第67話『進学校の四天王』


 うちの学校の四天王について語ろう――。


   *  *  *


 1人目。

 まずは王道。

 スーパー文武両道な天才イケメン。


 最初に説明するが、四天王の中でマジメに授業を受けているのはコイツだけだ。

 この学校では不思議なことに、とくに点数がいいヤツほど、勉強していなかったり変人だったりする。


 彼はすべてを飄々とこなし、授業後は時間の多くをスポーツ系の部活に費やしている。

 そのうえ超がつく金持ちで、モデルをしているほどの高身長高ルックス。


 他校にまでファンクラブがある、という話も聞いたことがある。

 キミ、世界観間違ってない……? 少女マンガの世界から飛び出してきたのかな???


   *  *  *


 2人目。

 すべての授業時間を寝て過ごしているクセに、テストで満点を取ってくる天才。

 しかも塾にすら行っていないらしい。


 そいつが教科書を開いているところを、だれひとりとして見たことがないとか。

 聞けば「全部覚えてるから、面倒くさいし持ってきていない」とのこと。


 一度見たものは忘れないし、話した内容は場所日時を分指定で記憶している。

 いやそれ瞬間記憶能力じゃん!?


 俺よりよっぽどチート能力者じゃねーか!?

 という驚き以上に、そういう人間ってマジで実在するんだなとある種の感動すら覚えた。


   *  *  *


 3人目。

 未来のマッドサイエンティスト。

 いつも授業そっちのけで変なことをやっている。


 職員室の鍵破り、偽のテスト答案販売、理科室でのぼや騒ぎ、両替機からの窃盗、校庭におっぱいを描く、など。

 たった1ヶ月でこれだけの事件を起こしている。


 なんでも「思いついたら試さずにはいられない」らしい。

 倫理観どこいった???


   *  *  *


 そして、4人目。

 本物の・・・語学系ギフテッド。


 母親が中国人で父親がイタリア人、小学校までが英語授業で、住んでいるのが日本。

 なかば生まれながらのクワドリンガル。


 環境上、すべての言語を日常的に使っているそうだ。

 しかも、どの言語も中途半端セミリンガルではなく、ネイティブレベルで使いこなしている。


 それが理由か、非常に語学力が高い。

 中学1年生にしてすでに10ヶ国語以上も習得している超がつく天才。






 ――にさえ「理解不能」と言わしめた語学の怪物!

 イロハ!!!!


 ていうか俺だった。


   *  *  *


 いやー、世の中にチートではなく才能として、本当にこんな能力を持つ人間が存在するだなんて。

 事実は小説よりも奇なりだなぁ……。


 って、遠い目でもしようかなと思ってたら、知らん間に俺が四天王になってるぅううう!?


 あっれぇえええ!? 4人目ってそのクワドリンガルだったよな!?

 いつの間に代替わりしたんだ!?


 正直、こうなった原因が俺にはさっぱりわからなかった。

 英語が堪能なだけでは、あきらかにほかの四天王とは釣り合っていない。

 帰国子女がウヨウヨとしている学校だ。


 かといって英語以外の外国語を、学校内で使った記憶がない。

 つまり、原因がわからない。


 そのわりには「英語はとりあえずイロハ神に聞いとけ」「古文もとりあえずイロハ神に聞いとけ」「あとは漢文もイロハ神に聞いとけ」「ついでにフランス語とイタリア語とドイツ語と中国語と(以下略)もイロハ神に聞いとけ」なんてウワサが飛び交っている。

 その呼びかたマジでやめろ。


 学校側でポカをしていないなら、考えられる可能性はひとつ。

 ほかの場所からバレた、だ。

 つまり……。


「もしかしてこれ、俺のVTuber活動バレてね?」


 そんなわけで、俺はウワサの真相と出所について調べて回るハメになった。

 こんなヒマがあったら配信を見ていたいのに!


 ……で、幸いにもウワサの原因はあっさりと特定できた。

 それは先代四天王――正確には彼の”発言”だった。


 発言を再現すると、だいたいこんな感じらしい――。


   *  *  *


「ボクはもうダメだぁあああ!」


「お、おい!? いったいどうして泣いてるんだ!? お前は四天王だろ? お前みたいにクレイジーな語学力の持ち主が、なんで自信をなくしてるんだ!」


「フ、フフ……いや、ボクは世界の広さを知らなかっただけさ」


「どうしたんだよ、そんなに達観して」


「ひっぐ、えっぐ……あ、あのイロハって女マジでヤベーんだよぉおおお!」


「イロハぁ? あぁ、たしかに彼女は英語が得意みたいだが、それだけだ。お前みたいに母語が4つもあったり、全部で10ヶ国語も20ヶ国語もしゃべれるわけじゃないだろ?」


「ボクもね、最初はそう思ってたんだ。それでちょっと鼻っ柱を折ってやろうと、ケンカを吹っかけたんだ。アメリカ英語がうまいだけで調子に乗るなよ、って。とりあえずジャブでイギリス英語をかましたんだけど……」


「どうだったんだ?」


「ノーリアクションで、ワードチョイスから発音までイギリス英語で返された」


「なっ!? い、いや。それくらいなら俺にだってできるさ!」


「あぁ、キミもかなりの語学力だもんね。それでボクは続いてドイツ語、中国語、イタリア語と次々に切り替えながら話しかけたんだけど……あいつ、平然とボクと同じ言語で返してきやがった!」


「な、なに!?」


「それも2つ3つじゃない! ボクはムキになって、ボクに使えるすべての言語を試して……そして、全滅した」


 元・四天王は語る。


「――彼女は本物の怪物だ」

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