第232話『大魔王の倒しかた』


>>あのアネゴが従順に!?

>>いったいなにが起きてるんだってばよ(韓)

>>くっ、アネゴがかわいいだと!? アネゴのクセに!?


「え、えーっと……なーんちゃってっ☆」


 あー姉ぇが誤魔化すようにテヘペロっと舌を出した。

 その程度で、誤魔化せるわけが……。


>>あっ、なーんだいつものやつか

>>まーたアネゴが変なことしてるよ

>>まぁ、アネゴだからね(米)


 あっ、コイツ……視聴者からまったく信用されてねぇ!?

 いつもやらかしてるから、なにをしてもおかしくないと思われてやがる!?


「いや、ある意味めちゃくちゃ信用されてるのか、これは」


 俺がそう頭を抱えていると、マイが「もういいでしょ!?」という風に、グイグイと俺を押して着席させた。

 トラッキングが戻り、翻訳少女イロハが動き出す。


「よ~しっ! それじゃあ気を取り直して、次の問題はゲストからの出題だよっ。ヘイっ、カモーン!」


 ポコン、と通話が繋がった。

 それに合わせてあー姉ぇが配信画面上に立ち絵を追加する。


「コラボといったらやっぱりこの子は外せないよ姉ぇ~! というわけで!」


《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》


 聞こえてきたのはあんぐおーぐの声。

 今日は遠方から通話での参加だ。


「うガー、アネゴだけズルいゾ! ワタシもイロハとオフコラボしたかったのニ!」


「あはは~、仕方ないよ姉ぇ~☆ 収録やレッスンが詰まってて、どうしても予定が合わなかったんだから」


 本来、あんぐおーぐも非常に忙しい身の上だ。

 それに加えて、ここ最近ずっと好き勝手していたからな。シワ寄せがきているらしかった。


「今日の配信も見れてないかラ、あとでアーカイブをチェックさせてもらうゾ!」


 あっ。

 もしかしてこれ、あとでヤバいか?


 視聴者は誤魔化せたが、さっきからマイがずっと怖い顔をしているし。

 ……いや、今は考えないでおこう。


「というわけで、さっそく問題をどうぞ~!」


「問題? 微妙に聞いてた企画と違うんだガ、まぁいいカ。じゃア、問題ダ! ――英語の表記にも用いされる『アルファベット』。その名前の由来ハ?」


 配信画面上に、SEとともに問題文が表示された。

 チクタクと再び、BGSが流れはじめる。


「どう、イロハちゃん? この問題は~?」


「そうだね。わたしはこの答えを……知ってます!」


「ウグっ!?」


 あんぐおーぐが呻いた。

 思ったよりやさしい問題が来たな……もしかしたら、忙しくて問題を用意する時間が足りなかったのかも。


>>初耳ならずかー

>>これはわりと有名

>>そうなのかい? ボクはいつも使っているが知らないよ?(米)


「では、答えをどうぞ~っ!」


「『アルファベット』の由来は、名前そのまんまだねー。ギリシャ文字の『アルファ』と『ベータ』!」


「せ、正解ダ」


 ピンポンピンポーン! と音が鳴った。


 アルファ・ベータ……だから、アルファベット。

 俺はすでに知っていたが、推測だけでも正解できそうな問題だな。


「というわけで、敗者はさっさと帰った帰った~」


「ま、待ってくレ!? もうワンチャンスを……へっ、マネちゃん!? 収録がワタシ待ちになってるっテ!? た、頼ム! あとちょっとだケ! ワタシにはまだ使命ガ!?」


 現場で急かされているあんぐおーぐの姿が目に浮かぶようだった。

 マネージャーさんも大変だなぁ。


「残念だった姉ぇ~。もし『初耳』なら、イロハちゃんに好きなシチュエーションでセリフを言わせられたのに~。あたしもさっき……ふへへへ」


「オイ、なんだソレ!? ワタシ聞いてナ……アーーーー!?」


 悲鳴を残して、あんぐおーぐはポコンっと通話から消えていった。

 おいバカあー姉ぇ、なぜ煽った!?


「さて、では次の問題は……」


 そうして企画はどんどんと進んでいった。

 あんぐおーぐを皮切りに、英語方面での問題が多くなり……。


   *  *  *


「い、イロハちゃんが強すぎる!?」


>>おかしい、序盤のやられ具合はなんだったんだ

>>しょっぱなでミスったから、もっとイロハちゃんの恥ずかしいセリフが聞けると思ってた

>>ひっかけ問題でしか勝てないぞ、これ


 コメント欄も騒然としている。

 いや、なんというか……申し訳ない。


「き、気を取り直して次の問題だよ~! 会社員は英語で『サラリーマン』。『サラリー』とは給料のことですが……その語源は?」


 今回の企画、自然とこういった語源系の問題が多くなっていた。

 それでわかったのだが、どうにも俺の”能力”はそういった問題と抜群に相性がいいらしい。


 マイはもしかしたら、直感的にそれがわかっていたのかも。

 まったく……どれだけ本気で、俺を負かしにきていたのか。あるいは俺への理解度、か。


「サラリーね。これもわかる・・・よ。答えは……『塩』!」


「うっ、正解! くそう、視聴者問題だったから、間違えたらあたし得だったのに~!」


>>古代ローマ語で塩(サラリウム)やっけ?

>>なるほど、昔はお金じゃなく塩で給料をもらっていたからか(米)

>>いや、普通に銀貨だぞ。塩は現物支給があっただけなんだけど、それが誤解されて……


「いよいよ、この企画も次の刺客で最後だ姉ぇ~」


「ゲストを刺客って呼ぶの、やめない?」


「さて、最後の勇者はイロハ大魔王を倒すことができるのか!?」


「べつの扱いならいいってわけじゃない!?」


「では、どうぞ~!」


 しかし、トリを務めるのはいったいだれだ?

 いつものメンバーはみんな、出きってしまったし……あるいは、よっぽどの良問ということか?


 ポコンと通話が繋がり、そして聞こえてきたのは……。



「――”ドーブロホ・ランコ”!」



 ウクライナ語のあいさつだった。

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