第148話『イケない肉体言語』

 あんぐおーぐは”あたり”の割り箸を握りしめ、こちらに迫ってくる。

 いや、そんな俺の手元を凝視したって透視できるわけでもあるまいに。


「よシ、決めたゾ! 命令はアネゴと同じダ! 1番が王さまのほっぺたニ……ち、ちちちチュウをしロ!」


「おっ、あたしだ~!」


 あー姉ぇが1番の割り箸を掲げていた。

 俺はホッと息を吐く。


「なっ、なんでアネゴが1番を引いているんだヨ!?」


「ほらっ、おーぐ! ルールなんだから逃げちゃダメだよ~! チュゥ~ジュルジュルジュル!」


「ギャァ~~~~!?」


>>放送事故になってないか、これwww

>>やはり日本はヘンタイの国……最高だ!(米)

>>日本じゃ女の子同士はみんな、こんなエッチなゲームをしているのかい!?(米)


 コメント欄も大盛り上がり、異様なほどに同接も増えていた。

 このままじゃ日本がすさまじい方向に誤解されるぅううう!?


「ふぃ~、あ~おいしかったっ☆」


「うっ、ウウっ……そうカ。自分にリスクがなくテ、かつ利益を得られる命令じゃないとダメだったのカ」


「おーぐさんの自業自得だねぇ~。欲にまみれた命令をするから、そうなるんだよぉ~!」


「ちょっとみんな、次が最後だからね? それ以上は、わたしもう参加しないから!?」


 3人が「えぇ〜っ!」と不満の声を上げるが、覆すつもりはない。

 このままだと俺までエスカレートしていってしまいそうで……。


 なんだか、俺も気分がふわふわとしていた。

 まさかとは思うが、間違ってアルコール飲んでたりしないよな?


 と、疑ったがそんなことはなかった。

 身体が幼いせいで、匂いだけで酔っ払ったみたいになっているのかも。


「これが最後の1回ダ! 頼ム!」


「お願いだからマイにもチャンスをぉ〜!」


「「「「王様だ〜れだ!?」」」」


 最後のあたりを引いたのは……。


「ふっふっふ。今日のあたしはみんなのお姉ちゃんじゃない。みんなの王さまだ〜っ!」


「さ、最後まで1回もあたりを引けなかったぁ~……」


「え〜っ、じゃあ命令はどうしよっかな〜。うん、決めた! みんなにはここにいる人の中で、だれが1番誰が好きか教えてもらおうかな~!」


 ちょ、ちょっと待て!?

 その命令って……!?


「ほらほらみんなっ、お姉ちゃんに告白してくれていいんだよっ☆」


「イロハが1番好きだゾ」


「イロハちゃんが1番好きぃ〜」


「あれーーーーっ!?」


 いやいや、こうなるのは目に見えてただろ!?

 あんぐおーぐとマイが目をギラつかせて俺に迫ってくる。


「ほラ、次はイロハの番だゾ」


「そうだよイロハちゃんぅ〜。ルールなんだから正直に答えないとぉ〜!」


「姉ぇ~、お願い! もうイロハちゃんしか残ってないんだよ~!」


 俺は3人に包囲される。

 やっぱりこの質問、俺だけワリを食ってるよなぁ!?


「ナぁ、イロハはワタシのことが1番好きだよナ!?」


「ねぇ、イロハちゃんはマイのことが1番好きだよねぇ〜!?」


「イロハちゃんはあたしのことが1番好きなんだもん姉ぇ〜!?」


 お、俺は……。


「か、勘弁してくれぇー!?」


 逃げ出した。

 しかし、「捕まえろー!」とすぐさまあー姉ぇの号令がかかる。


「うわぁー!? ぎゃあああ! イヤぁあああ!?」


 3人の魔の手から悲鳴を上げながら、逃げ回る。

 といっても狭い室内、捕まるまでそう時間は要さなかった。


 俺はうっかりなにかにつまずいて、転んでしまう。

 ここまでか、と思われたそのとき……。


「ん? これは?」


 俺が足を引っかけたせいで、あんぐおーぐの鞄の中身が散乱してしまっていた。

 その中のひとつ、真っ黒な袋から顔を覗かせていたのは……。


「まっ、待テ!? イロハ、それハぁ~!?」


「え~っと、なになに。『イ●ハ×あんぐ●ーぐ イケない肉体言語、教えてア・ゲ・ル♡』って、おい!?」


「ちちち、ちがうんダ!? それはワタシが興味あったとかじゃなくっテ、そウ! 資料というカ!」


「なんの資料だよ!?」


「百合営業、みたいなナ? ……せっかくだし音読とかしてみるカ?」


「だれがするかぁあああっ!」


 袋から出てきたのは、表紙がピンクピンクした同人誌だった。

 あんぐおーぐが顔を真っ赤にして弁解しているが、どう考えても誤魔化せる状況じゃないぞ。


「イロハちゃん!? 作品のタイトル出すのはちょっと!? 作者さんに迷惑が!」


「え、あっ!? ご、ごめんなさいっ! 思わず!」


>>私の作品が推しに認知されたと聞いて

>>ご本人キターーーー!(韓)

>>検索してポチってきました


>>あらすじ確認したら、おーぐが焦らしプレイされてた

>>本人がフルボイス化してくれってマ? うれしすぎて吐血した

>>作者よろこんでて草(米)


「作者さんも肯定しないで!? というかわたし、まだ未成年だから! というわけでこれは没収と」


「イヤぁあああ~!?」


 そんなこんなで『王さまゲーム』はうやむやのままに終わった。

 え? もしそうなっていなかったら、だれの名前を答えていたかって?


 それは……今はまだナイショだ。

 結局、その日のオフコラボ配信は夜遅くまで続いて――。


   *  *  *


「げほっ、ごほっ……あ゛~、おはよごほっ。……あ゛れ?」


 翌朝、俺はのどの違和感に首を傾げた。

 昨日はしゃぎすぎた以上に――声が、死んでいた。

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