第285話『婚約指輪』

「世のメンズはおしっこしたいとキぃ↑、カタくなってたらいったいどうするんでしょウぅ?」


「なんでそれを配信中に疑問に思っちゃうかなぁ!? あとじゃダメだったのかなぁ!?」


 俺はなかば叫びながら、そうバンチョーへとツッコんだ。

 あと、しづらいがべつに出るこた出る。


「ちなみにイロハネキは『えんぴつペンシル』の語源を知っていますカぁ↑?」


「今、それを聞くのあきらかに悪意ありますよね!?」


「ちなみに正解ハぁ↑、ラテン語でいう『小さいペニス』ですネぇ↑」


「勝手に正解発表しないでー!? でも、ほらっ! 『ペン』のほうは語源が『羽』ですから! 昔、ペンといえば羽ペンだったから!」


>>イロハちゃん必死で草

>>へ~、ペンとペンシルって似てるのに語源違うのか

>>ちなみに男性(メイル)と女性(フィーメイル)も、似てるけど語源が違うよ(米)


>>元はちがう単語でも、だんだんともう片方に似てきちゃうらしいな

>>↑そういうのを、単語の”対称性”って言うんだっけ?

>>そういえば、ホワイトボードを使ってるのに書くのはえんぴつなんだね(米)


「え? ……うわっ、本当だ!?」


「イエースぅ↑」


 バンチョーはこれまでホワイトボード上で文字を手書きしてきたのだが……。

 そのカーソルがなぜか、えんぴつのデザインだった。


「まさか、最初からこの話題になることを見越して? いや、わたしはずっと誘導されていた!?」


 俺は戦慄した。な、なんて恐ろしい女なんだ、バンチョー!?

 だってこれは、つまり……企画準備の段階で、すでにこの話題をすると決めていた、ということだ。


 いや、「遠慮しなくていい」と言われても、相手が未成年なら普通は手加減しちゃわないか!?

 やはり彼女はぶっ飛んでいる。ガンギマっている。


「イロハネキ知ってますカぁ↑? 動物によってはチンチンに骨があるんですヨぉ↑」


「へ~、それは知りませんでした」


「ちなみニぃ↑、人間のオスのチンチンにも”骨がある”んですけどネぇ↑」


「えっ!? ウソっ!?」


 俺は思わず、前世の記憶を探った。

 ……いやいやいや、バカな。そんなはずは!?


「って、あ~! わかりました。騙されませんよ! 今の『気骨がある』っていう意味の慣用句でしょ!」


 危ない危ない。うっかり釣られるところだった。

 こういうの、最新の研究だとじつは……みたいなこと、本当にあったりするからなぁ。


「イロハネキぃ↑、ノンノンですヨぉ↑ そうではありませンぅ↑」


「え? じゃあ、本当に骨が?」


「ハイぃ↑ なんたってチンチンにハぁ↑……『勃起(boner)』がありますからネぇ↑」


「どアホーーーーっ!」


>>またちょっと、引っかかりかけててワロタ

>>イロハちゃんピュアだなぁw

>>結局は下ネタジョークじゃねぇか!www


「ところデぇ↑……」


 と、バンチョーは言った。

 次の瞬間、俺は固まることになる。



「――ミナサンはぁ↑、イロハネキのチンチンのサイズ知ってますカぁ↑?」



「……ぇ?」


 あまりの衝撃で一瞬、言葉が出なくなった。

 俺のブツの大きさだって? なんでいきなり、そんな話題になる?


「いや、……その、なに……言って。わ、わたしはそんなの知らないし」


 動揺と混乱でしどろもどろになる。

 今の、俺の身体は女性だ。当然、ついてるはずがない。


 つまり、バンチョーは……俺の前世に勘づいている?


>>イロハちゃんはじつは男の娘だった!?

>>こんなにかわいい子が女の子のはずないだろ、ふざけるな!

>>んなわけあるかwww


>>でも、一人称が「俺」になることあるよね

>>正直、イロハちゃん頭良すぎて人生2周目かと思うことあるわ

>>じゃあ、前世が男でその記憶があるとか?www


「イロハネキぃ↑、本当にわかりませんカぁ↑? ミナサンもきっと知りたいですヨぉ?」


「……わたしは、その、本当は」


「アっ↑ ちなみに……」



「――『チンチン(CINCIN)』ってインドネシア語で『指輪』のことですけどネぇ↑」



「紛らわしいわぁー!?」


 あっぶねぇーーーー!?

 セーフ! ギリギリセーフ! 動揺して、危うく口を滑らせかけたー!?


「ワ↑タシはインドネシア語もすこし齧っているのデぇ↑、うっかりイングリッシュじゃなくてソッチが混ざってしまいましタぁ↑」


「絶対ワザとだ!? そんなピンポイントでインドネシア語が混ざるかーっ!?」


「けどイロハネキぃ↑、これで動揺したということはまさカぁ↑……」


「えっ」


>>イロハちゃん、だれかから指輪をもらったのかい!?(米)

>>逆じゃね? もらったんじゃなくて、だれかに渡すために指輪を準備してるとか

>>たんにチンチンって単語に動揺しただけだろ


>>いや、チンチンについては今日、すでに散々言われてるし今さら動揺する理由ないでしょ

>>オレもイロハちゃんのチンチンのサイズ知りたいわ。個人的に婚約指輪とか作りたい

>>ていうか、みんなチンチン言いすぎで草


「……そ、そう! じつは指輪のプレゼントを準備中で! あ、あははー。これ本当は内緒だったのになー。あー、みんなのせいでバレちゃったなー」


>>いったい、だれに渡すんだ?

>>やっぱり、ヨメといったらおーぐでしょ!(米)

>>いやいや、元祖にして頂点のアネゴだろ?


>>それをいうならアネゴ妹のほうじゃない?

>>最近はガチ恋勢のイリーシャもいるぞ(宇)

>>え、マジでだれにプロポーズするんだろ。めっちゃ気になる……!


「え、えっと!? あ、あはは……だ、だれかなー?」


 俺はあいまいに笑った。

 なんだか、誤魔化そうとして余計に面倒なことへ足を突っ込んだ気がした――。

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