第260話『赤スパ祭り』

 それから俺はガチャを回した。

 チケットが尽き、さらなる課金をした。


 それでも足りず、さらに課金をしてガチャを回した。

 そうしてようやく……。


「やった~! ほらみんな、最高レア出たよ! きゃー、かわいい~!」


 俺はついに引いた推しのひとりを見て、大興奮だった。

 いやー、やけに時間がかかった気がするけど、相応の価値が……。


>>あっ……

>>イロハちゃん、それ天井やで

>>排出率って何パーセントだったっけ?


「え? いやいや、そんなバカな。わたしはこんなにも推しを愛してるのに、そんなに出なかったはずは」


>>現時点での課金額、計算してみ?

>>これ被りも考えたら、おーぐを引くまでにいったいいくらかかるんだ?

>>なんかイヤな予感してきたぞ


「だだだ、大丈夫! クレカも複数枚を用意してるし、平気平気……」


 俺はダラダラと汗を流しながら、今度こそあんぐおーぐを引くためにガチャを回した。

 しかし、いつまで経っても最高レアが出ない。


 ちなみに、同じキャラクターを引くとその性能が強化されていくのだが……。

 あっという間に通常レアが全員、完凸していた。


 そして、気づいたときには……。


>>ま、また天井……

>>引きヒドすぎて草

>>今まで自分はツイてない人間だと思ってたけど、イロハちゃんのおかげでマシだと知れたわ


「ううう、うるさい! まだ天井2回だし! それくらいなら確率のブレで起こり得るでしょ!?」


>>声、震えてるぞwww

>>ていうか、さっそく最高レアが被ってるのエグいな

>>ちなみに俺は初回の10連で最高レア3枚引いたぞ。もちろん、おーぐ含む


「今、コメントしたヤツは絶対に許さない。……じゃなくて!?」


 ヤバイ、なんだか吐き気が。

 正直、こんなにも沼るとは思っていなかった。


 とはいえ前世の俺とは違い、今の俺には金の暴力がある。

 だから、そう……この程度はかすり傷だと思いたい。


「つ、次こそは引く。大丈夫、わたし。いつかは必ず引けるから……」


 そう、俺はさらにガチャを回していった。

 しかし、いつまで経っても幸運の波はやってこず……。


   *  *  *


「あうあうあう……」


 俺は配信用パソコンの前でグロッキーになっていた。

 課金しすぎて、なんだかもうワケがわからなくなってきている。


>>イロハちゃん壊れてきてて草

>>でもまぁ、この結果じゃしゃーないよね

>>いったい何回、天井までいったんだ?


>>しかも、まだおーぐを引けてないし

>>被り多すぎない?

>>ほかキャラの最高レアなら、完凸してるやつまであるのに


 きっと、こういうとき配信者によっては「むしろオイシイ」と割り切れるのだろう。

 だが、俺の場合は決してそうはなれない理由があった。


「ヒィっ!? あ、あわわ……どうしよう!? また、お母さんから電話がぁ!?」


 さっきからずっと、スマートフォンが震え続けていた。

 ディスプレイ欄にはズラリと母親からの不在着信が並んでいる。


>>イロハハ怖すぎて草

>>だれかここまで引かない確率計算して、切り抜き作ってくれ

>>期待値的には8万円もかければ、引けるはずなんだけど


 おかしい、そんなはずはない。

 俺はすでに何十万円課金したかもわからないのに。


 これ以上、ガチャを続けたら……母親からどんなオシオキが待っているか、想像もしたくない。

 けれど、まだ狙いのあんぐおーぐを引けていない。


>>これ以上は、さすがにマズくね?

>>でも、肝心のおーぐがなぁ

>>そろそろ、引き換えアイテム貯まってるんじゃない?


「えっ? ……わっ! ほ、ほんとだ!?」


 完凸したキャラクターをさらに引いた場合、特別なアイテムに変換される。

 そして、それが一定数貯まると好きなキャラクターと交換できるのだが……。


 いつの間にかそれが十分な数、集まっていた。

 すでに俺、こんなにもガチャ引いてたのか。


>>リリース初日でここまで交換アイテム貯まってるの、イロハちゃんだけだろw

>>締まらないけど、これでおーぐと交換して終わりか

>>長かったなwww


「み、みんな……そっか、わたしもうゴールしていいんだ」


 俺はポツリと呟いた。

 長く険しい戦いだった。しかし、これでようやく母親からの着信もやむだろう。


 そうだ。これはこれで思い入れができたじゃないか。

 あとはゆっくりと大切に、この最高レアあんぐおーぐを育成していけば……。


>>でも、それじゃおーぐ完凸できなくない?


「え゛っ」


 そのひと言がきっかけだった。

 コメント欄の流れが一気に変わった。


>>たしかに、このままじゃ中途半端だよなぁ?

>>イロハハに怒られたからってやめる程度なのか、イロハのおーぐへの愛は!?

>>”身を引くよりも、ガチャを引け”


「いやいやいや!? たしかにわたしも最初は完凸を目指すつもりでガチャを回してたよ? まさか、ここまで引けないなんて思わなかったし! でも、これ以上は……」


>>¥10,000 ガチャ代

>>¥10,000 初スパチャ。イロハちゃん大好きだからガチャ引いて♡

>>¥20,000 倍プッシュだ


「ちょっ、赤スパ!? って、初スパチャがそんな内容でいいの!? みんな待って、落ち着いて! 1万円って大金だから!? それにわたし、もう……!?」


>>¥16,800

>>¥10,000 無言

>>¥10,000 イロハがガチャをするまで、赤スパをやめないッ!


「赤スパ投げといて無言!? コメント拾って欲しくないの!? あと、わざわざ『無言』って書いてる赤スパはなんなの!? ほかに書くことあったでしょ!? というか……」


 リアクションしている間にも、次々と赤スパが届いていた。

 俺は察した。


 この流れからは――逃げられない!!!!

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