第245話『日本人化する外国人』
イリェーナとのオフコラボ配信。
日本慣れしすぎた彼女が帰国した際の『うっかり』はまだまだあるようだ。
「えぇとソレデ、再開した友人とご飯を食べにいったのデスガ……お店に列ができテイテ。ワタシがそこへ当たり前みたいに並んだら「え!?」って驚かれマシタ」
「うん? なにか変なところあった?」
「『べつのお店探したほうが早くない?』ッテ、言われてシマッテ」
「あ~」
>>行列への耐性がw
>>たしかに、日本人って並ぶのすごく好きだよね(宇)
>>海外だと行列は、並ぶものというより避けるものって感じなんだっけ?
「結局、友人におもしろがラレテ、一緒に並んでそのお店に入ることになりましたケレド」
>>日本じゃ行列を見つけたら並ぶのがマナーだよ(宇)
>>そして、災害時でも整列するくらい、礼儀正しい国民性だから(宇)
>>↑合ってるけど、微妙に間違ってるwww
「注文したのはボルシチやヴァレニキだったのデスガ……」
「ボルシチは知ってるけど、ヴァレニキってどんなのだっけ?」
「日本だと水餃子が一番近いデスネ。そこでワタシはウッカリ、カトラリーを落っことしてシマッテ……替えを持って来てもらったのデスガ、店員サンについ『すいません』って謝ってしまっタリ」
>>そこは「ごめん」じゃないよね。「ありがとう」だよね
>>日本人はなぜ自分が悪くなくても謝るんだい?(米)
>>あー、あるあるw
「謝罪はもう脊髄反射だよね」
「デスネ! そのあと友人のグラスが空になっていたカラ、自分ののついでに注ごうとシテ『なにしてるの?』って困惑されてしまっタリ」
「あるある」
「日本語を披露したら『すごい!』って褒められたのデスガ……『イヤイヤ』と謙遜してしまっタリ」
「あるある!」
「あと会話中に頷いたり相槌を打ったりしてイタラ、『リアクションがウザい!』『話を急かさないで!』って言われてしまっタリ。そんなつもりはなかったのデスガ」
「めっちゃある〜! 日本人ってめちゃくちゃ相槌が多いもんね!」
「な、なんだかイロハサマ、すごく共感されていらっしゃいマスネ?」
「いや~、じつはわたしもアメリカで似たような経験をしていて」
さっきのイリェーナの話は、じつは海外へ行った日本人にも当てはまることだったりする。
といっても俺の場合は、外見が日本人だから「文化がちがうんだな」で済むことも多いが。
「アト、食事中にお仕事の電話が入ってシマイ、離席して応対してイタラ……ひとりでペコペコとお辞儀していたのを笑われてしまっタリ」
「あはは」
「友人が一緒トハイエ、貴重品などの荷物を放置して行ったことを叱られてしまっタリ」
たしかに、俺も日本に戻ってきてから、みんなが無防備すぎてビックリすることがある。
軽く挙げるだけでも……。
子どもだけで出歩く。
女性ひとりでエレベーターに乗る。
夜道を歩く。
電車で居眠りする。
……などなど。
「これは知り合いのVTuberさんの話だけれど、自動販売機にためらいなく紙幣を入れちゃうようになった、って言ってたなぁ」
「それはどういう意味デショウ?」
「なんでも故郷じゃ、自動販売機にお金を飲まれたり、釣銭が出てこなかったりすることが多かったみたいで。まぁ、これはアメリカの、それも地域限定の話かもしれないけど」
治安があまり良くない地域だと、自動販売機はあっという間に商品やお金を抜かれてしまうそうだし。
自然と扱いや作りが悪く……コストをかけられなくなってしまうのかもしれない。
「あと、その人は日本の……落としたサイフがきちんと返ってきたり、レストランでおしぼりをもらったり机を拭いてくれたりしたのにチップの受け取りを拒否されたことに、驚いたって言ってたかな」
「その点でイウト、ウクライナもチップ文化があるので同じデスネ。日本のミナサンが旅行した場合ナドハ、ちょっと戸惑ってしまうカモ」
「わたしはもう慣れちゃったから、そのうち行く機会があっても大丈夫だね」
「親善大使、ですカラネ! そのときはゼヒ、ワタシにも同行させてくだサイ!」
「じゃあそのときは、道案内を頼もうかな?」
>>一応、今もまだ『停戦中』なんやっけ?
>>↑といっても、もうほとんど入国制限もないけどね(宇)
>>停戦してから長いし、どっちかというと「休戦」って感じ?
「よければミナサンもワタシの故郷に来てみてくだサイネ!」
「というわけで、今日の配信はここまで!」
いや~、なんともきれいにオチがついたもんだ。
普段、あー姉ぇたちに振り回されてばっかりだから、なにごともなく配信を終えられるなんて珍しい。
逆に不安になるほどで……。
と、そんな悪い予感にかぎって的中してしまう。
「そういえばイロハサマは大丈夫でシタカ?」
「大丈夫って、なんの話?」
「エエット、ソノ……先日のASMR配信の反響デス」
「え~っと、そうだね。あれから一定数『またASMRしてくれ』ってコメントが流れるようになったかな」
「イエ、視聴者のミナサンのお話でハナク。ソノ……親御サン、トカ」
「……!?!?!?」
俺は今さら「ハッ」と気づいた。
あー姉ぇやあんぐおーぐはすごく興奮した様子で、電話で俺に感想を告げてきたりした。
それはまぁ、最初から覚悟していたからいい。
だが、しかし……親? 親だって?
それはまったく考慮していなかった。
もし、じつの母親にアレを聞かれていたとしたら、恥ずかしさで死ねるが!?
「アノ~、イロハサマ?」
「は、はは……大丈夫、きっとセーフだよ。だって、なにも言われてないし。たぶん、見てないはず」
母親もすべての配信を追っているわけじゃないみたいだし。
俺はそう自分に言い聞かせながら「おつかれーたー」と枠を閉じ……。
* * *
「あんた――あんまりエッチなのは、お母さんもどうかと思うわ」
「ぎゃーーーー!?」
母親の言葉に、崩れ落ちた。
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