第244話『VTuberの産声』
「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす」
「”ドーブロホ・ランコ”! イリェーナ、デス!」
>>イロハロ~!
>>どーぶろほらんこ!
>>わーい! オフコラボ第2弾だー!(宇)
というわけでイリェーナとの『日本慣れした外国人あるある』な配信がはじまった。
今日も前回のASMRと同様、彼女宅からお送りだ。
「ホントはイロハサマのお部屋におジャマしたかったのデスガ」
「うーん。主な機材はアメリカに持って行っちゃってるからねー」
一応、実家にも予備の機材を残してあるため配信ができないわけじゃない。
ただ、さすがにイリェーナ宅と比べると見劣りする。
それになにより、マイがなぁ……。
俺は当時の彼女の発言を思い起こした。
『イロハちゃんの
そう、激しく反対されてしまったのだ。
まぁイリェーナ宅でやるとなったらなったで……。
『また、ふたりきりにぃ~!? 今度こそイロハちゃんになにかあったらぁ~!?』
と、騒がしくしていたが。
どっちにしろ文句言うんじゃねーか!
「フフフ……イロハサマ、今日はジャマが入る心配もありませんカラネ!」
「お、お手柔らかにね?」
今日、マイが一緒に来ることはできなかった。
というか、前回のオフコラボや同窓会が特別だったというか。
なにせ、彼女は現在進行形で『勝手なアメリカ行き』のオシオキを受けている。
外出を禁止されて毎日、親の監視下で夏休みの宿題をさせられているらしい。
「えーっと、ごほんっ。じゃあ今日は、わたしが司会進行を務めてさせてもらうね」
>>むむっ? 妙だな……イロハちゃんの持ち込みにしては、企画が意欲的すぎる(宇)
>>かといって、視聴者からのアイデアでもない
>>そういえば一緒に日本に帰ってきたはずの、アネゴの気配がないな?
「恐いよ!? えっ、なに、みんな探偵なの!? さすがに鋭すぎない!?」
たしかに、今日の企画はあー姉ぇプレゼンツだ。
アメリカ旅行で溜まってしまった仕事に忙殺されている、彼女から託されたものだった。
「イエ、このくらいなら『イロハ検定』が2級もあればわかりマス。ちなみにワタシは1級なので余裕デシタ」
「待って、なにそれは。わたし知らない」
「問題、イロハサマの”産声”は? 1.へ、あぅ!? 2.あの、その!? 3.ぎゃぁあああ~!?」
>>4.おぎゃぁあああ~!
>>4.おぎゃぁあああ~!
>>↑なんで、そこでコメントが被るんだよwww
「うん、それ”配信上で最初に発した言葉”の間違いだね!?」
一般的にVTuberの産声とはトゥイッター上での、最初のツイートのことを指す。
だが、俺の場合はデビューが特殊だったから……。
「って、どーでもいいよそんなこと!? わたしだってそんなの覚えてないし! それよりも今日はイリェーナちゃんの話でしょ!」
「ムムム……もっとイロハサマのことを語りたかったのデスガ、タイトル詐欺になってもいけまセンネ」
「ちなみに今日の配信は、ほかの在日海外勢VTuberさんから募集した話も交えていくからね」
そう前置きして、本題へと入る。
イリェーナが「そういえば」と口を開いた。
「じつはちょうど最近、日本に染まったなーと実感する機会がありマシタ」
「え、そうなの? いつ?」
「ウクライナに帰省したときのことデス」
そういえば同窓会のとき、そんなことを言っていたな。
けれど、なぜ日本じゃなくて故郷での話?
「なんとイウカ、日本でのクセが染みついてしまってイテ。それが向こうでも出てシマッテ」
「へぇ~?」
「具体的ニハ、まず空港へ降りるとすごく混雑していたのデスガ……」
イリェーナは立ち上がると、人の間を縫うようなジェスチャーをした。
ははーん、なるほど。
「”片手チョップ”スタイルで人ごみ抜けようとしてシマッテ。すごく変な目で見られマシタ」
>>たしかに、それは日本人しかせえへんなw
>>ボクもウクライナから日本に来てるんだけど、帰省したときまったく同じことをしたよ(宇)
>>日本人はつねにカラテの心を持っているんだな(米)
「そのあとはタクシーで移動したのデスガ、乗り降りの際にドアを閉め忘れて怒られマシタ。イロハサマの『3Dお披露目&誕生祭』配信で予習していたノニ、見事にやってしまいマシタ」
「日本じゃ逆に自分で閉めたら怒られるもんね。ただ『ちがう』んじゃなく、『真逆』ってのが余計に困惑するよね」
「そレカラ、ひさしぶりに友人たちと再会シテ」
>>亡くなった友だちもいるのは知ってるけど、それでも大勢が無事でよかったと本当に思う
>>イリーシャがあのとき、勇気を出して声を上げたおかげだよ(宇)
>>ちなみにお友だちは、イリーシャがVTuberやってること知ってるの?
「イエ、直接は明かしていマセン。ただ言わないダケデ、すでにバレているような気はしマシタ」
「まぁ当時、イリェーナちゃん大活躍だったもんねー」
「イロハサマがそれを言いマスカ!?」
うっ!? 今のはブーメランだった。
俺もいささか有名になりすぎたので、これでも出かけるときは一応、なるべく、それなりに気をつけている。
帽子をかぶったり、声のボリュームを抑えたり。
ただ、それでも……じつはバレてるけど声をかけずにいてくれたとか、あるいは裏でシークレットサービスの人が対処してくれているとか、全然ありそうだった――。
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