第287話『ネットフレックス・アンド・チル』
「オーぅ↑ バレてしまいましたカぁ↑」
「ば、バンチョー……」
スラングを使って、こっそりエッチな約束を取りつけようとしていたバンチョーがあっけらかんと言う。
俺はパソコンの前でガクリと崩れ落ちた。
「イロハ、オマエちょっとは人を疑うことを覚えロ!? いつも無防備すぎるゾ!」
「ううっ」
「あト、さっきワタシのおっぱいのことコメントで言ってたヤツ。覚えておけヨ」
>>あっ、やべ……
>>おいおい、死んだわオレw
>>イロハちゃんと結婚したい人生だった(米)
「しないから!? って、そういえばおーぐ。今日は丸一日、収録だったはずじゃ? もう終わったの?」
「がんばっテ、超ソッコーで終わらせてきたからナ!」
「へぇ~。見たい配信でもあったの?」
「オマエを基準にするナ!? まったク、ワタシがなんのためニ……、ハァ」
>>ドンマイ、おーぐw
>>1秒でも長くイロハちゃんと一緒にいるためにがんばったのになwww
>>イロハちゃんは鈍感だから、はっきり言わないと伝わらないぞ
「……そうなの? わたしに早く会いたくて、急いで帰ってきたの?」
「ナっ!? そ、そんなストレートに聞くか普通!? ワタシにソレを言わせるつもりカ!?」
「いや、おーぐ……ちゃんと収録を優先してくれる? いちファンが苦言を呈するのも、おこがましいけれど」
「オマエぇーーーー!?」
>>伝わったうえで拒否られてんのは草
>>イロハちゃん、優先順位が「おーぐの配信>おーぐ自身」だからなぁw
>>これだからイロハは……(米)
「……でも、ありがと」
「んグっ!? ゲホッ、ゲホッ!?」
>>んんんっ!?(米)
>>今、イロハちゃんがデレた!?!?!?
>>もしかして、これって天変地異の前触れか?
「あら^~↑」
「イロハ、オマエ人前デ!? ……えーっト、アー、センパイ! ワタシはまだ許してないからナ!」
「ちなみニぃ↑、『センパイ』はアメリカだと『年上の好きな人』という意味ですネぇ↑ イヤぁ↑、参っちゃいますネぇ↑ イロハネキとの約束もあるのニぃ↑、おーぐからもこんな風に思われテぇ↑」
「おーぐも浮気してるじゃん」
「チガッ!? ワタシが一番好きなのはイロハだけだっ!?」
「えっ」
「アっ、イヤ!? 今のハ、そノ……」
あんぐおーぐがチラリと伺うようにこちらを見る。その頬は赤くなっている。
俺もすこし照れくさい。顔が熱い。
「もしかしてワ↑タシぃ↑、おジャマですカぁ↑」
「うっ、うるさいゾ、バンチョー!」
「オーぅ↑ センパイじゃなくなってしまいましタぁ↑」
「あと、イロハとの”ネットフレックス”の約束は無効だからナ! イロハは絶対に渡さないかラっ!」
>>おーぐからイロハ大好きオーラがダダ洩れやなw
>>なんだか最近、本気でふたりの距離が縮まっている気がするよ(米)
>>もしかして、指輪ってガチなやつ? 結婚式には呼んでくれ。必ず参列する
「だから、そういうのじゃ!?」
だんだんと、大ごとに……!? あとに引けなくなってきていた。
と、今度こそ本当に締めの時間。
「いヤぁ~↑ 今日はイロハネキにたくさん恥ずかしいワードを言わせられて大満足でしタぁ↑ これはワ↑タシの”
「わたしはもうこりごりですけどね!?」
「というわけデぇ↑、サンキュー・フォー・ウォッチングぅ↑ ミナサンぅ↑……さよ”
「ちょっ、最後の最後までぇ~!?」
そうして、バンチョーとの『※下ネタ注意』な配信は幕を下ろした。
きちんと接続が切れたことを確認して、声を出す。
「……はい。バンチョーさん、お疲れさまでしたー」
「こちらこソぉ↑、お疲れさまでスぅ↑ 今日はコラボぉ↑、サンキューございましタぁ↑」
「いえいえ。まぁ、想像の10倍、大変でしたけどね!」
「アハハぁ↑ ソーリーませんでしタぁ↑ ……うーンぅ↑ そのお詫びというワケではないのですガぁ↑ イロハネキキぃ↑、さっきの配信中に『テストがヤバい』って言ってましたよネぇ↑?」
「え? まぁ。次のテストで良い点数を取らないと、ゲームを禁止されちゃいそうで」
「じゃアぁ↑、ワ↑タシでよければ勉強を教えましょうカぁ↑?」
「えっ!? いいんですか!?」
バンチョーは超がつくエリートだ。
まぁ、高学歴になった理由は「働きたくなかったから」だけどな!
彼女の経歴はいろんな意味ですさまじい。
まず、一般的な大学に通っていたのだが……就職活動がしたくなさすぎて、起業した。
そして、親には自分がその会社から内定が出たと報告。
実際には学生時代のバイト代で食いつないで、ニート生活を開始。
しかし、だんだんと誤魔化しきれなくなってくる。
やむを得ず、今度こそ就職……だけは絶対にしたくなかったので、猛勉強を開始。
超がつく名門大学に入学し直した。
そんな、スーパーエリートだ。……スーパーニートともいう。
「任せてくださイぃ↑ モラトリアムを限界まで享受するテクニックにだけは自信あるのデぇ↑」
「わー、ありがとうございます! ぜひ、お願いします!」
まさか、こんな意外なところから勉強問題が解決に向かうとは。
やはり持つべきものはVTuberだな!
「じゃアぁ↑、ワ↑タシがイロハの勉強の……”
「わかっとるわー!?」
「それじゃアぁ↑、またあとで予定送りますネぇ↑」
「はーい。それじゃあ、また~」
最後に英語圏の人には日本語の「伸ばし」がわからない、というネタが挟まれつつ通話を終える。
と、ジぃ~っという視線をとなりから感じた。
《え? なに、おーぐ?》
《……オマエ、まさか本当にバンチョーと浮気するつもりじゃないだろうな?》
《んなわけあるかぁーっ!?》
そもそも浮気ってなんだ、浮気って!
俺とあんぐおーぐは付き合ってない! ……すくなくとも今はまだ。
「まったく。……ん?」
呆れながら俺は視線をあんぐおーぐから外し、気づく。
なぜか、過去に類を見ないくらいの大量のメッセージが届いていた。
「うげっ!?」
送信者はマイとあー姉ぇとイリェーナだった。
俺はひしひしと面倒ごとの気配を感じていた――。
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