第208話『世界新記録ホルダー』
《え!? おーぐって、ただ冷やかしに来ただけじゃなかったの!?》
《いや、それは合ってる。ただ、せっかくだし直接見たいなーってお願いしたら通っただけで》
ということは、居合わせたから依頼されたわけではない?
最初から、あんぐおーぐが59番目――”英語”の通話者だと決まっていた!?
認定員さんのほうを見ると……。
うわっ!? 彼女も「してやったり」という表情をしている。
《や、やってくれましたね。というか、いいんですか? わたしの知り合いを通話者として出しちゃって。不正扱いになったりとか》
《今さら、イロハさんの英語を疑う人はいませんよ。そもそも、なにもルール違反ではありませんし。私は「こちらが指定したネイティブスピーカーと話してもらう」としか申しておりませんから》
《……こんにゃろぉ》
俺は完全に謀られていたわけだ。
どうりで、やたらと笑顔だなーと思ったよ!
《なぁ、イロハ! どうだ、ビックリしたか!?》
《まぁ、したけど。ええいっ、うっとうしい! ドヤ顔でこっち見てくるな!》
>>おーぐ、これはうまくやったなw(米)
>>イタズラ好きの本領発揮って感じ(米)
>>これはいいサプライズ
《認定員さん、もう十分ですよね? おーぐも、もういいでしょ? 通話切るからね?》
《いいのか、そんな態度でー? どうしよっかなー、イロハのこと不合格にしちゃおっかなー?》
《ぬぐっ!? こ、こいつ……》
《あ、英語についてはもう合格扱いで大丈夫ですよ》
《なっ!? ちょ、ちょっと待てイロハ! いいじゃないか、もうすこし一緒におしゃべり――》
俺はムシして通話終了ボタンを押した。
通話が切れてもなお、あんぐおーぐがなにかを叫んでいるが聞こえないフリをする。
>>イロハちゃん、容赦なくて草
>>これはおーぐが悪いw(米)
>>おーぐが外野で抗議してるの、めっちゃ聞こえるwww(米)
《うるさいよー、おーぐ。認定員さん、彼女は放っておいて最後の言語に進みましょう》
《わかりました》
これで59ヶ国分の言語に合格したわけだ。
残りはついに、1ヶ国語だけ。
《では、いよいよ60ヶ国語目……大台となる言語への挑戦です!》
もはや聞きなれた呼び出し音。
最後のネイティブスピーカーと電話が繋がった。
『――ふははは~っ! この先に進みたければ、このあたしを倒していけっ!』
60ヶ国語目に聞こえてきたのは日本語だった。
あんぐおーぐが59ヶ国語目な時点でなんとなく予想はしていたのだが、通話相手は……。
『”みんな元気ぃ〜? みんなのお姉ちゃんだヨっ☆”
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>最後は絶対、彼女しかいないと確信していたよ!(米)
>>というかアネゴ、なぜそのセリフwww(米)
「うわ~、やっぱりあー姉ぇかぁ」
『え~、なにその反応~!? ひど~いっ! もっと全身全霊でよろこんでくれてもいいんだヨっ☆』
「というわけで、あー姉ぇでした。ありがとうございました」
『早い早いっ!?』
>>あいかわらずイロハちゃん、アネゴには辛辣なの笑う(米)
>>オフコラボなくなったせいか、こういうやり取り久々な気がするなー
>>今回の企画立てしかり、裏では結構しゃべってるらしいけどな
しかし、最後があー姉ぇか。
これは多少、労力をかけてでも58ヶ国語目をクリアしておいたのは正解だったな。
『配信見てたよ~! いや~、これはお姉ちゃんとして鼻が高いな~!』
「姉じゃないけどね? でも、ありがとう」
『そうでしょそうでしょ~! さすがあたし、カンペキな企画だった!』
「さっきの自画自賛だったの!? わたしを褒めてたわけじゃなくて!?」
>>草
>>けれど、ありがとうアネゴ
>>アネゴがいなかったら、イロハちゃんはギネス挑戦なんて絶対してなかったからな(米)
『イロハちゃん、今回の企画はどうだった? 楽しかった?』
「めっっっちゃ疲れた」
『あっはっは、イロハちゃんらしい! でも、本当にすごいよ姉ぇ~、60ヶ国語だなんて! イロハちゃんの声はそれだけ多くの人に、そして遠くの人に、届くようになったってことだもん姉ぇ~』
「……!」
『イロハちゃん、60ヶ国語達成おめでとう! お姉ちゃんは、これからもっともっとイロハちゃんの声が世界中のみんなに届くことを心から祈ってるから姉ぇっ☆』
「……ありがと」
あーもう、顔が熱い。
俺はそっぽを向いて、ちょっとぶっきらぼうになりつつも礼を言った。
こういうとき、あー姉ぇは本当にズルいと思う。
ギネス記録挑戦も、意外と悪くなかったな、という気にさせられてしまった。
まぁ、頼まれたって2度とやらないけどな!?
ともかく、これで一件落着……だと、思ったのだが。
『というわけで、ソー、サンキューサンキュー! エブリシング、サンキュー! オーケー! グッバイ!』
「なんで、そこで英語風なの!? 自分で立てた企画の主旨を理解してる!? あー姉ぇは今、日本語のネイティブスピーカー役として登場してるんだけど!?」
『……? オーケー! プリーズ、グッドラック!』
「うん、微塵もわかってないね!?」
そのまま、あー姉ぇとの通話は切れてしまった。
なんか最後の最後で余韻を全部、吹っ飛ばされてしまった気がするが……。
しかし、これでついに――60ヶ国語すべての審査が終了した。
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