閑話16『0円でなれるVTuber!~サムネイル編~』
「ッテ、なんですかコレェエエエ!? この動画、めちゃくちゃじゃないデスカァアアア!?」
ワタシは撮影し終わった動画を再生して、崩れ落ちた。
いろいろと問題だらけだった。
「カミカミだったり落ち着きないのは構いマセン。ガ、あまりにも音質が悪すぎマス!? ガサゴソと雑音塗れダシ、音が割れまくってるクセにものすっっっごく音量が小さいデス!?」
「あぁ~、やっぱりダメだったかぁ~」
「『やっぱり』!?」
「いやぁ~、マイクの設定まだだったからぁ~」
「マイサン!?」
さっきの意気込みはいったいなんだったのか。
マイサンも「大丈夫」とお墨つきをくれていたのに。
しかし、どうやらこれには理由があったらしい。
というのも……。
「マイクは種類によって全然、必要な設定が変わってくるからぁ~」
とのこと。
つまり、デフォルトの音質をたしかめたかったのだろう。
そういえばマイクを購入する際、マイサンは「安いマイクはどこまで誤魔化せるかが勝負」と言っていた。
お金をかけなかったしわ寄せが今、来ているということか。
「ケレド、まさかここまで酷いとは思いませんデシタ」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよぉ~。きちんと改善できるからぁ~」
マイサンに言われながらOVS上でマイクにフィルタを設定する。
症状ごとに対処もある程度、決まっているとのこと。
「音量が小さければ”ゲイン”を上げる。雑音が気になるなら”ノイズ抑制”や”ノイズゲート”、音割れに対しては”コンプレッサー”。あとはフィルタを通す順番」
「フムフム……」
設定自体はすぐに終わった。
改めて音質チェックと、練習を兼ねて動画撮影をしてみる。
「だんだんと話し慣れてきマシタ。それにさっきと全然、音がチガウ! すっごくクリアになりマシタ!」
「ハードに頼れない分は、ソフトに頼る! どうやったって元の音質次第で頭打ちになっちゃうけどねぇ~」
「イエッ、それでも十分デス!」
人は『ある』ものには気づけても、『ない』ことにはなかなか気づけない。
ワタシはこれまで、当たり前のようにイロハサマの配信を聞いていた。
不快感の
しかし、じつはそれが多大なコストをかけて実現されていたことを身をもって知った。
「視聴者にすら『高い!』って言われながらも、たとえばASMRのためとかに、何百万円もする防音室や高級マイクを買っている理由がなんとなくわかるよねぇ~」
「ナッ、何百万円!?」
イロハサマにプレゼントしてASMRコラボする計画だったのだが、想像より桁がいくつも上だ。
これは相当、がんばらないといけないぞ!?
それはともかく、ひとまずはトゥイート用の自己紹介動画もこれでOK。
残るは……、あれ?
「残リ、デビュー前に必要な作業ってなにがありマスカ?」
「なにも」
「エ?」
「VTuberデビューの準備はこれで全部だよ。ただし、
サムネイルとは動画の”顔”だ。
もう、なにかを自作することにも苦手意識はない。
これまでで散々、学んできた。
困ったことはすべて――ソフトが解決してくれる!
「今回はどんなソフトを使うのデスカ?」
「正直……なんでもいい!」
「エェっ!?」
なんでもいい、と言われると逆に困ってしまう。
けれど、どうして?
「じつはサムネイルを作れるソフトって、すっごくたくさんあるんだよねぇ~。極端な話、ペイントソフトならなんでもいいわけだしぃ~」
「ナ、ナルホド」
「たとえば、さっきイリェーナちゃんに使ってもらってたソフトでもいいからねぇ~」
「さっきのってMediband Paintデスカ?」
「そぉ~そぉ~。むしろ向いてるかなぁ~。オンラインフォントって言って、最初から”映える”フォントがいくつも使えるようになってるから。大変なフォント集めをしなくてもすむよぉ~」
「そ、素材集めって大変ですカラネ」
BGMのときの苦労を思い出し、苦い気分になる。
せっかく手元にあるし、ワタシはMediband Paintを起動してみる。
「タシカニ、最初からいろんなフォントが使えマスネ」
「でしょぉ~。まぁこのソフトでなくても、たとえばテンプレートがたくさん用意してあるソフトを使うでもいいけどねぇ~。極端な話、サムネに必要な条件ってキャンパスサイズが1280×720pxであることだけだからぁ~」
「そ、それは暴論な気ガ」
「あははぁ~。まぁせっかくだし、ひとつくらいこのまま自分で作ってみたらぁ~?」
「そうデスネ。せっかくデスシ……」
と真っ白なキャンパスに向き合ったはいいものの、手が止まる。
どう手をつけていいかわからない。
「最初はだれかのサムネをマネするでもいいと思うよぉ~。お姉ちゃんのデビュー初期のサムネを見てみるぅ~?」
「あ、見たいデス!」
「えぇ~っと、ちょっとまってねぇ~?」
マイサンにキーボードとマウスを預ける。
しかし、なかなか見つからないようだった。
「あれぇ~、ないなぁ~? もしかしたら規約に引っ掛かってたとか、あるいは事務所の指示とかで削除しちゃったのかもぉ~」
「ソレハ、仕方ありまセンネ」
「だねぇ~。かわりに……あっ、この人でいっか。去年にデビューしたばかりのVTuberさんみたいだけど、イリェーナちゃんと近い方法でデビューしてるっぽいしぃ~」
ワタシは示された新人VTuberを確認する。
え~っと、名前は……。
「――『
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