第259話『地獄のガチャ配信』
「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす! いよいよ……VTuberのソーシャルゲームがリリースだ~!」
>>ついにこの日が来たか!
>>あっという間やったな
>>↑実際、事前登録の開始からリリースまでかなり早かったし
タイトル画面が表示され、あー姉ぇやあんぐおーぐたちの歌うテーマソングが流れていた。
そのゲームのタイトルは『理想の箱を作ろう!』。
「ふむふむ。プレイヤーはマネージャーとなって、好きなVTuberをスカウトしたり、レッスンさせたり、トラブルを解決したりして……最終的にはライブを成功させればよい、と」
まぁ、そのあたりは事前情報ですでにわかっていたのだが。
チュートリアルを受けつつ、初見さん向けにも説明する。
……うん。
ソーシャルゲームとしてはスタンダードな作りのようだ。
>>スカウト、という名のガチャ
>>レッスン、という名の育成
>>トラブルを解決、という名のデイリークエスト
>>ライブを成功、という名のリズムゲーム
「言い直さなくていいから!? ともかく、最後にプレイヤー名を設定して……と。いよいよゲーム開始だ~!」
>>本編(ガチャ)の時間だーーーー!
>>今さらだけど、この配信って案件だったりするの?
>>イロハちゃんは個人勢だし、さすがに違うんじゃない?
「そうだねー、完全にプライベートだよ。だから投入するお金もすべて、わたしのポケットマネー。というわけで、まずは初回限定の割安ガチャチケットをすべて買って、と」
>>課金にためらいがなくて草
>>まぁ、ここまでは安定よな
>>狙ってるキャラクターとかいるの?
「それはもちろん……イッッッチバン大好きな、おーぐに決まってるよ!!」
>>えっ? 全員じゃなくて、おーぐなのか?
>>これ実質、愛の告白では? ふたりはいつの間にそこまで……?
>>イロハちゃん!? あたしのことは好きじゃないの~!?
「あー姉ぇもよう見とる……じゃなくて、ちがっ!? そういう意味じゃないからね!?」
あくまで、あんぐおーぐがゲーム内で最高レアリティとして存在していたからだ。
姉ヶ崎モネは残念ながら、まだ通常レアしか実装されていないようだから。
もちろん、全員欲しいし揃えるつもりだが、それは言うまでもない前提の話で……。
なのに、これじゃあ俺が「おーぐ”が”大好き」と言ったみたいじゃないか!?
「わたしは、あくまでゲームとして……」
そのとき、バン! といきなり自室の扉が開かれた。
振り返ると、入り口にあんぐおーぐが立っていた。
《イロハ! そこまで求められたら仕方ないし、来てやったぞ! わ、ワタシもオマエのことが……》
《今すぐ帰って! 配信中に凸して来ないでくれる!?》
《なんでだー!? リアルなら確定ガチャなのに!》
《いらないから!》
そう、あんぐおーぐを部屋から追い出した。
さすがに配信中だったからか、あまり抵抗はせず引き下がってくれた。
「ぜーはー。……あ~、これ以上のジャマが湧く前にさっさとガチャしよう。推しに会いに行こう」
>>リアルよりデジタルを求める幼女、イロハ
>>なんかもう、いろいろとアベコベで草
>>イロハちゃんも難儀な性格してるよな~
>>ちなみに、イロハちゃんって運は良いの?
>>良いイメージはない、かな
>>出るまで引けば100%だから……
「よーし。じゃあ、まずは10連から! 出たのは……キャ~!? わたしの推しがこんなにたくさん! この子は(中略)で、こっちの子は(中略)で、そんでもってこの子は(中略)で~!」
>>まさかに、ひとりずつ全員を解説する気か!?
>>推しのプレゼンがうまいなぁ! けど加減を知らないのか!?
>>ガチャがまったく進んでなくて草
「あっ、今スカウトした子たちのステータスとかちょっと見てもいい? あっ、セリフが聞けるみたい。……あっ、尊いです~。しかも、ホーム画面に設定してからタッチするとリアクションが!?」
>>あの~、このペースだと一生かかっても終わらないんですけど
>>頼むから、早く次を引いてくれ!
>>さらっと、さっきのガチャ最低保証だったなw
「ちょっと待ってみんな!? ここの背景とかボタンにも小ネタやマスコットキャラが!」
>>いい加減にしろ!!!!
>>イロハちゃんがVTuber大好きなのはもうわかったから!?
>>だれかコイツを止めてくれ!?
「……ちっ、コメントどもがうるさいなぁ」
>>イロハちゃん!?
>>これ配信だよねぇ!?
>>イロハちゃんの罵倒ボイスたすかる
「はぁ、仕方ない。あとはこっそりひとりで楽しむことにするよ。せっかく、みんなにもさらなる推しの良さを教えてあげようと思ったのに」
そう言って、俺は泣く泣くガチャ画面へと戻った。
推しだけじゃなく、このゲームの良さも伝えることも俺の使命だからな。
ゲームというのはプレイヤーがいなくちゃ成り立たない。
人口が減れば、待っているのはサービス停止……まだ推しの最高レアリティすら出揃っていないのに、そんなことになったら悔やんでも悔やみきれないから。
「よし、それじゃあ次の10連いってみよう!」
俺はそのとき夢にも思っていたなかった。
まさか、これが――地獄のはじまりになるだなんて。
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