第147話『王さまゲーム』

「ウェヘヘヘ~。イロハ〜、しゅきだゾ~!」


「ええいっ、うっとうしい! おーぐ、ろれつも回ってないよ!?」


「しょんなつれないコト言うなヨ~」


「ちょっとぉ~!? イロハちゃんから離れてぇ~!」


「あはははっ! だ、だめっ……もう、お腹痛いっ!」


 宴が地獄に変わるのはあっという間だった。

 テーブルには空き缶やお菓子の袋が散乱している。


 俺はツイスターゲームの上で、あんぐおーぐにのしかかられていた。

 マイはそんな彼女を引き剥がそうとするのだが、抱き着いてきて離れない。


「おい、おーぐ! 負けたんだから罰ゲームだろ!」


「チぇ~、仕方ないナ~。”ネっ、チュウ……しよウ”? イロハ~!」


「ぎゃぁ~~~~!? 来るな~!?」


>>は??? なんだこれ神回か?

>>いいぞ、もっとやれ(米)

>>俺は天国を見つけた(韓)


「ムムムっ? アネゴ、オマエ”ツカレナオース”が足りないんじゃないカ? ワタシが注いでやるヨ。アメリカじゃはビールはこう注ぐんダ。コップすりきれまで泡を立てないようにたっぷりだナ~」


「あはは~っ! 視聴者のみんないいでしょ~? 幼女からのお酌なんてサイコー!」


>>羨ましすぎて血涙が出そう(米)

>>アネゴそこ代われ!

>>俺もツカレナオースすりゅぅ~!


 ツカレナオース、というのはパラオ語でいうところの「ビールを飲む」だ。

 いや、ネタとかじゃなくてマジで。


 俺がさっき視聴者への雑談として話したのだが、あんぐおーぐが気に入ってしまった。

 ”おつかれーたー”の再来だ。


「言語って、いろんなところで繋がってておもしろいよね」


 ……って、こんな状況じゃなかったら言えるんだけどな!

 その間もあんぐおーぐは、あー姉ぇにダル絡みしていた。


 ちなみに、パラオ共和国(のアンガウル州)は世界で唯一・・・・・、日本語が公用語だったりする。

 日本語由来の言葉が多いのも、それが理由だ。


 そして”唯一”といったとおり、じつは日本の公用語は日本語ではない。

 なぜなら、日本は公用語を定めていないから。


 日本語ってほんと、いろんな意味でスゴい。

 だって、日本を出たらほとんど通じないし、使っているのもほぼ日本人だけ。


 あとはせいぜいグアム、韓国の釜山プサン、ハワイの一部くらい。

 にもかかわらず、世界で10番目に大きな言語だというのだから……いろいろとぶっ飛んでるよなぁ。


「プハ~っ! うまいっ、もう一杯! それと次はこれやらないっ? 王様ゲーム!」


「うげっ!?」


「……? ”キングスゲーム”?」


>>『真実か挑戦か』みたいなもんだよ(米)

>>トゥルース・オア・デア、ってなんだ?

>>質問に答えるか、命令に従うか、どっちかしないといけないパーティゲーム(米)


「へー! 外国にも似たようなのがあるんだ姉ぇ~。王様ゲームのルールも簡単だよっ!」


「そうなのカ~?」


 言って、あー姉ぇは割り箸の束を差し出してくる。

 くそうっ、配信じゃなかったら絶対にムシしてやるのに!


「王さまだ~れだ!」


 チッ、俺じゃなかった。

 当たったのは……。


「ン? これ先端が赤いけド、ワタシが王さまでいいのカ?」


「あちゃ~っ、おーぐが王さまだったか~! ほらっ、命令! 何番と何番が~みたいな感じでっ」


 あんぐおーぐは首を傾げながら、割り箸の先端を見ていた。

 俺は戦々恐々としながら、彼女の言葉に耳を澄ます。


「そ、そんなこといきなり言われてモ。え~っト、じゃあ1番と2番がハグ、とカ?」


 あー姉ぇの勢いに押されて、あんぐおーぐが答える。

 お前、酔っぱらっているからって、なにも考えてないだろ!?


「そんなぁ~!?」


 命令を聞いた瞬間、マイが悲鳴を上げて崩れ落ちる。

 彼女の手から転がった割り箸には『3番』の文字。


「うげっ!? それじゃあ、わたしたちが1番と2番か。悲鳴を上げたいのはこっちだよ!」


「イロハちゃん、おいで~っ!」


「はぁ~」


 俺は腕を広げて待ち構えるあー姉ぇにイヤイヤ近づく。

 手が届く距離になった瞬間、捕まえられた。


「ぎゅぅ~~~~っ☆」


「ナっ!? ずっ、ズルいぞアネゴ!?」


「おーぐさんが命令したんでしょぉ~!?」


「番号っテ、そういう意味だったのカ!? よ、よし早く次ダ! 今度はワタシがイロハと!」


 あんぐおーぐまでやる気を出してしまった。

 次の王さまは……。


「おっ、あたしだ! わっはっは! みんなひれ伏せ~っ!」


「よりによって最悪の暴君が生まれてしまった」


「ひど~いイロハちゃん! じゃあ命令はね~、1番があたしのほっぺたにチュウ!」


「またわたしー!?」


 今日は厄日か!?

 俺はおずおずとあー姉ぇに歩み寄る。


「ナっ!? そ、そんな王さまが自分になにかさせるなんてのもアリなのカ!?」


「お姉ちゃんばっかりズルいぃ~!」


 あんぐおーぐとマイがすごい形相であー姉ぇを睨んでいた。

 俺はおずおずとあー姉ぇに歩み寄る。


 彼女だって俺の推しだし、年ごろの女子。

 そんな相手にほっぺとはいえチュウだなんて!?


「……」


 まぁ、べつにあー姉ぇだしどうでもいっか!

 俺はチュッと彼女のほっぺに軽くキスをした。


「アぁーーーー!?」「ぎゃぁ~~~~!?」


 ふたりから悲鳴が上がる。

 ……んんん?


 今、俺なにした!?

 この空気に当てられて変なことしなかったか!?


「イロハが自分からだなんテ!? 王さまの命令はそこまで強力なのカ!? はやく次ダ!」


 ま、マズい!? 俺まで流されてきている。

 ここは早く終わらせないと!?


「王さまだ~れダ! ……キターーーー!?」


 そんなときにかぎって運命の女神はイタズラするらしい。

 あんぐおーぐが「ムフーっ」と鼻息を荒くしてこちらに、赤い印のついた割り箸を突きつけた。

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