閑話9『0円でなれるVTuber!~周辺機器編~』

「ねぇ~、マイの言ったとおりだったでしょぉ~?」


「ハ、ハイ」


 ワタシの前には大金――1万円札が鎮座していた。

 こんな経験は人生ではじめてだった。


 それが起こったのは年明け――日本では”オショウガツ”というらしい。

 大叔母が突然、小さな封筒を取り出して言ったのだ。


「あけましておめでとぉさん。はいこれ、お年玉ねぇ」


 困惑していると大叔母が説明してくれた。

 日本では、年が明けると子どもはおこづかいをもらえるのだ、と。


 ……なぜゆえ?

 気になったので、一応調べてみた。


 もともとはお金ではなくお餅を渡していたそうだ。

 そして、もらったお餅を入れてお雑煮を食べていた、と。


 しかし生活が豊かになるにつれ……と。

 まぁ、本当かどうかわからないが。この話を聞いたマイサンも「へぇ~、知らなかったぁ~」と驚いていたし。


「それで必要ナノハ、あとマイクとヘッドホンと、カメラでしたッケ?」


「だねぇ~。どんな配信をするにせよ、その3つは必須。せっかくだし、組み立てたこのパソコンでネットショップを確認……の前に、忘れてた! 初期設定がまだだったねぇ~」


 デスクトップパソコンの前に、ふたり並んで座る。

 ワタシは「そうイエバ」と気になって訊ねた。


「お姉サンが使ってたデータ、残ってるなら削除しナイト」


 相手は秘密厳守のVTuber。

 うっかり知ってしまったらマズい情報もあるだろう。


「それは大丈夫だよぉ~。ちゃんと”フォーマット”してから持ってきたからぁ~」


「フォーマット?」


「えぇ~っと。わかりやすく言うと、復元が難しい状態にまで消してあるってこと」


「ナルホド」


「記録メディアを処分するときは、ただデータを削除するだけじゃ復元できちゃうから、気をつけなきゃダメだよぉ~?」


 よくわからないが、そういうことらしい。

 つまり、物理的に破壊すればオールオッケーってことかな?


あなた・・・ってわりと、そういうゴリ押しするとこあるよねぇ~」


「失敬ナ!?」


「まぁ、いいやぁ~。それで初期設定だけど、注意点は2つだけかなぁ~」


 1.身バレ対策に、VTuber名でアカウントを作ること。

 2.アカウント名は半角英字にしておくこと。


「1.はわかりマスガ、2.はどうしてデスカ?」


「日本語はバグる可能性があるからぁ~」


「ヘ~、そうなんデスネ」


「いやほんと、これが結構めんどうくさくてぇ~。回避する方法もあるけど、最初からローマ字にしておいたほうが100倍ラクだから」


 言われながら設定を進める。

 そして、いざアカウント名を入力しようとして思い出す。


「ソウダ、言い忘れてマシタ」


「んぅ~?」


「ワタシが転校して来てカラ、いったい何ヶ月経ってると思ってるんデスカ? ダカラ、これからワタシのことは『あなた』ではなく――VTuber”イリェーナ”と呼んでくだサイ!」


 そう宣言した。

 これは完全に決まったなと、ワタシは満足した。


「えぇ~っと。まぁ、あなたがいいなら、そう呼ぶけどぉ~。えっ、リアルで? なんというか、ちょっとこの子”チュウニビョウ”入ってるというか頭がメルヘンというかぁ~」


「なんデスカ?」


「あぁ~、いやっ! なんでもないよっ! それより、とりあえず汎用ソフトを入れて……と。よしっ。さっそく商品を見ていこっかぁ~?」


 マイサンはまるで誤魔化すみたいに、ブラウザを開いた。

 有名なネットショップAWAZONだ。


「ソレデ、どれがいいんデショウカ? そもそも1万円で必要な機材が全部、揃うのデスカ?」


「うん、大丈夫。ゲーミングパソコンさえあれば――VTuberデビューするのに、1万円もかからない!」


 マイサンは「まずはぁ~」と検索欄に『ヘッドホン』と入力した。

 値段はピンキリだ。


「どれがいいとかアリマスカ?」


「正直、これは好みだねぇ~。『周囲の音が入ってこないから集中してゲームができる!』って完全密閉型を選ぶ人もいれば、『自分の声が聞こえなくてしゃべりづらい!』ってセミオープン型を選ぶ人もいるしぃ~」


「どっちがイイカ、わかりマセン」


「じゃあ、とりあえずコレでいいと思うよぉ~。比較的、軽いし。値段も3000円くらいだし」


「ナルホド、重いと長時間配信するとき、大変デスカ。じゃあコレヲ……」


「ちょ~っと、待った。ひとつプラグイン入れてもいいぃ~?」


 プラグイン?

 と疑問に思いつつも、ワタシはつい頷いてしまった。


 マイサンはブラウザを新しく開き、なにかを調べはじめる。

 すこしして、ブラウザの右上にジグソーパズルのピース? のようなものが追加された。


 再度、AWAZONの商品ページに戻ってくると、さっきまでなかったものが表示されている。

 なんだろう、これ? グラフ?


「これは『Awazon Price Tracker』っていって、値段の推移だよ。この商品は、えぇ~っと……1ヶ月ごとにセールをやってるみたいだねぇ~。買うなら来週のほうがお得かも?」


「そんなことまでわかるのデスカ!?」


「そうそう。それで次はWebカメラ。パソコンの上につけるカメラだねぇ~」


「これもいっぱいありマスネ」


「そうだねぇ~。解像度がちがったりして、普通の配信者ならお金がかかるんだけど……その点、VTuberデビューするだけなら最低限でオッケー!」


「どうしてデスカ?」


「あくまでアバターを動かす、トラッキングに使うだけだから。720pで30fps、この2000円のやつでひとまずは十分だよぉ~」


 ワタシは心底、感心していた。

 マイサンはなんでも知っているのか、とさえ思った。


「スゴイ、スゴイ! マイサンはパソコンについて本当に詳しいのデスネ! ……ソウダ! これからマイサンのことを”パソコンマスター”って呼びマスネ!」


「それはホントにやめて」


 マイサンは間延びしてない声で、本気の拒絶をした。

 え、ダメですか? かっこいいと思ったのですが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る