第251話『登校はスクールバスで』
「いってきまーす」
あんぐおーぐに告げて、家を出る。
スクールバスの乗降場所までは、シークレットサービスが車で送迎してくれることになった。
《なんなら、このまま学校まで送ってあげるわよ?》
《あ~、場合によっては今後、そうしてもらうかも。ただ利用を申し込んじゃった手前、しばらくは利用してみようかなーって》
車を運転してくれているシークレットサービスの女性と、そう言葉を交わす。
ハイスクールへの通学方法は大きく分けて3つだ。
1.自分で運転していく。
自転車やスクーターだけでなく、自動車などでも。
アメリカでは多くの州で、16歳になれば車の運転免許が取得できるそうだ。
とくに、いわゆる『仮免許』なんかはペーパーテストだけだし、取るのもかなり簡単らしい。
「いや、その年齢で運転は早すぎない?」
と、日本人の感覚だと思ってしまうが、アメリカじゃあ車がないとどこにも行けないからなぁ。
必要性に駆られて、といった側面もあるのだろう。
2.両親などに自家用車で送迎してもらう。
これが選ばれる理由はいろいろある。
スクールバスだと大勢を拾わなければならない関係上、朝が早すぎて起きるのがしんどいから、とか。
スクールバスは
「いや、俺がそう思ってるわけじゃないけどね!?」
自家用車の説明をしているはずなのに、やたらとスクールバスの欠点の話になってしまう。
そのあたりは、通学方法を説明してくれた中学の英語教師の私怨だ。
ちなみに授業がはじまる時刻の直前は、校門にズラりとこれらの車が列をなすそうだ。
徒歩通学が基本の日本じゃ、まず見られない光景だな。
3.そして最後が、さっきから貶されまくっているスクールバス。
真っ黄色の巨体が特徴で、俺が選んだのもこの通学方法だ。
というか、ほかに選択肢がなかったというのが正確なところ。
いや、だってまさか……自分に専属の護衛や送迎役がつくだなんて、だれが予想できる?
《あ、でももしかして。スクールバスだと護衛しにくいとかってあります?》
《大丈夫だから、気にしないで。ちなみに校内でもアタシたちは目立たないように見守ってるからね。安心して、ハイスクール生活を満喫しておいで》
《わかりました》
《って、言ってる間に着いたわね。あ、ちょうどスクールバスも来たわ》
《ですね。それじゃあ、送迎ありがとうございました。いってきます》
《はい、いってらっしゃい》
黄色い車体は遠目からでもすごく目立っていた。
シークレットサービスの運転していた車を降りて、スクールバスへと向かう。
「近くで見ると、ますます大きいな」
自然と俺は、ポカーンと見上げる形になってしまう。
なにせその全高は、”現在の”俺の身長の2倍以上あった。
なんでも、事故に遭っても子どもが衝撃を直接受けないよう、高い位置に座席がつけられているんだとか。
さらに車体自体も側面が、黒い金属の棒で補強されていた。
「……うん?」
眺めていると、車体の前方にウィイーンと黄色い棒が展開された。
それはまさしく踏切にあるような……『遮断機』だった。
車高が高い分、前方が見えにくいから……だろうか?
子どもがそこを通らないようにしているのだろう。
「なんというか、子どもへの配慮がすごいというか……もはや、過剰というか」
周囲を見渡すと、スクールバスだけでなく対向車線まで含めてすべての車が停車していた。
全員が、俺が乗り込むのを待っていた。
「うっ、落ち着かない。けどアメリカではこれが”ちょうどいい”なんだろうな」
みんなを待たせてる状況がいたたまれず、つい早足になる。
スクールバスに駆け寄り、乗り込んだ。
《どうも、運転手さん。今日からよろしくお願いします》
《あぁ、よろしく……エッ!? あの、キミ。本当にこのバスで合っているかい? この車がどこへ向かうかわかっているのかい?》
《えっ。ハイスクール行き、ですよね?》
《あ、あぁ。そうだが……いや、わかっているならいいんだ。失礼した。好きな席に座るといい》
《……?》
なぜか運転手さんにやたらと驚かれてしまっていた。
首を傾げつつ、座席のほうへと視線を向け……。
「あ」
俺はその理由を遅ればせながら、察した。
乗客であるほかの学生たちもみんな、驚きや興味深そうな表情でこちらを見ている。
そして、彼ら彼女らは……とんでもなく発育がよかった。
キミら、本当にその”外見”で俺と同じハイスクーラーなの!?
《え、えっと。どうも、はじめまして……》
気圧されながらも、あいさつを絞り出す。
アイサツは大事。アメリカのガイドブックにもそう書かれている。
瞬間、「ワァー!」っと一気にバス内が騒がしくなった。
次々と言葉が飛んできた。
《おいおい、やけに小さいガールが乗り込んできたぞ!?》
《かわいー! 何年生!?》
《もしかして飛び級かな?》
《
さすがに、そこまで小さくはないわ!?
これでも同世代なんですけど!?
と、反論したいだが、そう思われても仕方ないと思えるほどの体格差だった。
男子はだれもかれもがアメフト選手のようなガタイだし、女の子はみんなボインボインだ。
いや。もちろん全員が全員、そんなはずはない。
だが、そう見えてしまうほどの圧があった。
「あー、そうだった」
アメリカってこんなんだった。
なんでも大きいんだ。もちろん、人の身体まで含めて。
《ほら、こっちおいで~。一緒におしゃべりしよ~!》
《えっと、あの》
《きゃーっ! ますますちっちゃくなっちゃって、カワイイ~!》
俺はボインボインな女子たちに取り囲まれていた。
ひ、ヒェっ……おーぐ、助けてぇ~~~~!?
今このときばかりは、あんぐおーぐの貧相な身体が恋しいと思った――。
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