第196話『ジオ・グエッサー』
強盗事件で負った傷もすっかり癒えたころ。
しゃべっても頬っぺたが痛まないありがたみを噛みしめつつ、俺は配信をしていた。
「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハです!」
>>イロハロ~!
>>イロハロ~!
>>イロハちゃん、親善大使の就任おめでとう!
まだ、ついさっき公式から発表されたばかり、のはずなんだが。
すでにコメント欄にはお祝いのメッセージが多数流れていた。
「みんな情報早いな~。今日の配信は、それの宣伝を兼ねてたんだけど。というわけで、”翻訳少女イロハ”改め”親善大使イロハ”です!」
言って、俺はプロモーション用の画像を表示させる。
しっかし、まさかこんなことになるとはなぁ……。
>>親善大使って、日本の観光PRしたりするの?
>>それは観光大使
>>じゃあ、どっかの国との友好を結びに行くのかい?(米)
「わたしの場合はどこか特定の国ってわけじゃなくて、国連だね」
>>ちなみに親善大使にVTuberがなるのは世界初らしいぞ(米)
>>さすがノーベル賞受賞者の肩書きはダテじゃない
>>バーチャルだと現地に行かなくてもいろいろできるしな
「だね~。ただ、通信とか体面とかいろいろ都合もあるみたいで。あっちこっちの国を実際に訪問することになりそう。といっても今すぐってわけじゃなくて、将来的にって話だけど」
ちなみに親善大使はあくまでも”協力”だ。
仕事ではないので当然、無報酬である。
いや、報酬はべつに構わないのだが、これでは配信を見る時間が減ってしまう!
もしかすると日程の都合で、VTuberのイベントに参加しそこねかねない!
正直、光栄なこととはいえ辞退するか迷った。
だが、強盗犯とのこともあるし、なにより裏にいるだろうあんぐおーぐの母親の顔がチラついた。
「で、親善大使に選ばれて思ったんだけど。わたしって言語はともかく、国そのもののことはあまり知らなかったりするんだよね」
アメリカに来てから、そのことは繰り返し痛感させられている。
さすがに現状のまま訪問するのはよろしくない。
……という名目で、あー姉ぇにとある企画を命じられてしまった。
いや、そんなことのために観光大使に選ばれたことを報告したわけじゃなかったのだが!?
>>たしかにイロハちゃんって知識に偏りがあるよな
>>いろんな国を回るなら、雰囲気ぐらいは事前に掴んでおきたいか
>>でも、実際に行かないとわからないんじゃないか?(米)
「みんな忘れてない? バーチャルなら実際に行かなくても体験は可能! というわけで」
俺は「じゃん!」と配信画面を切り替える。
すると、どこかの外国だろう風景が映っていた。
「今日はこちらの『
ゴーゴルマップを利用した地図ゲームだ。
遊びかたはいたってシンプル。ストリートビューで表示された場所がどこかを当てるだけ。
「現在地とマップに刺したピンとの距離でタイムとスコアを測る、っていうルールが有名なんだけど、ほかにも遊びかたがいくつかあって」
言いながら俺はゲーム画面を操作する。
そこには『カントリーストリークス』の文字。
「今回はこっちのルールで遊んでいくよ。表示されているのがどこの国かを特定する……いわゆる”国当て”ゲームだね。といってもわたしもあんまり自信ないんだけど」
まぁ、説明するよりやって見せたほうが早いだろう。
俺はさっそく『プレイ』ボタンを押下した。
「それじゃあゲームスタート!」
これは、いったいどこだ?
映ったのは、大自然を分断するような道路と、ちらほら走っている車。それだけ。
>>こんなの、わかりようなくね?
>>たぶん、わかった
>>マジ???
「えっ、もうわかった人いるの? すごっ!?」
>>いったいどうやって特定したんだ?
>>じつはある程度のパターンがあるんよ
>>車のナンバープレートとか、土の色とか見ればいいんやっけ?
「それは、わたしにはマネできないなぁ。さすがに、もうちょっと情報が欲し……あっ、わかっちゃった」
>>!?!?!?
>>え、イロハちゃんもうわかったの!?
>>なんでわかったのかがわからん
ストリートビューでぐるりと見まわしたところ、標識が視界に入ったのだ。
当然、そこには文字が書かれているわけで……。
「え~っと。ここアイスランドだね。だってこれ、アイスランド文字だし」
言いながら『グエス』してみる。
結果は……正解だった。
>>文字を見つけてからの特定までが早すぎるwww
>>もしかして、文字さえ見つけたら瞬殺できるのでは
>>標識の判断が、プログエッサー自負してたオレより早いんだが?
「へ、へぇ~! アイスランドってこんな感じなんだね! わー、すっごい自然豊か!」
俺は誤魔化すようにそう叫んだ。
マズい、完全に油断していた。
もしかして、この企画……想像以上に言語チート能力が活躍しすぎてしまうのでは!?
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