第309話『100日後……』


「イロハちゃん、ようこそ来てくださいましたー!」


 俺はVTuber国際イベントの宣伝のため、あんぐおーぐの所属する事務所の生配信に呼ばれていた。

 画面には白猫VTuberと翻訳少女イロハ、それからイベントの宣伝画像が表示されていた。


>>うおぉおおお~!

>>イロハロー!

>>ここでイロハちゃんが呼ばれるということは……


「おー、みなさんカンが良いですねー! 中止になってしまった前回に引き続き、なんと! イロハちゃんがイベントの司会進行役を担当しています! わー、パチパチ!」


「至らない点も多いかもだけど、精一杯がんばるから応援してね~」


「いやいや、イロハちゃん……いや、イロハさん! なーに言ってんすか! この超国際イベント、世界各国からVTuberが集まるんですよ?」


「たしか今回は、前回よりさらにマシマシで……VTuberの総参加数が100名超えてるんですよね? 国数もすごいことになってるとか?」


「そうですよー! 自信持ってください、というか……全員と言葉を交わせるのなんて、イロハさんをおいてほかにいないんですから!」


「え……えへへ~。そういわれるとー」


 白猫VTuberは頭の回転が早ければ、舌が回るのも早い。

 あー姉ぇたちの日本事務所で看板娘になっているのもうなずける。


 それにノリも良くて、ヨイショされるとつい気分がよくなってしまうな。

 たとえ俺の実力ではない、借りもののチートであっても。


「我々も裏で準備してたんですよねー」


「ねー!」


>>ねー、かわいいw

>>イロハちゃんの体力が持つか心配

>>開催時間も長くなってるっぽい?


「そうなんです! 今回のイベントは前回よりもパワーアップしてるんです!」


「わたしもさすがにその間ずっと担当、はできないから。日本語や英語のVTuberさんについては、ほかのVTuberさんと分担しながら行う予定です。というか、そうしないとわたしが推しのライブを見れな――」


「はーい、それはさておき。具体的な内訳については、ぜひ当日をお楽しみに! 予約開始日は日本時間で……、開催場所は……、記念グッズの事前販売は……」


 イベントの詳細を順番に発表していく。

 白猫VTuberがスムーズに、俺は解説にときおり外国語を交えながら進行していく。


 ひとしきり国際イベントについての情報を出し終えたたところで、「さて」と話題を切り替える。

 表示されたのは、俺がドハマりしているVTuberのソーシャルゲームだ。


「じつは、今回の国際イベント開催に合わせて、ほかにも重大発表があるとか?」


「はい、そうなんです! わたしもドハマりして、プライベートでやりこんでるこのゲームに……」


「ああーっと、残念! ここで生配信の終了時間がやってきてしまったー!」


>>な、なんだとーっ!?

>>おい、ここまできって出し惜しみとかwww

>>頼むから、続きを教えてくれ!


「みなさん、気になっているようですねー。イロハちゃん、この先の情報はどこで知ることができますか?」


「明日、わたしのチャンネルでイリェーナちゃんとコラボ配信を行う予定です。続きはそこで発表の予定なので……ぜひ、お楽しみにー!」


>>イロハちゃんとイリーシャ?

>>ASMRで一線超えかけちゃった例のコンビか

>>この組み合わせ……って、いったいどんな発表になるんや?


「というわけで、今日の配信はここまでー! みなさん、ご視聴ありがとうとうございみゃしたー!」


「”おつかれーたー、ありげーたー”。ぜひ、現地チケットやライブ視聴チケットの予約お願いしまーす!」


>>おつかれさみゃー

>>おつかれーたー

>>おつおつ。絶対に予約するわ! あと明日の配信も見る!


「……ふぅ~」


 配信が切れたことを確認して、息を吐く。

 さすがに公式配信に呼ばれたのははじめてだったから、緊張した。


《イロハ、もう入っても大丈夫か?》


《あ、おーぐ。うん、大丈夫だよ》


 部屋がノックされ、あんぐおーぐが入ってくる。

 ゲーミングチェアに腰掛ける俺に、彼女が後ろからぎゅっと抱き着いてきた。


《おつかれ、イロハ。オマエにワタシの元気を分けてやろう》


《ありがとー。けど、わたしよりおーぐのほうが体力必要なんじゃない?》


《……これから忙しくなるな》


《だねー》


 ふたりして画面に映してある国際イベントの宣伝画像を眺めていた。

 残された時間は3~4ヶ月。長いようで、一瞬。


《おーぐは明日も収録だよね?》


《だなー。そういうイロハはイリェーナちゃんとのコラボだろ?》


《そうなの! いやー、楽しみだな~!》


《……ムゥ~》


《ぐぇっ!? ちょっと、おーぐ! 絞まってるから!》


《ジョーダンだ》


《冗談なら緩めてほしいんだけど!? 苦しいままなんだけど!?》


《明日、あんまりハッチャケすぎるなよー。ワタシはイリェーナちゃんとの面識はないんだが……イロハ、あんまりなかよくなりすぎたらダメだからな》


《なんじゃそりゃ? 大丈夫大丈夫、オフコラボじゃないしASMRのときみたいなエッチなことにはならないって。ヨユーヨユー、心配しすぎー……って、おーぐ? ちょ、ますます絞まってるから!?》


《オマエがなんの危機感もなく、無防備すぎるから。危ないって教えてやってるんだ》


《暴論だー!? あと、さりげなく匂いを嗅がないで!?》


《スーハー、スーハー。イロハエネルギー充填中……》


《もうっ……!》


   *  *  *


 そんな生配信や、あんぐおーぐとのやり取りがあった翌日。

 俺は今日も今日とてパソコンに向き合っていた。


「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす! ……と?」


「”ドーブロホ・ランコ”! イリェーナ、デス!」


 久々の、イロハ×イリェーナのコラボ配信がはじまる――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る