第62話『3Dお披露目』
配信画面にムービーが流れる。
”翻訳少女イロハ”のこれまでの軌跡が、次々と表示されては消えていく。
その最後を飾ったのはひとつのロゴ。
かわいらしく装飾された『イロハ3Dお披露目&誕生祭』の文字だった。
すべてが消えたあとに、ひとつのシルエットだけが残っていた。
パッ、と視界が明るくなり……。
「”わたしの言葉よあなたに届け!” 翻訳少女イロハです! みんなー、ついにわたしが3Dになったぞー!」
>>イロハロー!
>>うおぉおおおおおお!
>>¥50,000 3D化&誕生日おめでとう!!!!
くるりと回ってポーズを取ってみせる。
一拍遅れて配信上の”イロハ”もくるりと回る。
>>は??? かわいすぎるんだが!?
>>ぎゃわいぃいいい!
>>$500.00 誕生日おめでとう!(米)
「ありがとー! というわけで誕生日記念にあわせて、3Dデビューしましたー。なお、今回の配信は某大手事務所さまに全面バックアップしてもらってます。こんな機材を自力で買いそろえるとかムリだからねー。みんなも感謝を忘れないように」
>>某っていうかアネゴの事務所だろwww
>>運営さんありがとう
>>このレベルのトラッキングしようとしたらウン千万かかるもんな
そんなわけで俺は現在、あー姉ぇたちの事務所にお邪魔している。
その中にある撮影スタジオにて、四方八方からカメラとライトを向けられていた。
今の俺はずいぶんと愉快な格好だ。
トラッキング用の全身タイツに、グローブに、ヘッドギア。
それぞれ全身の動き、細かな指の動き、表情や口の動きを捉えてくれる。
「しかしまだ、こうして3Dで動きながら話すの慣れないよ。……ぜぇ、はぁ。もう疲れてきた」
>>体力なさ過ぎて草
>>3Dだからダルそうな態度が丸わかりなの草
>>体調大丈夫?
精度が高いから、細かな動きまでしっかりと視聴者に伝わる。
この設備はいわゆる光学式トラッキングというやつだ。
本来、ただ3Dをやりたいだけならここまで大掛かりなものは必要ない。
複数人を同時にトラッキングしようとしたり、しないかぎり。
この設備を貸してもらえたのは、あー姉ぇやあんぐおーぐが「記念配信で3Dコラボをしたい」と掛け合ってくれたおかげだ。
と言いたいところだが、事務所側からの提案だった。
それだけ俺を買ってくれている、ということだろう。
実際、登録者数も本当に増えた。
50万人を突破したのも今は昔。
この3D化が起爆剤となれば、100万人越えも夢ではないところまで来ている。
これは個人勢としては異常な数だ。
それだけ海外需要が大きかった、ということだろう。
もしこの提案がなければ俺は、個人的にスタジオをレンタルして利用するつもりだった。
費用は1時間でウン万円。
まぁ、わりと現実的な値段ではある。
しかし、これほど大掛かりなことやコラボを実現することは難しかっただろう。
一応ほかにもVR機器や、慣性方式のモーションキャプチャデバイスを購入するという選択肢も考えていた。
が、どちらも光学式に比べれば安価だしスペースも取らないが、だんだんと位置ズレするなどの欠点があり、なかなか難しいところだ。
「体調はもう万全だよ! 体力ないのはもとからだから心配しないで。ちなみに画面のここんところっ! ……ここっ! この説明のとおりだから、みんな好きな言語でコメントしてねー」
ぴょんぴょんっと跳ねて、配信画面の斜め上に表示されている文字を示す。
あ、ちょっとズレてた。このあたりだった。
>>本当にこれだけの種類の言語に対応できるのかい!?(米)
>>コメント欄が一気にカオスになって笑っちゃった(仏)
>>ぴょんぴょんかわいい(韓)
今、俺の前や横にはいくつもモニターが吊るされている。
それぞれに配信画面だったり、コメントだったり、カンペだったりが表示されている。
俺はチラチラとそれを確認しながら配信しているわけだが……。
今はまだ、配信画面の背景は真っ白だ。
「ちょっと画面が寂しいですね。バーチャル空間では珍しいことじゃありませんが、まわりになにもありません。と思いきや、こんなところに!」
ガラガラと画面外から台車を引っ張ってくる。
そこには世界地図とダーツセットが乗っかっていた。
>>草
>>ダーツの旅行だろこれwww
>>日本の有名なコメディ番組? 把握した(英)
「このダーツが当たった国へ遊びに行きたいと思います。バーチャルなら移動も一瞬だからね。ダーツの本場であるイギリスのみんなにもかっこいいとこ見せちゃうぜ。……ほいっ」
俺がダーツを投げる
トラッカーつきのダーツをスタッフのひとりが持って走り、とある国に刺し……刺し……なかなか刺さらねぇな!?
>>ダーツ飛ぶのおっそwww
>>これは百発百中だなw
>>なかなか刺さってなくて草
「おっけー? ……よし、おっけー! え? 本当に投げてないだろって? いやいや、そんなことしたらスタジオや機材に傷とか、背景素材の準備とかゲフンゲフン。えーっと、この国はどこだろう? わー、ドイツだー! では行ってみましょいっ!」
俺は半分、棒読みになりながら腕を突き上げた。
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