第65話『3Dの裏話とお金の話』
「へぇ~。それじゃあ3Dお披露目は大成功だったんだねぇ~」
今日は家にマイが遊びに来ていた。
マイに「そのまま寝ころんだらシワになっちゃうよぉ~」と制服を脱がされながら、俺は自室のベッドでゴロゴロとダラけていた。
「そうそう。トレンドもばっちり1位も獲得したし、わたしたち3人のスクリーンショットがトゥイッターのタイムラインを席巻したみたい。それにグッズ販売もはじめてやったけど、なかなか売れ行きいい感じ」
「それはよかったよかったぁ~」
直筆サインだけは本当に疲れたが。
VTuberの配信を見ながら作業を進めたのだが、それでも腱鞘炎になるかと思った。
まさか推しを見ることによる癒し効果を貫通してくるとは。
なんて恐ろしい……!
「そういえばイロハちゃん、誕生日ケーキはどうだったぁ~?」
「うん、おいしかった――って、そうだ! あのサプライズ、マイもグルだったでしょ!」
「えへへぇ~、バレちゃった? じつはお姉ちゃんのマネージャーさんから家に電話が来て、イロハちゃんの好みやアレルギーを尋ねられたの」
「へー。って、なんでマイに? 直接、あー姉ぇに聞けばいいじゃん」
「だってお姉ちゃん、絶対にボロ出すもん。なんでも、お姉ちゃんがサプライズの存在を知ったのって、渡す直前……お歌の最中だったらしいよぉ~?」
「そういうことか! どうりで、わたしが気づかなかったわけだ」
マネージャー含め、みんなあー姉ぇのことをよくわかっているなぁ。
台本を見ながらでもあれだけの演技ベタなのだ。
だからこそ俺は意表を突かれた。
それに疑問にも思っていた。まさか、あー姉ぇがあんな見事に隠しごとができるなんて、と。
「けど、歌の最中かぁ。なるほどなぁ」
じつは3Dお披露目は全編がリアルタイムのライブ配信、というわけではない。
歌部分を含めて、いくらかは前撮りした映像を流している。
その間に水分補給や進行確認などをするわけだが……。
おそらく、そこのスキを突いて情報共有をした、ということだろう。
「あのときはわたしも必死だったからなぁ」
はじめての3D配信中で完全に目が回っていた。
まわりを気にする余裕なんてなかった。
正直、歌部分を前撮りにしたのは大正解だったと思う。
ただでさえ俺は歌やダンスがヘタクソだ。今回はとくに激しい振りつけがあったわけではないが、それでもいっぱいいっぱいだった。
その上、歌やダンスは機材トラブルが起こりやすい。
実際、かつて大手事務所の現地イベントにて、開催直前に機材トラブルが起こり、あわや中止あわやチケットの返金対応……となりかけたことがある。
リスクヘッジとしては妥当だろう。
それに、デメリットばかりではない。
カメラアングルの細かな指定、エフェクトや歌詞など演出の追加、音量調整や
前撮りはライブ感がなくなる一方で、高品質なものが届けられるのだ。
このあたりは一長一短だな。
俺個人としては当然、どちらも大好きだ。
いや、そもそも「どちらも」という表現がおかしいか。
「それぞれ」べつの楽しみかたをするものなのだから。
また、人によっては映像を流している最中も裏で歌ったり踊ったりしているそうだ。
気持ちを途切れさせないため、だとか。
俺がマネしたら間違いなく体力がもたないな。
「けど正直、マイは意外だったよぉ~。イロハちゃんがお姉ちゃんのところの、事務所の機材を借りることに了承するなんてぇ~」
「へ? なんで?」
「だって、事務所に行くってことは、そこでうっかり、ほかのVTuberさんと遭遇しちゃう可能性だってあるわけでしょぉ~?」
「そのあたりは大丈夫。スタッフが配慮してくれたから」
俺が廊下を移動する際は、前後をスタッフに囲まれた上に「ただいま演者さんが移動中なので、すこしお待ちくださーい」とほかのVTuberさんに声かけしてくれた。
うっかり、VTuber同士で遭遇してしまわないように。
じつは、外部とコラボする際など、こういった対応をすることは珍しくないそうだ。
実際、収録で事務所にお邪魔していたときに、ほかの演者さんが移動中とのことで、逆に俺が待機するパターンもあった。
見
とはいえ「見たくないから」というのはレアケースらしいが。
「へぇ~、そんな感じなんだぁ~。けどほんと3Dよかったよぉ~。またやったりしないのぉ~?」
「今のところ、予定はないかなー。しいていうなら『1周年記念』になるんだろうけど。まだ2ヶ月以上も先だし、今度はさすがに自分でスタジオを借りることになりそう。いっそ自宅に3D機材を揃えるべきか悩み中」
「はぇ~、なんだかすごそうだねぇ~」
「だねー。お金がいくらあっても足りないよ」
先日も、3Dモデルの費用も支払ったばかりだ。
それに合わせて、スマートフォンを最新機種でトラッキング精度の高いものへと新調したり、機材も買い足したり……。
あとは今回の3D配信のためのロゴや素材、楽曲の作成費用、グッズの作成費用。
不思議だ。稼いでいる以上にお金が出ていっている気がする。
「金欠は解消された、はずなんだけどなぁ」
せっかくの機会だ。
VTuberが得られる収益について、もうすこし深く語ろう――。
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