閑話6『0円でなれるVTuber!~準備編~』

「0円でVTuberになれるんデスカ!? ケド、ネットで調べたら……何十万円もかかるッテ」


「それはやりかたと、条件次第だよぉ~」


「そっ、そうなんデスカ?」


 マイサンの言葉に、思わずワタシの声音にも喜色が滲んでしまう。

 まさか、そんな方法があっただなんて!?


「だから、とりあえず……今日の放課後、そっちの家に行くねぇ~!」


「わかりました!」


 ワタシは力強く頷いた。

 ……って、うん???


「エェエエエ!? ま、マイサンがワタシの家に来るんデスカ!?」


   *  *  *


「お邪魔しまぁ~す」


「ど、ドウゾ」


 ワタシはマイサンと一緒に、現在住まわせてもらっている家へとやってきた。

 日本に避難して来てから、だれかをこの家に呼ぶなんてはじめてだ。


 正直、すごく緊張する。

 ワタシに割り当てられている部屋へと案内する途中で、「今さらだけど」とマイサンが口を開く。


「そういえば親戚のおうちだっけぇ~? マイ、もしかして来たらマズかったかなぁ~」


「そ、そんなことないデスヨ。親戚の家と言っても……」


 説明をしようとしたところに「あれま」としゃがれた声が聞こえた。

 その人はこちらを見て、シワまみれのやさしい笑みを浮かべていた。


 こういうのを”ウワサをすればカゲ”って言うんだっけ?

 ワタシもずいぶんと日本の慣用句を使いこなせるようになったもんだ。


「オバアチャン。ただいまデス」


「はい、おかえり。お友だちかぇ? よぅ来たねぇ。外、寒かったでしょぉ。ゆっくりしていきなねぇ」


「ありがとうございますぅ~。おじゃましますぅ~」


 見送られて、ワタシの部屋へ。

 すぐにマイが納得した声をあげた。


「そっかぁ~、おばあちゃんが日本の人だったんだぁ~」


「イエ、本当はオオオバサンなんですケド……そう呼んで欲しいッテ」


「そっかぁ~。やさしそうな人だったねぇ~」


「……ハイ」


 大叔母は好きなだけ住んでもいいと言ってくれている。

 もう息子たちも家を出てしまっていて、部屋も余っているから、と。


 ワタシたちは本当に幸運だと思う。

 親戚に頼れる人がいて、しかもそれがこんなにいい人だなんて。


 それこそ――故郷で別れた友人たちに罪悪感を覚えるくらいに。


「どうかしたのぉ~?」


「な、なんでもありまセン! それより、これからどうすればいいのデスカ?」


「そうだねぇ~。さっそくだけどパソコン見せてもらってもいいぃ~? 持ってるって言ってたよねぇ~?」


「ハイ。コレデス」


 言ってワタシはノートパソコンを見せた。

 瞬間、マイサンの表情はしぶーいものになった。


「パソコンってこれ……学校から支給されてるやつじゃんぅ~!?」


「エ? ハイ、そうですケド?」


 日本に来て驚いたことのひとつだ。

 なんでもGIGAスクール構想? とかいうので、ひとり1台ずつタブレットやノートパソコンなどの端末が支給……というか、補助金が出て購入する必要があるとか。


 あとは自宅にWi-Fi環境も必要とのこと。

 宿題するのに必要らしい。


「これクローメOSなんだよねぇ〜。それ自体が悪いわけじゃないけど、ソフトの問題とかあるし。なによりやっぱり、スペックが足りてないかなぁ~」


「つまり、このパソコンじゃダメなんデスカ?」


「そうだねぇ~。まず新しいパソコンを買わないとVTuberデビューは厳しいねぇ~」


「!?!?!?」


 ワタシは「話がチガウ!」と思った。

 期待していた分、マイを問い詰めてしまう。


「でも、マイサンは0円でVTuberになれるッテ!」


「いや、本当に0円でVTuberになれるわけないじゃんぅ~」


「エェエエエエエエ!?」


 ――そうして冒頭に繋がる。

 マイサンは「言ったでしょぉ~?」と続けた。


「0円でデビューできるかは、やりかたと条件次第だぁ~って。当たり前だけど、スマートフォンもパソコンも持っていない人が0円でデビューしようとしても不可能でしょぉ~?」


「それは、タシカニ」


「ほかにも、最初からヘッドフォンを持っている人、マイクを持っている人……前提条件は人によって全然、ちがってくるんだよぉ~」


 そう言われると反論できない。

 けど、騙されたような気分だ。最初から全部持っていたら0円、だなんて。


「スマートフォンだけでVTuberになる方法もないわけじゃないんだけど、あなたの目標を考えるとそれも厳しいかなぁ~」


「……」


「けれど、ね」


 黙りこくってしまったワタシに、マイサンは微笑む。

 ワタシはその笑顔につられて顔を上げた。



「意外なほど世の中には――ほぼ0円でVTuberデビュー出来る人がたっくさんいるんだよぉ〜!」



「本当、デスカ?」


「うん。VTuberデビューはみんなが思ってるよりもずぅ~っとハードルが低いんだよぉ~! とにかく、今はマイに任せてぇ~っ」


 言って、マイサンはウインクした。

 ……錯覚、だろうか?


 ワタシは目をごしごしと擦った。

 一瞬、語尾……というか目元から、☆マークが飛んだような気がした。


   *  *  *


 ――それから1週間後。


「あの、マイサン? こここっコレ、いったいどうしたんデスカ!?」


 ワタシの自室に、なぜかデスクトップパソコンが鎮座していた。

 マイサンはほがらかに笑って、言った。


「もらって来たのぉ~!」


「もらって来たッテ、いったいどこカラ!?」


「それはねぇ~」


 ワタシの当然の疑問にマイサンは、ケロっとした表情で答えた――。


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