第286話『”スリル”満点な彼女』

「まさカぁ↑、イロハネキがチンチンを準備中だったとハぁ↑」


「その言いかたは語弊がある!?」


 俺はもう”チンチン”の話はこりごりだった。

 指摘されたバンチョーが言い直す。


「失敬ぃ↑、指輪リングを準備中だったとハぁ↑ これは”もう、てぇてぇ”ですネぇ↑!」


「い、いや!? そういうのじゃなくて!」


「ちなみニぃ↑、”もう、てぇてぇ(MAU TETE)”というのは『おっぱいが欲しい』という意味のインドネシア語ですネぇ↑」


「だから、そんなピンポイントでインドネシア語が混ざるかーっ!?」


>>隙あらば下ネタで草

>>てぇてぇ、けどイロハちゃんに「てぇてぇ(おっぱい)」は……

>>だからこそ「もう、てぇてぇ(おっぱい欲しい)」なのでは? すなわち、ないものねだり


「余計なお世話だーっ!?」


「ところでイロハネキはぁ↑、10回クイズって知ってますカぁ↑?」


「いきなりですね!? まぁ、知ってますけど。絶対、変なひっかけするつもりでしょ!?」


「じゃアぁ↑、『バブー』って10回言ってくださイぃ↑」


「ひっかけどころか、ド直球だー!? だから、わたしはそこまで幼くないって言ってますよね!?」


ぁ↑……赤ちゃんだけニぃ↑、落ち着いてくださイぃ↑ あくまでクイズですかラぁ↑」


「ヤダヤダヤダ! 絶対にイヤです!」


「ふームぅ↑ イヤイヤ期に突入してしまいましタぁ↑ 子育ては難しいですネぇ↑」


「ちっがーう!? ……あーもう、わかった! 言えばいいんでしょ、言えば!?」


 俺はなかばヤケクソ気味に了承した。

 なんだか、うまいこと乗せられてしまった感が拭えなかったが……。


「よーシぃ↑、キましたヨぉ↑!」


「えーっと。バブー、バブー、バブー、バブーバブーバブーバブーバブーバ”ブーバ”ブー……」


 指折り、カウントしながら言う。

 これでちょうど10回……。


「ちなみに『ブーバ(Booba)』は『おっぱい』を意味するイングリッシュのスラングですネぇ↑」


「やっぱり、ハメられたぁーーーー!?」


 インドネシア語を警戒していたところに、また英語の下ネタだった。

 でもひとつ、言い訳させてくれ!


 世界には何千という言語があるのだ。方言も含めればもっと。

 だから大抵の言葉は、どこかしら……べつの国では下ネタになっているもので。


「クソ野郎どモぉ↑ ワ↑タシを讃えロぉ↑ イロハネキにいっぱい・・・・”おっぱい”って言わせることに成功したゾぉ~↑」


>>うおぉおおお! よくやった!!!!

>>赤ちゃんはおっぱいが大好きだからね、仕方ないねw

>>最近、イロハちゃんを見てると私の母性が刺激されて……うっ、大丈夫? おっぱい揉む?


>>クソっ、おっぱいを求められると……おーぐに勝ち目がっ!

>>↑wwwwww

>>↑↑おーぐにだって、ちっぱいがちゃんとあるだるろぉん!?


 ……まぁ、だからといって下ネタを言わされたという事実は変わらないのだが。

 あとお前ら、おっぱいは揉まないし、あとであんぐおーぐに怒られても知らないからな?


「って、そうだ! 時間! バンチョーさん、そろそろ!」


「おおっトぉ↑、もう配信終了時間ですカぁ↑ まだまだ言い足りないのニぃ↑」


「十二分だよ!? こっちはもうお腹いっぱい通り越して、胃もたれ起こしてるよ!?」


 俺は「ぜぇー、はぁー」と荒い息を吐きながらツッコむ。

 いやほんと、時間が有限でよかった! ようやくこの地獄配信から解放される!


「いヤぁ↑、イロハネキぃ↑ いろいろブっこんでしまってソーリーませんでしタぁ↑」


「えっ」


 意外にもバンチョーから最後に、俺を気遣うようなセリフが飛んでくる。

 もしかして、じつは彼女もすこし「やりすぎてないか?」と心配していたのかもしれない。


「ま、まったくですよ、もう! すっごく大変だったんですからね! まぁ、でも……」


 俺はすこしだけ気恥ずかしさを感じながら答えた。

 バンチョーのファンとして……。


「そういうところまで含めて、わたしはバンチョーのことが大好きだから。……えへへ」


「~~~~!?」


「ば、バンチョー?」


 なぜか、声にならぬ声をバンチョーが上げていた。

 それから、わざとらしく「ハァ、ハァ」と息を荒らげて言ってくる。


「え、ちょっと待っテぇ↑? イロハネキがキュートすぎねぇかオマエらぁ↑? 決めましタぁ↑ 今日からワ↑タシもロリコンになりまスぅ↑」


「わたし、当たり前のようにロリ扱いされてる……」


「ところで今度ぉ↑、ワ↑タシと一緒に”ネットフレックスを見てくつろぎ”ませんカぁ↑?」


「え? まぁ、それくらいな全然いい……」



「――いいわけあるカぁーーーー!?!?!?」



 そのとき、バァン! と俺の部屋の扉が開いた。

 あんぐおーぐの叫び声が配信にまで乗っていた。


>>おーぐキターーーー!!(米)

>>正妻きちゃーーーー!!

>>これはヨメ、激おこですわwww


「ちょっと、おーぐ!? 今、配信中なんだけど!? 部屋に勝手に入ってくるのは、マナー違反……」


「ウルサイ、ウルサーイっ! 堂々と浮気の約束をしようとしていたオマエが悪いんだロ!」


「うっ、浮気ぃ!?」


「オマエ今、とんでもない約束をさせられようとしてたんだからナ!?」


「……? それってどういう?」


「だって『ネットフレックスを見てくつろぐネットフレックス・アンド・チル』は――『エッチする』っていう意味のスラングだゾ!?」


「!?!?!? ば、バンチョーさんぅううう!?」


 お、お前ぇえええ!?

 ちょっと和解できたと思った、俺の気持ちを返せぇーーーー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る