第284話『虹色スパチャ』


 バンチョーがトイレに行くや否や、青スパが大量に投下される。

 忘れていた。バンチョーがスパチャ芸人と呼ばれていることを。


「ちょ、ちょっと待ってみんなストップ!? ここバンチョーじゃなくてわたしのチャンネルだからね!?」


 このスパチャ芸は、俗に『水流し』と呼ばれている。

 青色のスーパーチャットを流れる水に見立てて、トイレを表現しているのだ。


「そのスパチャはバンチョーのチャンネルで投げてあげて!?」


 そう叫ぶが止まらない。

 青に混ざって、黄色や赤色もときおり混ざる。


 それらはおしっこや血尿を表現しているが……。

 はっきりいって、高額スパチャ以外のなにものでもない。


「お願いバンチョー! 早く帰ってきて〜!?」


 さっきまでは「早く行ってくれ!」と願っていたのに、感情が大忙しだった。

 幸い、バンチョーはトイレRTAができるほどのスピードの持ち主だ。


 すぐに帰って……だ、ダメだ~!?

 そういえば、今回は大小両方なんだった!?


「みんなストップ!? バンチョーが見てないときに投げても仕方ないでしょうが!?」


>>たしかに?

>>なるほど

>>一理あるな


「ほっ、よかった。みんな理解したくれたみたいで」


>>本人が見てないってことはつまり……、今が投げどきってことだな!

>>¥10,000

>>¥5,000

>>¥2,000

>>¥1,000

>>¥500

>>¥200

>>¥100


「バカなの!? って、虹スパぁーーーーっ!?」


 きれいに赤から青色までのスーパーチャットが全色、並んでいた。

 これこそ、スパチャ芸の極致だった。


 ちなみにこれ、間にほかのコメントが入るといけないため、普通にやっても成功率が低い。

 成功率を上げるためには、複数端末を用意するなどして同時に投げる必要があったり……まさしく、石油王にのみ許された娯楽だ。


「バンチョ~! 助けてぇ~!?」


「イロハネキに呼ばれてる気がしたからソッコーで帰ってきましたヨぉ↑」


>>はっや!?

>>ちゃんと手ぇ洗った?

>>ちっ、投げる前に帰って来ちまった


「バンチョー! 会いたかったです……!」


 俺はそうこのスパチャ攻撃から助かったことに安堵し……。

 しかし、バンチョーはすぐさま言い放った。


「いヤぁ~、チャージライフルみたいなオシッコ出ましたヨぉ!」


「ごほっ、ごほっ!? 表現!?」


「ついでニぃ↑、子どもをプールに置いてきましタぁ↑」


「!?!?!?」


>>ファっ!?

>>英語で『大をしてきた』の隠語だね(米)

>>↑ビビった。いつの間に子持ちになったのかと


「すいません! やっぱり帰って来てもらわなくて結構です!」


 バンチョーがいてもいなくても大変なんだが!?

 しかし、彼女は留まるところを知らずに畳みかけてくる。


「そういえバぁ↑、うんちしたときに”ポセイドン・キス”食らっちまいましタぁ↑」


>>ポセイドン・キス?

>>ウォシュレットのことか?

>>ステキな表現だなぁ


「ノぉー↑ うんちしたときに水が跳ねテぇ↑、おしりにかかることですネぇ↑」


「もうヤダぁーーーー!?」


 なんかもう、ここまで来ると逆にすごいな!?

 無限に下ネタが出てくるんだが!?


 それに、そういうシモの話についてすごく開けっぴろげというか。

 いや、これはバンチョーにかぎった話ではないか。


「なんというか、アメリカの人ってトイレまわりにあまり羞恥心とかないよね」


「なに言ってるんですカぁ↑ 全人類、食って寝て出すもん出すんですかラぁ↑、なにも恥ずかしいことじゃあないでしょウぅ↑?」


「そうなんですけどね」


 その考えかたはすごく合理的でいいと思う。

 ハイスクールでの授業中も、みんな遠慮せず「トイレに行ってくる」と教室を出ていくし。


 いや、これに関しては休み時間が短すぎるだけかもしれないが……。

 しかし、日本の授業中みたいにガマンしてしまう子がいるよりかは、ずっと健康的だ。


「わたしもハイスクールの”バスルーム”でトイレするとき……」


>>イロハちゃんがお風呂でおもらしするだって!?

>>↑また典型的なボケをwww

>>レストルームじゃなくて? 「バスルーム」ってお風呂が併設されてないトイレにも使うの?


「あっ、ゴメン。今のはクセで。ハイスクールでもみんな、家のトイレの延長線で……学校のトイレのことも『バス』とか『バスルーム』って呼ぶから。あと『おもらし』って言った人は覚えておいてね?」


>>あっ

>>ご愁傷さまwww

>>イロハちゃんはもう、おねしょとおもらしは卒業済みだもんね!


「みんな、わたしのこと赤んぼうかなにかと勘違いしてない!?」


「そうだイロハネキぃ↑、今度一緒に”おしがま”配信でモぉ↑」


「絶対にやらないからね!? ……話を戻すけど、アメリカのトイレってほんと開けっぴろげなんだよね。扉の上下がすごく開いていて、覗き込んだら見えるくらい。いや、覗かなくても足がガッツリ見えてるし」


>>うげっ、それはイヤやなぁ

>>緊張して出るもんも出なくなる

>>まぁ、防犯対策もあるから仕方ない。向こうじゃ「見える」より「見えない」ほうが怖いから


「それに”音媛オトヒメ”もないし。そもそも、用を足しているときの音を恥ずかしい、と思う感覚がない感じ」


「アぁ~↑、アレですカぁ↑ 逆にアメリカから日本に来たワ↑タシは最初アレを聞いテぇ↑、ついに日本人はトイレにこだわりすぎテぇ↑、ミュージックルームまで兼任させはじめたのかと思いましたネぇ↑」


 なるほど、音を気にするという概念がないとそんな認識になるのか。

 それは、ちょっとおもしろいな。


「音を聞こえなくするのと、音を気にしないの。どっちが良い悪いって話じゃないけどね。……あっ、でも1点だけ本当に気にしてほしいことがあった」


「なんですカぁ?」


「お願いだから、トイレットペーパーの直置きだけはヤメてほしい!」


「……アぁ~↑」


 ほかにも犯罪に使われないようトイレにカギがかかっていて、借りるには声をかける必要があることなどもあるが……そっちは言えば済む話。

 しかし、トイレットぺーパーだけはどうにもならない苦痛だった。


「まぁ、トイレの話はこの辺にして……」


「アぁっ↑、そういえばワ↑タシぃ~↑、ずっと気になってたことがあるんですよネぇ~↑」


「なんですか?」


「世のメンズはおしっこしたいとキぃ↑、カタくなってたらいったいどうするんでしょウぅ?」


「ブーーーーっ!?」


 俺は思わず吹き出した。

 そして、予想していなかった。まさかこんなアホな話題で……。


「ワ↑タシぃ↑――イロハネキのチンチン・・・・に興味がありまスぅ↑」


「!?!?!?」


 前世のことがバレかけるだなんて――。

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