第66話『VTuberの収入』


 収益は得ているはずなのにいつまで経っても金欠のまま。

 それはいったいなぜだろうか?


 もちろん、プレミアム代金や夏期講習の費用に苦悩していたころに比べればずっとマシだ。

 先日の記念配信での投げ銭はもちろん、メンバーシップ代もある。


 国際系VTuberとしてはありがたいことに、スーパーチャットを送れる国が増えたことも追い風になっていた。

 たとえばインドネシアなんかも、去年まではスーパーチャットができず、ドネーションで投げる必要があったりしたからなぁ。


 ……え? ドネーションのほうが配信者としてはオイシイ?

 仲介手数料0パーセントだから? 上限5万円の縛りもないから?


 す、スーパーチャットのほうが投げる手間は少ないから!

 あとは、公式ゆえの安全性? とかあると思う多分!


 正直、今回のことでグッズを販売するVTuberが多い理由はちょっとわかった。

 販売する物品にもよるが、利益率でいえばそちらのほうが高くなったりするのだ。


 実際、世の中にはスーパーチャットの収益が少なく、グッズやボイスの販売で生計を立てているVTuberも多い。

 それって、なんというか……。


 ……い、いや。この話題はこのくらいにしておこうか。

 ほかの収入の話をしよう。


 なにげに大きかったのは、ちょくちょくもらえるようになった案件配信だった。

 報酬の相場はおおよそチャンネル登録者数×2~4円。


 しかもMyTubeからの収益とちがって、即金でもらえる。

 これが、今の俺には本当にありがたかった。


 なんでも昔はもっと安くて、登録者数×1.5円~3円だったそうだ。

 しかし、時代なのだろう。今はテレビ広告よりネット広告のほうが効果が大きくなってきており、単価も上がっているとのこと。


「うーん、出費の予定があまりにも多すぎるな」


 部屋の防音化は最優先。

 いや、そもそも引っ越す必要があるかもしれない。


 仮に自宅で3D配信を行う場合、防音かつ広いスペースが必要だ。

 部屋に物が多いとトラッキングの邪魔になってしまう。


「改装費用にトラッキング機材。間違いなく予定納税も来るし……」


 個人所有で現実的なトラッキング装置は……。

 赤外線式で、本体が8万円。追加のトラッカーが1個1万5千円×7~8個。


 これがもうワンランク上の赤外線式になると、桁が1つ~2つ変わる。

 俺の収入ではムリだな。


 さて。それだけ費用が掛かっているなら控除も大きくなるのでは?

 と思いがちだが、それにもいろいろと限度がある。


 たとえばモノによっては、減価償却扱いで分割して計上することになったり。

 そうなると初年度にかぎり、実際の出費より控除が少なくなる。


「今後に備えてお金を残しておかないとだし……はぁ」


「はぇ~、大変だぁ~。……ところでイロハちゃん」


「な、なに?」


「さっきからずぅ~っと、なにかはぐらかしてるよね? ずっと本題を避けてるよね? いったいなにがあったのかなぁ~?」


「ギクゥッ!? ……あ~、じつは中学でちょっとあって」


 俺は観念した。

 目をそらし続けていた話題に向き合うことにする。


「へぇ~、どんな?」


「ちょっとあったというか、みんなの態度が変というか。なんか、わたし……英語の神さま? として同級生から崇め奉られてるっぽい」


 それを聞いたマイが爆笑した。

 お前ぇ!? こっちは真剣に悩んでるんだぞ!?


「崇め奉られてるって、どんな風に?」


「そうだなぁ、具体的には――」


 俺は盗み聞いた、同級生たちの会話を再現した。


   *  *  *


 中学校生活が始まってから1ヶ月。

 まるでチュートリアルは終わった、とでも言わんばかりに授業スピードは加速していた。


 進学校だけあって非常に授業のレベルは高い。

 が、同じくらい生徒たちのレベルも高かった。


 彼らのなにがすごいって、理解力がハンパない。

 1を聞いてきちんと1を理解するのは当然。1を聞いて10を知ることができる天才がゴロゴロいる。


 そりゃ授業スピードが一般的な学校の何倍にもなるわけだ。

 じつはみんな俺と同じく人生2周目だったりしない?


 多くの生徒が塾で予習して来ているのだろうが……。

 だとしても末恐ろしい。


 ウチの学校はテストの点数さえ取っていれば、基本的に自由だ。

 授業中に内職していようがゲームしていようがほかの科目をやっていようが、怒られることはない。


 だから俺は、古文や漢文、英語の授業時間をほかの科目の課題などに充てている。

 それでようやくどっこいどっこいって、ほんとどうなってんだこのバケモノ集団。


 ……と、バケモノ扱いしていた彼らに、俺は怪物扱いされているらしい。

 いやいや、どういうこと!? 俺、中学校で英語以外の外国語を話した記憶がないんだが!?


 ウチの学校には帰国子女も多い。

 だから英語ができるだけでそこまで目立つはずがないのだ。


 たしかに海外経験なしでこの英語力はレアケース。

 しかし、その程度は誤差になるほど、もっとおかしな生徒はほかにたくさんいる。


 その証明のためにも、とくにイカれた同級生たちを4人紹介しよう。

 彼らは俗に”四天王”と呼ばれている――。

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