第146話『萌え萌えキュン』
「いらっしゃいませ、にゃん! お嬢さま〜っ!」
「い、いらっしゃいませぇ〜。い、イロハちゃん……もうムリぃ〜!」
「なにしてるの、ふたりとも」
あのあと、別行動を取っていた俺たちのもとにあー姉ぇからメッセージが届いた。
場所を指定されていたから、と来てみれば……。
「ち、ちがうんだよイロハちゃんぅ〜! これはマイの趣味じゃなくて、お姉ちゃんがぁ〜!」
「ふっふっふ、かわいいでしょ~! そういうふたりは、なにしてきたのー?」
「わたしたちは言ってたとおり、ちょっとグッズを買いに」
言って、俺は手に下げたアニメショップの袋を見せる。
もちろん、全年齢向けだぞ? ほんとほんと。
「へ~。おっ、おーぐもなにか買ったんだ? 見せて見せて~!」
「だっ、ダメ!!!! ゼッタイに見るなヨ!?」
「そんなに怒らなくても」
「ぐるるるぅううう!」
あんぐおーぐが中の見えない真っ黒な袋を抱きしめて、あー姉ぇを威嚇する。
ほんと、いったいなにを買ってきたんだか。
「まぁでも、あー姉ぇたちも満足したでしょ? そろそろ晩ご飯でも食べて帰ろう」
「オマエ、自分の買いものが終わったかラ、さっさと家に帰って配信を見たいだけだロ」
「ち、ちがうよ? 今晩の配信に向けた準備をするだけだよ?」
「もうっ、イロハちゃんってば! けど、あいにくまだ帰れないんだな~これが!」
「へ? なんで?」
「ふっふっふ~。じつはおもしろそうだったから、つい……」
あー姉ぇが笑って、本職? のメイドさんにウインクする。
メイドさんはなにやらパネルを取り出して、にこーっと満面の笑みを浮かべていた。
「な、なんだかイヤな予感が」
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ~。先ほど、こちらのお嬢さま……いえ、
「あー姉ぇえええ~!?」
「いや~、試着だけって話だったんだけど、ここまできたら全部体験したくなっちゃった、にゃんっ♡」
あー姉ぇがねこのポーズを取ってみせる。
お前はまた、なんて余計なことを!
「マズい、おーぐ! 逃げるぞ! ……あの~、おーぐさん?」
一緒に逃げようとしたのだが、なぜかあんぐおーぐに背後からギュッと抱きつかれる。
これじゃあ、動けないんだけど……ま、まさか!?
「アネゴ、それってつまりワタシもイロハにご奉仕してもらえるってことだよナ?」
「もちろんっ!」
「すまないイロハ、ワタシはアネゴにつク」
「う、裏切ったなおーぐぅううう!?」
「ふっふっふ、イロハちゃんぅ~。マイもやったんだからぁ~」
「イィイイイヤァアアア!」
さすがに3対1じゃ勝てるわけないだろ!
俺は徹底的に辱めを受けるハメになった――。
* * *
「って感じだったんだよ姉ぇ~っ」
「うぅっ、汚された……」
「ムフーっ! イロハ、すごくかわいかっタ!」
俺たちは帰宅後、オフコラボ配信を行っていた。
話題は必然、さきほどのお出かけのことになる。
といっても身バレ防止のため、いろいろとフェイクは入れているが。
>>イロハちゃんのネコミミメイド姿、見たかった!!!!
>>だれかファンアートはよ(韓)
>>メイドは恥じらいが大事(英)
「みんな仲良く、イロハちゃんにお給仕してもらったんだよ姉ぇ~。オムライスにハート書いてもらったリ!」
「おかしいだろ! 普通、ああいうときってふたりずつ交代とかじゃないの!? なんでわたしが3人に給仕して、わたしは3人から給仕されてるんだよ! バランス悪いだろ!?」
「需要と供給の問題だから仕方なイ。諦めロ」
>>そのオムライスに100万ドル出すわ(米)
>>萌え萌えキュンとか言ったの?
>>マジ? うわ~、聞きたかった!
「ほら、イロハちゃん。リクエスト来てるよ!」
「も、もう好きにしてくれ」
メイド喫茶で、もう散々言わされていたし「どうにでもなれ」という気分だった。
それに俺だって配信者だ。
こうなったら思いっきりやってやらぁ。
萌え萌えキュンでも萌え萌えビームでもどんと来やがれ。
「ほらいくよ、イロハちゃん! 3……2……1……、キュー!」
「――おいしくな~れっ♡ きゃわきゃわっ、ぴゅあぴゅあっ、も~えも~えキュ~ン♡」
シンと一瞬、コメント欄が静まり返った。
その後、急に流れが早くなる。
>>ばっちりBGMミュートになってて草
>>保存しました(米)
>>でかした!!!!(韓)
「ミュートは聞いてないがぁあああ!? マイ! お前、謀ったな~!?」
「し、知ぃ~らないっ」
パソコンの前で、配信のお手伝いやモデレーター役をしてくれていたマイがすっとぼけた。
あー姉ぇめ、カウントダウンはこのためか!
「だれか切り抜き頼んだゾ。毎回、それを再生してから食事するかラ」
>>任された
>>↑有名な切り抜き氏やんけ!
>>受注生産は草
「よーしっ、おーぐの引っ越しも決まったことだし、今日は宴だ~! 酒とツマミ持ってこーい!」
「あれだけオムライスやパフェを食べたのニ、まだ食べるのカ?」
「お酒は別腹だって! あっ、お子さまなおーぐはムリしなくていいからね~」
「ムッキィ~!? マイ、ありったけを持ってこイ!」
「はいはぁ~い」
呆れた様子で、マイが部屋を出て酒類を取りに行く。
俺はなにかを察した。
「待て、おーぐ。この流れはマズい。あー姉ぇに乗せられるな!」
「イロハまでワタシを子ども扱いするのカ!?」
「ち、ちがうって。ほら、お酒の強い弱いはほとんどが生まれで決まるから! 2つの遺伝子のうち、両方強いとザル、片方だと普通、両方弱いとゲコになる。だから、お子さま体型は関係な……あっ」
「ま、また子どもって言っタぁ~!?」
そこへタイミング悪く、マイが帰ってきてしまう。
手にはお酒やおつまみ、それからパッキーなんかのお菓子まで乗ったお盆を持っている。
さらに脇にはツイスターゲームや、先端に番号の書かれた割りばしの束まで抱えていた。
いやなんで!? それはいらないだろ!
「それじゃあ、宴のはじまりだ~!」
俺は地獄のはじまりだと思った。
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