第310話『理想のハーレムを作ろう!』

 俺とイリェーナの久々のコラボ配信が開始していた。


>>イロハロ~

>>どーぶろほらんこ!

>>今日はASMRしないの?


「しないよ!? むしろ、なんでASMRすると思ってるの!? ちゃんと配信のタイトル見た!? 今日はソーシャルゲームの告知なんだけど!?」


「はうぅ~ン! イロハサマとのコラボ……アァっ、幸せデス!」


「イリェーナちゃんも早く戻ってきてね~? はい、というわけで告知するんだけど……みんなも思ったよね? なんで、わたしたちがこのゲームの宣伝を? って」


 このゲームは大手2大事務所や、その親会社からの出資で運営されている。

 なのに個人VTuberである俺たちが宣伝役に選ばれた。その理由は……。


「イリェーナちゃん、いくよ? せーの……」



「「このたび……わたしワタシたちのキャラクター実装が、決まりましたマシタ~!」」



 口で「ドンドンパフパフ~」と言いながら、シルエットだった画像を差し替える。

 そこにはゲームキャラとして描かれた、翻訳少女イロハやイリェーナの姿が写っていた。


>>うおぉおおお~! ついに来たか!

>>これは石貯めとかないと!

>>正直、そうだろうと思ってたwww


「『理想の箱を作ろう』こと『はこつく』において初のコラボガチャが実装です! 今回のガチャにはわたしたち以外にも、国際イベントに参加するたくさんの個人勢VTuberが登場します」


「なかでもワタシとイロハサマが最高レアリティに設定されていることもアッテ、この度は宣伝役を仰せつかりマシター! ハァ~、イロハサマがかわいスギル!」


「いやいや、そういうイリェーナちゃんやほかのみんなこそかわいすぎる!」


「!!!! イロハサマがワタシのことをかわいいッテ! これはもう結婚するシカ……!」


「いや、それはちがう。ちょっと近づかないでもろて」


「イロハサマ!?」


 イリェーナが自分の立ち絵を寄せてきたのと同じだけ、俺は自分の立ち絵を遠ざけた。

 いや、バーチャルだからASMRのときみたいなことは起きないってわかってるんだけど、本能的にね……。


>>拒否られてて草

>>まぁ、前科があるからなw

>>オフコラボをきっかけに、逆に距離感遠くなってね?


「で、今日は運営から端末をお預かりしていまして、なんでも先行プレイさせてもらえるとか」


「ワタシのところにも1台届いていますノデ、それぞれでユニットを組んで実装予定の期間限定イベントに挑戦したいと思いマス」


「というわけでさっそくわたしから、ガチャを引いていきます!」


>>あっ、これは長くなるぞ

>>ゆーてデモ機やろ?

>>これ引けなさすぎてゲームのネガキャンにならない? 大丈夫?


「失礼すぎない!? さすがに、わたしもそこまで運が悪くない……とは、言わないけど」


「イロハサマならありえマスネ……ガチャ、ワタシが引きまショウカ?」


「うるさーい! ヤダヤダヤダ、絶対にわたしが引くの! わたしが引きたいの!」


「マァ、デモ機なので何回引いてもかかるアイテムは0個デスシ、構いまセンガ」


 そんなわけで、俺の手元にもあるデモ機の映像を配信画面に反映させた。

 ガチャの選択画面が表示されている。


「よーし、じゃあ10連いくよ。イリェーナちゃん来い、イリェーナちゃん来い……!」


「そこは宣伝的ニ、イロハサマご自身を狙うべきなのデハ!?」


「いや、それはそれ。これはこれ」


 ガチャムービーが流れる。どうやらコラボガチャということで、これも専用映像のようだ。

 と、驚くことにすぐさまキランと画面が虹色に光った。


「えっ!?」「エっ!?」


>>これ確定演出では!?

>>イロハちゃんなのにしょっぱなで来た!?

>>デモ機だから、確率操作という名の温情があった説


「だ、だれ!? 引いたのは……」



『――”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハです!』



>>イロハだーーーー!

>>うわ、めっちゃイラストに力入ってるやん!?

>>くっそかわいい!!


 画面の中で翻訳少女イロハがポーズを取り、いつものあいさつをしていた。

 それを見て俺は……。


「あぁ、なんだぁ……。わたしかぁ……」


>>露骨にテンション下がってて草

>>イロハちゃん、自分に興味ないからな……

>>宣伝配信として、そのリアクションはどうなんだwww


「わ、わーい。うん、最高レアだし……うれし……う、れ……あーもう、仕方ないでしょ!? だって、わたし自身はわたしの推しになりようがないんだから!?」


>>開き直るな!www

>>自分を誤魔化しきれなかったかw

>>これ引けたの確率操作じゃなくて、物欲センサーが働いてなかったから説


 今まで制作したグッズやコラボ商品なんかでも、よくサンプルをもらうのだが……。

 俺はいずれもほとんど、マイや、欲しいと言ってきた知り合いのVTuberに配ってしまっている。


 同じように、ガチャで自分のキャラを引いても……。

 と、そんなことを考えていた時、ひとつのコメントが目に入った。


>>けどイロハちゃん――自分をユニットに組み込むことで理想のVTuberハーレムを作れるんじゃない?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る