第143話『死神のアンサー』
二重課税が解決したからこそ、同棲が必要?
どんな因果関係だ!?
「おーぐさんぅ~、いくらイロハちゃんと一緒にいたいからってそれはぁ~」
「そういう文句ハ、まずワタシの話を聞いてからにしてもらおうカ!」
あんぐおーぐはビシッと手のひらを突き出して「待て」を示した。。
俺とマイはジトーっとした目を向けつつも、ひとまずは聞く姿勢を取る。
「前にも言ったが、大前提として日本とアメリカは”租税条約”を結んでいル。だかラ、二重課税は起きなイ。どちらか片方に支払うだけでいイ」
「けど、たしかおーぐと同じ事務所の子が……」
「あぁ、アメリカ出身のVTuberが二重課税を受けて日本から撤退しタ、って言ったナ」
「だよね。8割くらい税金持っていかれたって。どうやって解決したの? なにが原因だったの?」
「ないゾ」
「え?」
「原因なんてないゾ」
「……??? どういうこと」
「つまリ、あの事件はだナ……」
「――本人の”勘違い”だったんダ!」
「え、えぇえええ~!? あんなに大ごとになってたのに!?」
「あぁ、本人のただの”うっかり”だナ!」
「な、なんて人騒がせな。まぁ、そういうところもかわいいけど」
「あとですっごく照れながら謝ってたゾ。手続きしたラ、払いすぎた分もきちんと返還されたから安心しロ。みんなも税金で困ったときハ、すぐに税理士さんに相談するようニ!」
「「「はーい」」」
俺たちは声を揃えて返事した。
というか……。
「ただの勘違いだったなら、おーぐももっと早くにこっち引っ越してくればよかったのに」
「ワタシもそうしたかったんだガ、二重課税を解決してもなお税金が高くてナ。そこデ――”あんぐおーぐ”を日本法人化したりしてて時間がかかっタ」
「えっ!? まさか、今まで法人化してなかったの!?」
「いヤ、当然アメリカではしてたゾ。今回のハ、新しく日本に子会社を設立したって話」
「あ~、ビックリした」
かくいう俺も”翻訳少女イロハ”を法人化している。
というか、俺たちの年収で個人事業主のままだと税金で死ねる。
「それで今後は”商用ビザ”を取得して、日本で生活する予定ダ」
「なんていうか、大変だね~」
「なんのためだと思ってるんダ! まぁそれモ、あんまり意味がなくなっちゃったんだけどナ!」
「……? 日本でVTuberイベントに参加しまくるため? なのにアメリカ側が盛り上がっちゃったって話?」
「オマエと一緒にするナぁあああ!? さっきまでのワタシの話、聞いてなかったのカ!?」
「えっと、推しがうっかりやでかわいいって……」
「……オイ」
「じょ、冗談だよ!? いや、ホントホント!」
「たダ、それでも完全に日本に移住するってのはできないかラ、しばらくは半分アメリカ、半分日本って感じの生活をする必要があるんダ」
「引っ越すっていっても、永住ってわけじゃなかったんだ?」
「将来的にハ、永住権や日本国籍も取得したいけド、今はまだムリだナ」
「どうして?」
「そりゃワタシがファーストチルドレンだからに決まってるだロ」
「あっ」
「日本国籍を取得したラ、基本的にはアメリカ国籍は捨てなきゃいけないシ」
「な、なるほど」
納得の理由だ。
そりゃあ、アメリカを完全には離れられないわけだ。
「けド、ママが退任したあとは話がべつだからナ。うちの事務所を受け持ってくれてる日本とアメリカの税理士や弁護士が協力しテ、裏で手続きを進めてくれてル」
「こういうとき、やっぱり大手だと安心感があるな」
「ちなみニ、永住権を獲得するのに一番手っ取り早いのは日本人と結婚することダ。というわけでイロハ、ワタシとぜヒ……」
「だ、ダメぇ~!? それは絶対にダメだからねぇ~!? イロハちゃんは……そぉ~! まだ未成年だし、それに日本じゃ
会話している俺たちの間にマイが割って入ってくる。
あんぐおーぐが「チッ」と舌打ちした。
「まぁでモ、これでイロハもわかっただロ? ワタシもアメリカにも住居を用意しておかなきゃいけないんダ。イロハと同棲する必要があるんダ」
「なるほどね~!」
「それにイロハだっテ、アメリカでの生活を知ってるワタシが一緒にいたら安心だロ? 住む場所についてモ、基本的にイロハに合わせるから大丈夫だゾ」
「うーん、でもな~」
「イロハ……よく聞ケ。たとえば事件に巻き込まれテ、対処できずVTuberのイベントを見られなかったらどうするんダ? ワタシはそんな悲劇をイロハに背負わせたくないんダ」
「た、たしかに一理ある! そんなことになったら、わたし生きていけないかも!?」
「そうだろウ? だかラ、遠慮せずワタシを頼ってくれていいんだゾ!」
もし海外特有のトラブルだったら、ひとりじゃ解決できないかもしれない。
それに、あんぐおーぐだってアメリカの住居は必要なわけだし……。
「い、いいの? おーぐ?」
「もちろんダ。気にすることなんてなイ。半分はワタシの事情だしナ。これはあくまでお互いにとってウィンウィンな取引にすぎなイ。そしてなによリ……ワタシたちは友だちだロ!」
「……っ! そうだよね! ありがとう、おーぐ!」
俺は感動し、あんぐおーぐを『ひしっ』と抱きしめ……ようとしたところで。
間に立っていたマイが「ストぉ~ップ!」と叫んだ。
「騙されてる! 騙されてるよイロハちゃんぅ~!? 冷静に考えてみて。おーぐさん、アメリカに住む必要はあってもイロハちゃんと同棲する必要はないからね!?」
「……ハッ!?」
「そもそも、なんで同棲
言われてみたら、そうだ。
あんぐおーぐは『ぷくーっ』と頬を膨らませていた。
「マイがいる場所で交渉したのは失敗だっタ。あとちょっとだったのニ」
「ほんと、油断も隙もないよぉ~!」
あ、危うく騙されるところだった。
うーん、けど……それはそれとして。
「ねぇ、おーぐ。わたしたち――本当に一緒に住もっか?」
「!?!?!?」
あんぐおーぐが、口をあんぐりとさせていた。
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