閑話7『0円でなれるVTuber!~パソコン編~』

「もらって来たッテ、いったいどこカラ!?」


 目の前に鎮座したデスクトップパソコンを見て、ワタシは声をあげた。

 マイサンは堂々と答えた。


「それはねぇ~、うちのお姉ちゃんから!」


「エェッ!? い、いいんデスカ!?」


「いいんだよぉ~。押入れの肥やしになってただけだしぃ~。むしろ『ぜひ持って行ってくれ』だってぇ~」


「ケド……」


 こんな幸運があってもいいのだろうか?

 しかも、普段あんなにもいがみ合っている相手からなんて。


「もし負い目を感じてるなら、今度のクリスマスはマイにイロハちゃんを譲ってくれてもいいんだよぉ~?」


「ア、ソレはナイデス」


「あっれぇ~!?!?」


 それとこれとは話がべつ。

 イロハサマのことだけは譲れない。


 というか、ここで譲れるようならVTuberを志していない。

 マイサンも期待していなかったのか「ま、べつにいいけどぉ~」とすぐに切り替えていた。


「ただ、このパソコンってお姉ちゃんがデビューするときに使ってたやつだから、もう結構古いんだよねぇ〜」


「そうなのデスカ? きれいに見えますケド」


「パソコンで大事なのは中身だよぉ~」


 マイサンはそう言って、パソコンについて語ってくれる。

 そもそもパソコンは消耗品なんだから、と。


「一般的には4~5年で買い替えらしいよぉ~。まぁ、壊れてからじゃ遅いしねぇ~。アッポル社の商品だってそれで、発売から5年くらいでサポート終了しちゃうしぃ~」


「ウーン。長いのか短いのか、よくわかりマセン」


「マイもだよぉ~。あと、ぶっちゃけ実際にはもっと長期間使ってる人が多いってぇ~」


「そういうの、なんて言うんでしたッケ?」


「自己責任、かなぁ~?」


 来年のこともわからないのに、ワタシには4年後のことなんて想像もつかなかった。

 まだ日本にいるのか、それともウクライナへ帰っているのか、はたまた……。


「性能的にはギリギリ、数年前のミドルスペックゲーミングPCって感じかなぁ~?」


 言いながら、マイサンはボロボロの『じゆうちょう』を取り出した。

 そこにはつたない文字でなにかの名前? と値段が書かれていた。


 OS    :Windoms10

 CPU    :iutel Core i5-8400

 メモリ  :8GB×2

 ストレージ:SSD 256GB、HDD 1TB

 GPU    :NVIOIA GeForse GTX 1060 3GB


「コレ、どういう意味ですか?」


「そうだねぇ~。ざっくり言うと『お値段10万円でPCゲームや配信ができる!(ギリギリ。当時)』って書いてあるかなぁ~?」


「なるほど、わかりマセン!」


「だよねぇ~!? マイも自分のおこづかいがかかってなきゃ、こんなに詳しくなんてならなかったよぉ~!」


 マイサンが急に興奮して、こちらに迫ってくる。

 目元には苦労の涙が見て取れた。


 彼女が目で「聞いてくれ!」と訴えかけてくる。

 ワタシはやむを得ず「なにかあったのデスカ?」と問うた。


「もともと、このパソコンは学生時代にお姉ちゃんがアルバイト代を貯めて買ったもの……というか『バイト行ってくるから代わりに買っといて!』ってマイが頼まれたんだけどぉ~」


「ちょっと人使いが荒いデスガ、そこまで問題はないのデハ?」


 マイサンがぽつりとなにかを呟いた。

 ワタシは聞き取れず「エ?」と聞き返した。



「――お金がっ! 足りてなかったのぉおおおぉ~っ!!!!」



「エェエエエっ!?」


「『あまった分はマイのおこづかいにしていいからね~!』じゃない! 逆にマイがカンパしなくちゃいけなくなりそうだったんだよぉ~!?」


「それは、なんとイウカ」


 マイサンの姉は、イロハサマとのコラボでよく見かける。

 だからその奔放さは知っていたが……うん。


 見てる分には楽しいけど、身近にいると大変な人だな!?

 ワタシはちょっとだけ、マイサンに同情した。


「あぁ~、グスン。話を戻すと、ここに書いてる以外にも実際にはマザーボードとか電源とかケースも必要だねぇ~。のちのちパソコンの買い替えは必須だし、このあたりの知識は覚えておいて損ないよぉ~」


「そ、そうデスカ。けど正直、理解できる自信ありマセン」


「そんなときにはオススメの呪文があるよぉ~?」


「呪文、デスカ?」


「うん。それは――『店員さんのオススメで!』」


「エェエエエ!? そ、それでいいんデスカ!?」


 じゃあ、さっきまでの説明は!?

 覚えなくてもいいの、アレ!?


「ただし注意点として、家電量販店じゃなくて、PCパーツ・・・店で聞くことねぇ~。値段と相談しながら、コスパがいいのをチョイスしてくれるからぁ~」


 マイサンはほかにも店員さんに聞くメリットを教えてくれた。

 PCゲームの要求スペックは年々上がってるから、それに合わせたパーツ選びをしてくれることとか、パーツごとの相性とか、組み立てるときの注意とか、ウンチクとか。


「事前にやりたいゲームが決まってたりすると、スムーズだねぇ~。ゲームの推奨スペックよりちょっと上のパーツを買うだけだからぁ~」


「じゃあ、マイサンもそうされたんデスネ」


「ううん? マイはお金足りなかったからネットで買ったよぉ~?」


「アッレェ~!?」


「多少の調べる意欲と時間があるなら、ネットでBTOパソコンを買うのがすごくコスパいいからねぇ~」


「びーてぃーおー、デスカ?」


 また知らない単語だ。

 次から次へと新しい言葉が出てきて、目が回りそうになる。


「Build To Orderの略だねぇ~。注文してから、作って、配達してもらえるの。プロの人が組み立てまでやってくれてるから、すぐに起動できるしぃ~……なにより安い!」


「エ。ジャア、もう全部それでいいノデハ?」


「ただ、届くまで時間がかかるんだよねぇ~。パソコンって時間経過とともに、相対的にスペックが落ちていくから……どっちがいいかは人によるかなぁ~」


「ナルホド」


 受注生産だからこそ時間がかかるが安い、か。

 ワタシの場合、いずれ買い替えるときは早めにBTOを……というのがよさそうだ。


「あとこれ。マウスとキーボードとケーブルと……とりあえず、あまってたの持ってきたからぁ~」


「ありがとうございマス。ッテ、アレ?」


 並べてみて気づく。

 なにか、肝心なものが足りてないような?


「って、あぁっ!? ――本体・・がナイ!?」

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