第199話『ギネス認定員』
VTuberのライブを見に行く合間を縫って、配信したり、研究協力したり、あるいはもろもろの手続きや収録を済ませたり……。
そして、いよいよ
《”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハでーす。うわ~、とうとうこの日が来ちゃったなぁ》
>>イロハロ~(米)
>>この日をずっと心待ちにしてた!(米)
>>ヤバい、こっちまでドキドキしてる
《え~っと、今日はスタジオ借りての配信なんだけど、音量とか挙動とか大丈夫? あと今回はゲストの都合もあって、英語メインでの配信になってます》
俺がくるりと回って見せると、配信内の3Dモデルも一拍遅れてくるりと回った。
事前にテストはしているが、トラブルは起こるものだからな。
>>問題ないよ(米)
>>ゲストか~、いったいダレダロウナー
>>配信タイトルでバレバレなんだよなぁ(米)
《じゃあ、あまりお待たせしても申し訳ないし、さっそく登場してもらおうかな。今日のゲストはこちら。――ギネス記録の認定員さんです!》
《みなさん、はじめまして》
視線をとなりへ向けると、そこにはスーツにネクタイ姿の女性が座っていた。
配信画面上にも妙齢の女性が出現している。
>>まさかの実写で草(米)
>>超美麗3Dやんけ
>>認定員さん、今日はよろしくお願いします!(米)
《認定員さん、今日はこういった特殊な環境での計測にお付き合いくださって、ありがとございます》
《いえ、半分は私どものほうから指定したことでもありますので。とはいえ、まだちょっと慣れませんけれど。距離感とか、あたり一面が緑色なのとか》
《認定員さん!? バーチャルワールドでお願いしますね!? グリーンバックじゃなくて!》
>>草
>>お前もグリーンバックって言うなwww(米)
>>認定員さん、ちょっと天然入っててオモロイ
さらにいえば、配信上はすぐとなりに立っているが実際にはわりと距離があったりもする。
クロマキー合成などの技術によって、この配信は成り立っている。
《お~い、イロハ~! ガンバレよ~!》
《……もう。わざわざ見に来なくていい、って言ったのに》
>>今の声、おーぐやんけ!?
>>なんかガヤいて草
>>イロハのいるところなら、どこにでもいるなコイツw(米)
撮影エリアの外側からあんぐおーぐが手を振ってくる。
彼女は今日もベッタリ……いや、今回にかぎっては冷やかしに来た部分が大きいか。
《しっかし……なーんで、こんなことになったのか》
俺は思い起こしていた。
きっかけはそう――ジオ・グエッサー配信中の行動だった。
せっかくだから、と文字を判別できた言語で話したりしていたのだが……。
ちょうどその最中に、これまで俺が配信上で使用した言語数が現在のギネス記録を越えていたらしいのだ。
《わたし、いつの間にそんなにも言語覚えてたんだろ。正直、もう自分じゃ数えてなかったから知らなかった。もはや、わたし自身よりwikiのほうが”翻訳少女イロハ”に詳しいんじゃない?》
>>本人が一番、自分に興味ないの草
>>すごいことのはずなんだけど、イロハの価値基準はVTuberだからなぁ(米)
>>これ記事まとめてくれた人がいなかったら、この配信もなかったんじゃないか?
《あ~、そうかも》
あの日、晩ご飯の最中にあんぐおーぐに言われたのもそれだった。
自分ではほとんど見たことがなかったのだが、wikiが話題になっていたらしい。
《かといって、本気でギネス記録に挑戦しようなんて思ってもなかったんだけどなぁ》
>>アネゴの企画力に感謝
>>なんだか、アメリカに来てからアネゴからイロハへの企画増えてないかい?(米)
>>引っ越してからちょくちょくコラボはしてるけど、それでも妹分が心配なんだろ
《あとは切り抜き師みんなのおかげだね。わたしが外国語を話してるシーンをまとめて動画にしてくれたでしょ? あれのおかげで申請がすごく楽だった。じゃなきゃ、途中で面倒くさくなって投げてたかも》
ギネス記録は必ずしも、申請すれば計測してもらえるものでもない。
つまり、こうして俺がギネス記録に挑戦できるのはwikiと切り抜きと……それから、お金のおかげなのだ!
いや、冗談ではなく。
今回、俺はギネス記録を申請するにあたって『優先サービス』を利用した。
これのおかげで、本来なら半年かかるところが約10日だ。
かわりに追加でウン万円かかったが。
現金な話だが、こういう
痛い出費ではあったが、安い買いものだったと思う。
なにせこれで……うっかり、認定日と推しのライブが被ってしまう、なんて事態を回避できだのだから!
まぁ、仮に被ったとしたら俺は迷いなくライブを取るけどな!
あー姉ぇにあとで大目玉を食らおうとも、知らん!
《それじゃあイロハさん、いいですか? 今回のルールを説明させていただきます》
《よろしくお願いします》
そうして、俺のギネス記録への挑戦がはじまった――。
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