第279話『第2回ガチャ配信』


「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす。というわけで、第2回ガチャ配信だ~!」


>>イロハロ~!

>>キタぞーーーー!(米)

>>待ってた!!!!(韓)


「今回は待ちに待った、あー姉ぇの最高レアの実装だからねー! わたしとしてはやっぱり、その完凸を狙っていきたいところ!」


 あの一件があってから、マイやイリェーナ……そして、あー姉ぇと頻繁に連絡を取っている。

 それもあって、ますますモチベーションが上がっていた。


「まぁ、さすがに前回は下振れすぎだったし、今回はそこまで酷いことにはならないと思うけどね! なにより前回とちがって、引くのは排出率に補正が入ってる……ピックアップ対象だけでいいんだから!」


>>あっ

>>今、フラグの立つ音が聞こえたなw

>>さて、今回も長い戦いになりそうだ(韓)


「ちょっと、引けない前提やめてくれる!? というか、今回は早めに引けないと本当に困るんだって! だって前回のせいで、ガチャで使える金額に上限を定められちゃったから」


>>草

>>やっぱり、イロハママに怒られたのかwww(米)

>>オレが親でもそうするわw自分の娘がこんなお金の使いかたしてたら不安すぎるwww


「そんなわけで今回は、引けなかったらその時点で終わりだからね」


 もし最後まで引けなければ、来月までおあずけだ。

 しかし、そのころにはガチャのピックアップが変わってしまうし……。


「実質、チャンスは今回だけ。気合を入れていかないと。むふーっ!」


>>安心しろ、イロハちゃんにはオレたちがついてる!

>>イロハちゃんがッ アネゴを引くまで 赤スパで殴るのをやめないッ!

>>あれ、ちょっと待って? スパチャできなくなってない?(米)


>>えっ?

>>うわっ、マジだ(韓)

>>なぜだい、イロハちゃん……?(米)


「みんなも気づいたみたいだね。というわけで今回の配信はスパチャをオフにしてます!」


>>なっ!? ど、どういうこと!? それじゃあお祭りはどこへ!?

>>今日、お祭りないの……?(韓)

>>なんで!? この日のために臓器売ってお金作ってきたのに!


「あなたみたいな人がいるからだね!? それにスパチャを投げられると、わたしもお金の暴力で引くに引けなく……いや、引かざるをえなくされそうだし」


 前回の反省点だ。こちらの想定を超えてスーパーチャットが飛びすぎた。

 ありがたくない、といえばウソになるが……なにごとにも加減は必要だ。


「本当は、今回のガチャ配信すらせずに裏で全部やるつもりだったんだよね」


 ただ、あー姉ぇとの電話中にその話題になったときダダをこねられてしまった。

 脳内でそのときの、彼女の声が再生される。


『えぇ〜? イロハちゃん、あたしのガチャ配信やってくれないの〜!? ヤダヤダヤダ~! お姉ちゃん寂しい~! イロハちゃんはそうやって、おーぐのことだけ特別扱いするんだね~っ?』


 だ、断じてそういうつもりはないがっ!?

 それに俺にとっては、あー姉ぇもまた……い、いや! それはさておき!


「だからまぁ、折衷案だよ」


 視聴者みんなの「またガチャ配信してほしい」って声もすごく多かったし。

 まぁ、声の多くが「次こそはリアルタイムで参加してスパチャ投げる」だったのは、さておき。


 それに、完全に裏でやっちゃうのも申し訳ないかなーと思ったから。

 俺がファンなら、ぜひ全部を配信上で見せてほしいと願うだろう。


「みんな、お金の使い道はしっかり考えよ? わたしにスパチャを投げるよりもやることがあるでしょ? 具体的には……推しにスパチャするとか!」


>>結局、お前もスパチャじゃねーか!www

>>オレたちの推しはイロハやぞ

>>仕方ない。スパチャできない分、イロハのボイスを買ってくるよ(韓)


>>イロハちゃんもASMRボイスとか出してくれないかな

>>イリーシャとのコラボまたやってほしい

>>彼女とのコラボということはエッチボイスだな。言い値で買おう(米)


「いやいや、もう絶対にASMRなんてやらないからね!?」


 先日、イリェーナに電話していたときも「やりましょう!」と何度も勧誘された。

 最終的に、なんとか普通のコラボをすることで落としどころつけたばかりなのに、勘弁してほしい。


「あーもう、そろそろいいでしょ! それじゃあ、ガチャを引いていくからね! まずは無料石で、最初の10連! 今回のピックアップはあー姉ぇ以外にも……」


 そう、俺はスマートフォンの画面をタップした――。


   *  *  *


「ひっぐ、えっぐ……どうして出ないのぉおおお!?」


>>草

>>知ってたwww(米)

>>案の定、今回もまったく引けてなくて笑う


>>『メンバーへようこそ!』

>>『メンバーへようこそ!』

>>『メンバーへようこそ!』


「なんで、このタイミングでみんなメンバーシップ登録してるの!? おかしくない!?」


>>かわいそうはかわいいだから、仕方ないねw

>>けど、やっぱりスパチャがないと寂しいかも

>>イロハちゃん。まだバイトできなくて、スパチャしたりメンバーになったりできなくてごめんなさい


「んっ?」


 と、俺は最後のコメントに目が留まった。

 それは断じてちがう。間違っているぞ!


「そこのあなた。大丈夫、謝ることなんてなにもないよ! このおじさんたちがお金配りすぎなだけで、配信はお金を払わなきゃ楽しんじゃダメ、なんてことは絶対にないんだから!」


>>おじさん扱いで草(韓)

>>まぁ、おじさんなんですけどねwww

>>『1件のIroha Ch.翻訳少女イロハのメンバーシップギフトを贈りました』


「たしかに、たまにこうしてみんながメンバーシップとかスタンプとかスパチャで遊んでることもあるけど、慌てず、大人になってから楽しめばいいからね。わたしも急にいなくなるつもりはないから」


>>イロハちゃん良いこと言う(米)

>>『もちゃもちゃさんへ秋枝さんからメンバーシップギフトが贈られました』

>>ありがとうございます。そのときまで待とうと思います!


「そうそう、気長に待っ……って、ごほっごほっ!? えっ、ちょ……あなた、”メンバーシップギフト”が直撃してるよ!?」


 さきほどコメントしてくれた……おそらくは少年の名前。

 それがメンバーを表す緑色に変わっていた――。

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