第253話『ユニコーン問題』

「ぬわぁあああん、疲れたもぉおおおん!」


>>いったいどうしたんだい、イロハ?(米)

>>たしか今日が、ハイスクール初日だったよね?

>>いつものあいさつはどこ行った?


「あ~、はいはい。”ことどけ~”、イロハでーす」


>>略すな!!!!www

>>いいのか、それでwww

>>学校でなにかあったのかい?(米)


「聞いてくれる?」


 俺はぐで~っと配信用パソコンの前で溶けていた。

 アメリカのハイスクールは日本の高校とはずいぶんと勝手が違った。


「正直、初日だし入学式くらいで終わりかなーと思ってたんだけど、アメリカってそういう式ないんだねー」


>>そうなの!? それはちょっと寂しいな

>>せいぜい、簡単な説明会オリエンテーションがあるくらいだね(米)

>>なんなら、日本みたいな文化祭や修学旅行もないよ(米)


>>だからボクはいつも、日本のアニメーションを見て羨ましすぎて泣いてる(米)

>>まぁ一応、アメリカにもプロムやペニーカーニバルがあるっちゃあるけど(米)

>>プロムはともかく、ペニーカーニバルはただの資金集めじゃん(米)


 言われてみると、年間スケジュールにほとんどイベントが載っていなかった気がする。

 それを楽でいいと感じるか、それとも物足りないと感じるかは人に依りそうだが。


「ほかにも、科目ごとに教室を移動したり、座席が決まっていなかったり……あとは選択科目が多いから、きちんと自分で履修登録をしておかないといけなかったり」


 たとえ同級生でも受ける授業が違ったり、レベルごとにクラスも分かれているから同じ教室ともかぎらない。

 自分が受ける授業は、きちんと自分で管理しないといけない。


「逆にいえば、それだけ”自由”なわけだけどね」


>>聞いてるかぎりだと、日本の大学に近いシステムっぽい?

>>↑たしかに

>>でも、それだとイロハちゃん戸惑ったんじゃない?(米)


「えーっと、わたしはわりと平気だったかな」


 俺の場合すでに前世で一度、大学生活を経験しているからなぁ。

 もしかしたら、いきなり留学した人なんかは戸惑うかもしれないが。


「むしろ、わたしの場合こっちのほうが性に合ってるかも」


 だって、必要最低限以外の科目を片っ端から切る・・ことだってできるから。

 そして浮いた時間を、配信の視聴に回せば……いやぁ、なんて効率的なんだ!


>>クラスメイトって概念もない感じ?

>>自己紹介タイムみたいなのもなさそうだし、私がアメリカに留学したら友だち作りに苦労しそう

>>イロハはもう友だちはできたのかい?(米)


「うぐっ!?!?!?」


 そう、問題はまさにそこだ!

 今、こうして俺が疲れ果てている原因もじつはそれだったりする。


「えっと、まぁ……わたしは人気者? みたいな?」


>>あっ……

>>そ、そうだよね。イロハちゃんは人気者だもんね

>>なんだか泣けてきた


>>いいんだイロハ、オレたちの前ではウソを吐かなくて(米)

>>代わりに、イロハにはネットのお友だちがたくさんいるから(米)

>>聞いたオレが悪かった


「ちょっ、謝らないでくれる!? ちがうからね!? 本当にわたし人気なんだから! いや、本当に。ある意味ではね……」


 言って、俺は「はぁ~」と頭を抱えた。

 じつはちょっとした自己紹介タイムが、俺が留学したハイスクールだと設けられていた。


 そこでもますます注目を浴びてしまった。

 というか学内を歩いているだけでもしょっちゅう声をかけられ……。


「なんか、わたし友だちというか、珍獣かマスコット扱いされてる気がする」


 友だちは数人いれば十分だと、つくづく思う。

 もとより俺は心の大半を推しに捧げており、残っているリソースなんてほんのちょっとしかないのだから。


 なにより……、関わる人が増えると配信を見る時間が取れないんだよぉおおお!

 校内でもずっと会話に巻き込まれてて、全然VTuberの癒しを得られなかったんだが!?


>>そういうことかwww

>>けど、イロハちゃんに友だちができなかったと聞いて、安心してる自分がいる

>>正直、異性の友だちは作らないで欲しい


「……あ~」


 拾うかどうか迷うコメントが流れてくる。

 じつはこういった意見は小学生時代から、ちょくちょく送られてきていた。


 そして、年齢が思春期に差しかかるにつれ、ますます増えているように思う。

 だが、残念ながら俺もまだその答えを見つけられていないのだ。


「そのあたりって本当に難しい問題だよね」


 現実として人類の半分は異性だ。

 マネージャーですら、人材の都合上で異性になることは起こりうる。


 俺の学校も共学だし、当然だが男子もいる。

 あの……なんだっけ。シテンノーとかってあだ名で呼ばれていた彼にしてもそうだ。


「ただ、わたしもその気持ちめっちゃわかるんだよねー」


 だって、もし推しの周囲に異性がいたら……俺も、めっっっちゃ気になるから!

 場合によっては異性コラボについても。


 いや、俺はユニコーンじゃないけどね!?

 けど、理性と感情はべつなんだよぉおおお!


 ファンなら推しを信じろって?

 うるせぇ、バァーーーーカ!


「いつか、答えが見つかるといいんだけどね~」


 頭じゃ、ちゃんとわかっているんだ。

 いちファンに彼女(あるいは彼)の交友関係を制限する権利はない、と。


 その上で、どうしても折り合いがつかないだけで。

 俺だってもし、あんぐおーぐやあー姉ぇ、そしてイリェーナに……。


「……」


 その答えは案外、すぐ見つかったりするのかもしれないな。

 それも、意外なところから……。


   *  *  *


《な、なぁあああ!? 中学の同級生がイロハを追いかけてきただって!? まさか、ストーカーか!? ……よし、シークレットサービスにイロハに近づく男を全員排除させよう》


《やめい》


《あうっ!? で、でも~!》


 あんぐおーぐに軽くチョップを食らわせて止める。

 うん、俺でもわかるが……その答えだけは絶対に間違ってるな!?


《ほら、もう寝るよ。わたし明日も朝、早いんだから》


《ううぅ~!》


 ふたりでベッドにもぐりこむ。

 明日からは本格的に授業やテストがはじまるらしいが……いったい、どうなることやら。

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