閑話8『0円でなれるVTuber!~モニター編~』
「このままじゃあパソコンを使えマセン!?」
「ごめんねぇ~。モニターは家に余っているのがなくってぇ~」
「あっ、イエ! そういうつもりデハ!?」
ただでさえ、これだけもらってしまっているのだ。
これ以上の要求なんて、できるはずもない。
「あと念のために言っておくけど、モニターはパソコンの本体じゃないからねぇ~? 実際に作業するときモニターを見てるから、知らないと最初は勘違いしがちだけど、必須じゃないからぁ~」
「わ、わかってマスヨっ!? けど、モニターなしでパソコンを動かすことなんて可能なんデスカ?」
マイサンは「ちっちっち」と指を振った。
それから彼女はワタシにひとつの質問を投げかける。
「甘ぁ~い! ねぇ、もしかしなくても家にテレビが余ってたりしてないぃ~?」
「エ? ありますケレド……ッテ、それでいいんデスカ!?」
この家には元々、大叔母だけでなくその子どもたちも住んでいた。
その関係で家には使っていないテレビが残ってはいるが……。
「ソノ、テレビとモニターって一緒なんデスカ?」
「一概に”同じ”とは言えないけれどねぇ~。とりあえず見せてもらってもいぃ~?」
ワタシたちは部屋を出て、大叔母にテレビを借りる許可をもらいに行った。
大叔母は快く「好きにしたらえぇ」と言ってくれた。
「このテレビで合ってるぅ~?」
「ハイ」
そうして、ふたりして別室にあるテレビと対面する。
ワタシにはよくわからないが、マイサンは裏側を確認して、スマートフォンでなにかを調べていた。
「HDMIも繋がるし、解像度も……よしっ。ところで普段、ゲームしたりするぅ~?」
「ええと、スウィッチなら少しダケ」
「そのまま? それともテレビに繋いでぇ~?」
「ちょうど、そのテレビに繋いで遊んでいマシタ」
「なら、大丈夫だねぇ~」
「???」
「じゃあ運ぶよぉ~。そっち持ってぇ~。……せぇーのっ」
そこまで大きくないテレビのため、ふたりで運べばそこまでしんどくはない。
が、ふと気づいた。
「マイサン、よくパソコンをワタシの家まで運んでこれまシタネ?」
「うん、お母さんに手伝ってもらったから平気ぃ~」
「……今度、ワタシもマイサンのおうちに行かせてくだサイ」
「ほぇ? なんでぇ~?」
「なんでも、デス」
いつか、マイサンのお姉さんやお母さんにもきちんとお礼を言いに行こう。
ワタシはそう固く誓った。
「ふぅ~。これでひとまずパソコンを動かすだけなら機材は揃ったねぇ~」
「あのソレデ、テレビをパソコンの画面に使っても大丈夫なのデスカ?」
「普段、このテレビでゲームしてて違和感がないなら大丈夫かなぁ~。けど、もしも本格的にPCゲームをやるなら、遅延も大きいしやっぱりモニターは買ったほうがいいけどねぇ~」
「そういうものなのデスカ」
「そういうものなのぉ~。それに多くのテレビは、リフレッシュレートが60Hz……1秒間に画面が60回更新されるんだけど、最近の人は70Hzくらいまで知覚できるってウワサもあるしぃ~。昔は”人間の目では30Hzまでしか知覚できない”って言われてたらしいけどねぇ~」
「に、人間ってすごいデスネ」
「だねぇ~。あとはリフレッシュレートが高いと、そのコンマ数秒分だけ相手より未来が見えるわけで……って、このあたりの説明はまだいらなかったかぁ~」
ワタシが頭から煙を上げはじめたのを察して、マイサンは説明を止めた。
それから「大丈夫だよぉ~」と安心させるように言う。
「スウィッチやプレスタ4は、そもそもゲーム側が60Hzまでしか対応してないから、普通に遊ぶ分にはそこまで差もないしぃ~」
「そ、そうデスカ?」
「とはいえ、ゲーム配信をするなら、モニター……というかディスプレイが最低でも2台は欲しいけどねぇ~」
「ワタシ、同時にふたつの物なんて見れませんケレド」
「マイもだよぉ~。けど、それじゃあゲームの映像とパソコンの画面、どっちか片方ずつしか映せないでしょぉ~?」
「たしかニ!?」
「まぁ、やりようがないでもないんだけどねぇ~。……よしっ。せっかくだし、ほかの周辺機器についてもまとめて説明しちゃおっかぁ~?」
「エェっ!? マダなにか必要なのデスカ!?」
すでにキーボード、マウス、ケーブル、モニターが揃っている。
これだけあれば十分にパソコンは動くはずだ。
「あなたがしたいのはネットサーフィンじゃなくて配信でしょぉ~? それなら最低限必要な機材がいくつかある。具体的には――ヘッドホンとカメラ、それからマイク!」
「……ナルホド」
今、言われた3つもモニター同様、マイサンは持ってきていない。
ということは自力で調達しないといけないのだけれど……。
「ケド、どれを買ったらいいのかワカリマセン。それに、あまりおこづかいもありマセン。イロハサマに貢ぶ分は削れませんシ」
「なるほどそこは削れないから仕方ないねぇ〜!」
「ですヨネ〜!」
そうワタシたちは意気投合した。
マイサンとは恋のライバルだが、しかし悔しいことにファンとしてすごく気が合うのだ。
「じゃあ、そうだねぇ~。どれを買うかは……もうすぐ冬休みだから、それが明けたら一緒に選ぼっかぁ~?
「どうして解決するのデスカ?」
「え? それは……あ、そっかぁ~。まぁまぁ、それはあとの楽しみってことでぇ~」
「???」
ワタシが首を傾げていると、マイサンはにや~っと笑った。
* * *
そして、冬休み明け。
まるで予言のごとく、マイサンの言葉は的中していた。
ワタシの前に大金が鎮座していた――!
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