第278話『仲直りの”ちゅー”』
《おーぐはもう、わたしのこと嫌いになっちゃったの……?》
《!?!?!?》
俺は震える声でそう、あんぐおーぐに問う。
その質問に彼女は百面相をして、そして……。
《……お、おーぐ?》
ボフン、と背中で音が鳴った。
あんぐおーぐがいきなり、俺の腕を掴んで……俺は、ソファへと押し倒されていた。
《ワタシが、オマエのことを嫌いになるわけないだろっ!》
それから、あんぐおーぐはバツが悪そうに続けた。
《その、悪かった。イジワルして。最初はちょっとこらしめるだけのつもりだったんだが、イロハがワタシを気にかけてくれるのが楽しくなって、やりすぎた》
《……そっか。じゃあ、その……今でもわたしのこと、好き?》
《なぁっ!? そ、そこまで言わせるのか!?》
俺がジッと見ていると、あんぐおーぐは顔を赤くしながらポツリと答えた。
《……そ、そんなの、好きに決まってるだろ》
《……! そ、そっか……えへへ》
《~~~~っ! なんだオマエ、誘ってるのか!? これ以上を言わせたら、本気で襲うからな!? 仲直りの”ちゅー”を要求するからな!? まったく……》
あんぐおーぐは恥ずかしさを誤魔化すように、プンスカと怒っていた。
そんな彼女に俺は言う。
《――いいよ》
《はぁ、1回くらいはオーケーしてくれてもいいじゃないか。ワタシだって……、えっ?》
《……いいよ、あんぐおーぐなら》
《えっ、えっ……えぇえええ~っ!? 「いい」って……、どっ、どっ!? なんだこれ、ドッキリか!?》
《……》
俺はなんだか恥ずかしくなって顔を逸らした。
そんな俺の様子を見て、あんぐおーぐも本気だと気づいたらしい。
《えっと、イロハ……本当にいいのか?》
俺は無言でコクリと頷いた。
あんぐおーぐの手が俺の頬に添えられ、俺は正面を向かされた。
《ぁっ……》
頬に触れたその手は、緊張でだろう……震えていた。
ゴクリ、とあんぐおーぐの喉が鳴った。
《イロ、ハ……》
あんぐおーぐの髪が垂れ、俺の頬にかかっていた。
お互いの視線が絡み合っていた。
俺を見下ろすおーぐの顔は真っ赤で……。
でも、きっと今の俺の顔はそれ以上に赤いだろう。
《……はぁ、……ふぅ》
《……ぁっ、……はぁ》
息が苦しかった。
俺って普段、どうやって呼吸してたっけ?
リビングに、お互いの呼吸音だけが響く。
唇にかかるあんぐおーぐの吐息はバカみたいに熱くて……。
《じゃあ、イロハ……するぞ》
《……うん》
あんぐおーぐとはこれまでに2度、キスをしたことがある。
けれど、それは両方とも自分たちの意思ではなく、あくまで事故。
きっと、今からすることはファンとしてはライン越え。
だから、あくまでこれはひとりの人間……
《イロハ……》
《おーぐ……》
あんぐおーぐの顔がゆっくりと近づいてくる。
俺はわずかにまぶたを下ろした。
心臓が痛いほどに早鐘を打っていた。
気づくと、くしゃくしゃになるくらいギュっと彼女の服の裾を握りしめていた。
そして、ついに……。
彼女の唇が俺の唇に触れ――。
……る、直前。
《や、やっぱダメぇ~~~~!》
俺は耐え切れなくなって、あんぐおーぐを突き飛ばした。
彼女がどんがらがっしゃーん! とソファから転がり落ちた。
《はぁ、はぁ……せ、セーフ!》
《なっ、なぁ~!? セーフ、じゃなーい! オマエっ、ここまで来て突き飛ばすヤツがあるかーっ!》
《えっと、ごめん……いや、まだちょっと心の準備ができてなかったというか! だから、その……そう! ほっぺ! ほっぺならしてもいいよ!》
《お、オマエはっ……こんのっ、イロハのヘタレぇ~~~~!》
《ううう、うるさいうるさい! 悪いのはわたしじゃなくておーぐだし! も、もっとこうフランクにしてくれたらよかったのに! すっごい真剣な顔するから、わたしも緊張しちゃったんだよ!》
《ハぁ~っ!? それを言うなら、最初に
《なにをぅっ!? って、ちょっと! 唇を近づけてこないで!》
《うるさい! ちゃんと、ちゅーさせろぉー!》
《ぎゃーっ!?》
その後、俺とあんぐおーぐは夜遅くまで騒ぎ続けた。
それはまるで、ここ最近の話せていなかった時間を取り戻すかのように――。
……あ、ちなみに。
最終的にほっぺのちゅーは本当にされた。
* * *
翌日、俺はスクールバスに乗り込んでいた。
昨日なにがあろうとも、地球は回っているし、翌日の授業も普通にあるわけで……。
《……お、おはよ》
《……お、おう》
俺とシテンノーは沈黙していた。
う、うーん! めちゃくちゃ気まずい!
《《……》》
えーっと、これはどうしたらいいんだろう?
そう、お互いに牽制し合っていたところへ、声が響いた。
《ふたりとも、なーに固まってるの! 座らないの? じゃあ、イロハちゃんのとなりもーらいっ!》
女子が会話に割り込んできていた。
そのまま彼女は俺を窓際へ座らせ、そのとなりに自分も座った。
《それからシテンノー、アンタはこっち!》
流れと勢いで、シテンノーのことも通路を挟んだ席に座らせる。
文字通り、女子が間に入ってくれていた。
《そうだ、イロハちゃん。アタシもイロハちゃんがオススメしてくれたソシャゲはじめてみたんだけど……》
そう女子が話を振ってくれる。
俺とシテンノーは顔を見合わせ……。
《シテンノーくんもどう? すごくおもしろいよ。VTuberのみんながかわいくって》
《ボクを巻き込むな。というかイロハ、まさか今回のテストそれが原因で負けたんじゃないだろうな?》
《だとしても悔いはないけどね!》
《それは後悔しろよ!?》
それから、気づけば俺たちはそうVTuberの話で盛り上がった。
なんとなく、俺はこの瞬間……シテンノーと本当の友だちになれたような気がした――。
* * *
それから、しばし時間が流れ……。
「みんな、ついに来たぞ! 新ガチャ実装だぁ~~~~!」
俺は配信画面を見ながらそう叫んでいた――。
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