第227話『リコイル・リコイル』
「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす。というわけで今日は、タイトルのとおり射撃体験をしてきた話をするんだけど……はぁ~」
>>イロハロ~
>>イロハロ~!
>>イロハちゃん、なんかめっちゃ疲れてない?
「いや、ほんとにね……。は、はは……」
自室で配信を開始した俺だったが……ひどく、ゲッソリとした気分だった。
そんな無気力を吹き飛ばすように、活気のある声が轟く。
「いや~、射撃すっごく楽しかった姉ぇ~っ? やっほー! ”みんな元気ぃ〜? みんなのお姉ちゃんだヨっ☆”
「ワタシもいるゾー。《”ぐるるる……どーもゾンビです”。あんぐおーぐです!》」
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>やぁ、おーぐ!(米)
>>最近、オフコラボが多くてうれしい
「この夏が終わるまでは、あー姉ぇもアメリカに滞在するみたいだし、まだしばらくはオフコラボできるね。けど、……はぁ~」
「あ~っ!? イロハちゃん、ま~たため息なんか吐いて! そんなんじゃあ、幸せが逃げちゃうぞっ☆」
「……はぁ~~~~ッ」
元気百倍なあー姉ぇに、俺は一層に深いため息を吐いた。
そんな俺の様子に、あんぐおーぐが苦笑する。
「マぁ、なんというカ……イロハはシューティングレンジ、まったく向いてなかったよナ」
「本当にひどい目に遭った! あんな経験、2度とゴメンだからね!?」
「え~っ!? あんなにおもしろかったのに~!?」
「そのあたりハ、せっかく動画を撮ったんだからそれを流しながら語ったほうが良くないカ?」
>>見たい!
>>映り込みとかが心配……
>>そのあたりはちゃんと対策してるんじゃないか?
「スタッフさんのチェックも入ってるから、大丈夫だよ。ただ、もし見つけた場合はコメントしたりせず、こっそりとDMで教えてねー」
「それで、あたしたちが行ったシューティングレンジなんだけど姉ぇ~」
あー姉ぇが語り出す。
俺たちは最初、パパさん夫婦にシューティングレンジに連れて行ってもらうつもりだった。
しかし、一緒に行って撮影するとなると、身分を明かす必要がある。
ほかにも、許可取りの問題があったりで、いろいろ変更を余儀なくされ……。
結果、州内でもとびきり大きな店で
なぜ!? と考えるまでもなく犯人は明白だった。
「いや~、あたしの交渉のおかげだ姉ぇ~っ☆」
「いつもいつも、お前は余計なことを」
前菜は拳銃からはじまった。
動画内には台座と、その上に置かれた拳銃と弾が映っている。
そこへにゅっと
カメラが引いていき、映ったのは……。
>>おぉ~、イロハちゃんが現実空間に!?
>>ARっぽい!
>>こういうのでキャンプ動画とか出してるVTuberもいるよね
「すごいでしょ~!? 今回の動画、なかなか手間がかかってるんだよ姉ぇ~っ☆」
「あっ、ちなみにこういった撮影方法だと、ほかにもDIYやってるVTuberとか、あとは……」
「イロハ、ストップ! オマエその話、絶対に長くなるだロ!?」
実写の映像内に、3D
どうやって作成しているのか、ざっくりいうと……。
1.映像を編集して人物のみを削除する。
2.編集後の映像にトラッキングした3Dモデルの映像を重ねる。
3.影やライトなどの細かい修正を行う。
といった具合だ。
手法はいろいろあって今回はそのやりかた、というだけだが。
ほかの方法についてはまたべつに語る機会もあるだろう。
で、まぁ今回の手法の場合、手間やお金がかかる。
なので、今回はあー姉ぇの事務所のエンジニアに協力してもらっていた。
そもそも実写なんて、俺はともかく……あー姉ぇとあんぐおーぐは事務所の協力、というか許可が出ないと配信できないし。
>>トラッキングの精度のせい? なんか、ずっとフラフラしてるな
>>見てて心配になるwww
>>ブカブカなテッパチ被ってるのかわいいw
翻訳少女イロハの3Dモデルには、迷彩柄のヘルメットが被せられていた。
さすがに衣装は通常どおりだが……。
「じつはこのときワタシたち全員、迷彩服にヘルメットだったんだゾ」
「ムリヤリ着させられて、ね。あー姉ぇってこういうの、ほんと好きだよね。そういえば、
「こういうのは形から、だよっ! ほら、みんなも心の目を開いて! 見えるはず、あたしたちが全身をミリタリーに包まれている姿が!」
>>心のきれいなオレには、最初から迷彩服姿のイロハちゃんが見えてたぞ
>>なんなら、アネゴのタクティカルブーツとゴーグルとフェイスマスクまで見えてるが?
>>↑それはむしろ、顔が見えてねぇだろwww
……怖っ!? 本当に見えてるやつがいる!?
実際、最初に着替えたあー姉ぇは顔まで覆った完全防備だった。
だれかわからずギョッとさせられたもんだ。
まぁ、「暑い!」って言ってすぐに脱いでいたが。
《そう、絶対に銃口を人に向けないで。両目は開けて。腕は……》
動画内で、俺はインストラクターに指導を受けていた。
ひととおりの説明が終わり、拳銃を構えて立つ。
ゆっくりと、絞るように人差し指を引いていき……。
パン! と発砲音が轟いた。
――瞬間、画面内から翻訳少女イロハが消えた。
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