ハワワワァ~~~~!」
「あっ、ちがうこれ!? 大声で叫びすぎて、逆に
「ヤバイデス、イロハサマのキャラクターがかわいすぎマス、尊すぎマス。なんですかコレ!? ハァ、ハァ……ワタシ、もう死んでもイイ!」
「早まらないでーっ!?」
>>イロハちゃんと対照的に、こっちはよろこびすぎてキャラ崩壊してるの笑う
>>なるほど。だからこそ、このふたりでの宣伝だったのかもな
>>お互いに盛り上がりポイントの凸凹がうまく噛み合っておる
「あのー、イリェーナちゃん? 次を引きに行ってもいいかな?」
「ハァ、ハァ……アーモンドみたいに大きなくりくりおめめ、あどけない笑顔、まるで妖精のごとく小さな体躯、華奢な手足。すべてがよく表現されてイテ、これを書いた絵師サマはきっと神サマにちがいありマセン!」
「なんかもうイリェーナちゃんって、もはや日本人以上に表現力……いや、もう次いくからねー?」
「アァっ!? イロハサマー、お待ちくだサイー!?」
「あとで好きなだけ見ればいいから。それよりもわたしはイリェーナちゃんが早く欲しいの!」
「アァウ~っ!?」
そんなわけでガチャを続行。
最高レアリティ以外にも、たくさんの個人勢VTuberをゲットできて俺は大興奮だった。
実装されたら、必ず全キャラをカンストで揃えなければ!
そう決意し、そして……。
『――”ドーブロホ・ランコ”! イリェーナ、デス!』
「っしゃあぁあああ! ついにイリェーナちゃんがキターーーー! いや~、今回は早かったなー! まさか沼らずに来てくれるとは!」
>>そうだな! ギリギリ天井に届かなくて済んだもんな!
>>この引きが本アカで来てくれればなぁ
>>あの……? みんな勝ったみたいな雰囲気出してるけど、十分に爆死してるんですがそれは
「ななな、なにを言ってるのかな!? 天井行かなきゃ実質ゼロみたいなとこあるし? それにほら! 最初にわたし自身だったとはいえ、最高レアも引き当ててるから! それを差し引いたらセーフだよ!」
>>そ、そうだぞ! これでもいつもより全然マシなんだぞ!
>>まぁ引けたといっても、これデモ機なんですけどね
>>確率操作なんてなかった
「うぐっ!? い、いいもんいいもん! 正式に実装されたときは、もっと早く引くから!」
>>それはムリ
>>絶対ムリ
>>天地がひっくり返ってもムリ
「そこまで否定しなくてもよくない!? というか、ヤバっ!? 時間が!?」
こういった案件配信は「どれくらいの時間なにをする」というのが依頼を受ける際に決まっている。
俺がなかなかガチャで引けなかったせいで、イリェーナのターンに費やす時間が……と、焦っていたら。
「イロハサマ、ご安心ヲ! 沼っているご様子でしたノデ……」
「沼ってはないよ?」
「イロハサマが沼っていたノデ、並行して裏でワタシもガチャを引きはじめていマシタ! ソシテ、先に自分のユニットも完成させておきマシタ!」
「だから沼ってないって言ってるのに!?」
「どうぞイロハサマ、ご覧くだサイ! これがワタシの考えた最強のユニット、デス!」
イリェーナのプレイ画面を表示させる。
編成の内容は――『イロハ』『イロハ』『イリェーナ』『イロハ』『イロハ』。
「なんかわたしがいっぱいいるー!? もはや恐いよ!? 狂気だよ!?」
「フヒヒヒ……! イロハサマがイッパイ! イロハサマハーレムをワタシがひとり占め……アァっ、なんて天国ですかココハ! これは神ゲーデス!」
「ひぃーーーーんっ!?」
俺はいろんな感情の混じった悲鳴をあげた――。
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