第198話『ギネス世界記録』

「『SPEED LIMIT 60』って、これだけの情報でわかるわけないじゃん!」


 俺はそう思ったのだが、しかし視聴者はちがらしい。

 ちらほらと「わかった」というコメントが流れていた。


「本気で言ってる?」


>>イロハちゃんが苦戦する姿が見れてうれしい

>>思った以上にちゃんと、国の勉強になってるなw

>>太陽の向きで北半球か、南半球か、赤道付近かわかるぞ(米)


「なるほど? えーっと、太陽があるのは南か。いや、だからって全然それだけじゃわからないんだけど!? ……いや、待てよ?」


 そこで俺ははたと気づく。

 これ、当てられるかもしれない。


「北半球にある英語圏ってイギリスかカナダじゃないの? けど、これは右側通行。ってことはイギリスじゃあない! つまり……答えはカナダでしょ!?」


>>おっ、なかなかいい推理

>>悪くない着眼点やな(米)

>>さっきのオーストラリアがいい感じに予習になってるw


 コメント欄でも褒められる。

 我ながらいい閃きだった。このゲームにも慣れてきたかもしれない。


「これは自信ある。というわけで『グエス』! ほら正解は……どぅえええ!? あ、アメリカぁ!? わたし今まさに、そこに住んでるんだけど!?」


 当たり前すぎて逆に盲点になっていた。

 だが考えてみると、たしかにここも北半球だ。


>>さすがにこれは草

>>発想は悪くなかった……まぁ、間違ってるんですけどね(韓)

>>普段、見てる景色じゃないのかwww


「いや~、その。だってアメリカってすっごく広いし? 州ごとに全然ちがうらしいし?」


 ひとつの州だけで日本の面積より広い、なんて場合もあるのだ。

 だからこのミスは仕方ないな、うん。


>>イロハちゃんが移動中、いかに外の景色に目を向けてないかがわかるなw

>>ずっとスマホでVTuberの配信見てる姿が想像できるwww

>>【悲報】イロハ、自分の住んでいる国すらわからない


「ぐぬぬっ。でも、これでアメリカとカナダを見分けるのはやっぱりムリじゃない?」


>>いや、わかるぞ

>>イロハちゃんも昔、配信で言ってたで

>>ヒント『マイル』(米)


「あ~っ!?」


 言われて、合点がいった。

 そんなところにヒントがあったのか!


「そうか、これヤード・ポンド法なんだ! どうりでキロ計算だと速度制限が厳しすぎると思った!」


>>せやで。カナダはキロメートル表記やからな

>>ヤードポンド法使ってるのは、世界にアメリカ含めて3ヶ国しかないから

>>さらにいえば、ジオ・グエッサーで出題されるのはその中でアメリカだけ


「うわ~。そう考えると、これは正解できる問題だったなぁ」


 惜しいことをしてしまった。

 しかし、思った以上にこのゲーム、しっかり外国文化を学べるな。


「よし、じゃあ今度こそ当てるから。……次の問題!」


 俺はそうゲームを進めていった。

 文字で答えがすぐわかってしまった国については、その言語でしゃべってみたりして。


 そうすると、その国の視聴者が何人かは混ざっていて、よろこんでくれたり。

 たまにはこういう交流も悪くないだろう。


「だから……この言語圏のVTuberさんのことも見てますからね! わたしファンです!」


>>海外ニキへのファンサービスかと思ったらちがって草

>>お前自身のファン活動かいwww

>>イロハ、こんな言語までしゃべれたのか?(米)


 と、そのとき俺のすぐ近くで声が聞こえた。

 コメント欄がざわついた。


>>今の声、おーぐ!?

>>「ごはん」って聞こえた気がする(米)

>>最近、ベッタリってトゥイッターで言ってたけど……もしかして配信中、ずっとそばにいたの!?


「……あ~。おーぐ、配信に声が乗っちゃってるんだけど?」


「エっ!? す、スマン……けド、イロハが珍しく熱中しテ、時間すぎてもゲームをプレイしてたのが悪イ。こっちはずっとご飯待ってるんだゾ」


>>ほんまにおって草

>>実質のコラボ配信やんけ

>>というか、それじゃあいっそオフコラボしてればよかったのに


「最近、コラボ配信が多すぎたからね。あと、おーぐはおーぐでやらなきゃいけない作業あったし」


 言いながら、ちらりとモニター隅の時計を確認する。

 気づけばもう晩ご飯の時間だ。


 いや~、俺が推している海外勢はこういうところで暮らしてるんだなーとか。

 こういう生活を送ってるんだろうなーって想像していたら、意外とおもしろくって。


「けど、たしかにいい時間だし次の問題で終わりにしよっか。最後は……ここ!」


>>これは瞬殺www

>>俺も絶対に正解してる自信あるw

>>ジオグエッサー簡単だな!


 表示されたのはあきらかに日本の街並みだった。

 あちこちに見覚えのある店の看板が映っている。


「最後の最後で故郷が来ちゃったか。それじゃあ『グエス』!」


 俺はすぐにマップを開いて、世界地図から日本をクリックした。

 気持ちよく、最後の一問を正解してゲームを終了する。


「それじゃあ今日の配信はここまで! ”おつかれーたー、ありげーたー”!」


>>おつかれーたー!

>>おーぐもお疲れさま(米)

>>いい感じにオチがついたなw


 そうして、配信を閉じた。

 その――わずか1時間後だった。


   *  *  *


 一緒に晩ご飯を食べていたあんぐおーぐが言った。


《オマエ、今日の配信でついに”ギネス記録”を越えたらしいぞ》


 ……え?

 俺は思わず、固まった。

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