第44話『マルチリンガルVTuber会議』

「『マルチリンガルVTuber会議』ぃ~!」


「「「「わー!」」」」


「というわけで本日は4人のマルチリンガルなVTuberにお越しいただきました。マルチリンガルならではの悩みやあるある、外国語を覚えるコツなどをみなさんから聞ければなと思います。まずはプロフィールから!」


 画面にだれかの自己紹介カードが表示される。

 そこには習得言語や外国語にまつわるエピソードなどが書かれている。


「ほうほう! なんと7ヶ国語も使えるんですね! 一部、気になるものが混じっていますが……こちらはだれの経歴でしょうか!」


「ハイ! ワタクシです!」


 元気に声を上げたのはフクロウモチーフのVTuberだ。

 使える言語は英語、ドイツ語、イタリア語、日本語、中国語、韓国語など。

 俺のようなエセではない本物のマルチリンガルだ。


「日本語もすっごい流暢ですねー。ただひとつ気になる点が。この最後にある”トリ語”というのは?」


「ワタシはフクロウなので! トリ・・リンガルなんです! ”フートゥ”!」


 彼女はフクロウの鳴きマネをしてみせる。

 俺は《あなたはおもしろいフートゥですね》と返しておいた。


「母国語は英語ということでいいんでしょうか?」


「イエ! ややこしいんですが母国語はドイツ語です。さらにいえば出身はドイツじゃなくオーストリアです。そして今、住んでいるのはアメリカです」


「えーっと、こんがらがってきました! 大丈夫ですかー視聴者のみなさん、ついてこられてますかー?」


>>なるほどわからん

>>完全に理解した

>>つまりすごいってことだな!


「ダメみたいですねー。ちなみにほかの言語はどうやって覚えましたか?」


「日本語は幼いころから字幕でアニメを見ていて、気づいたら覚えてました。イタリア語、中国語、韓国語はすでに覚えている言語に近いので。自発的に選んで、習得していきました」


「すごいですね! 外国語を覚えるのに苦労した経験はないんでしょうか?」


「スゴクあります! 挫折したことだって何度もあります! とくにラテン語は覚えようとしましたが、めっちゃ難しくて諦めました。アレ、意味わかんないよ!」


「すでにこれだけたくさん習得していても、新しい言語を身につけるには苦労するものなんですねー。言語によって大きく向き不向きがあるんですかねー」


 そんな感じにインタビューは進んでいく。

 司会役が聞き上手なため、非常にテンポがいい。あー姉ぇがいるときとは大違いだ。


「次のかたは――」


「イギリス出身です。そのあとは両親の仕事の都合で海外を転々として生活してきまして」


>>にぎりずし出身?

>>にぎりずし永遠に擦られてて草

>>最初に噛んだのが運の尽きやったなwww


「なるほど、実際に住んでいた海外の数は今回の参加者の中でもダントツで――」


 と、海外での生活や文化を実体験してきた人や……。


「出身はぁ日本どぅえ――」


「ん? コメント欄では日本語もあやしいと言われてますが? なんでも普段から、だれにも聞き取れない言語を使ってるとか」


「だぁうれだそんなこと言ったやつぅわぁー! アチシそんなに滑舌悪くぁないわぁー!」


 あまりにも舌足らずで「”第三の言語”を話している」なんて言われているネタ枠など。

 参加者はいずれも個性豊かなメンバー。


「そして最後、こちらの自己紹介カードは……もう残ってるのはひとりしかいないので言っちゃいますが、翻訳少女イロハちゃんのものです! なんというか、すごいことになってますねー」


 最後に俺の番が回ってくる。

 表示されたそこには、書ききれずはみ出してしまうほどの言語名が書かれていた。


「えーっと、これは全部で何ヶ国語あるんでしょうか」


「方言を入れなければ22ヶ国語です。あと載ってないんですけれど、これを提出したあとにまたひとつ習得したので、現在は23ヶ国語です」


「一応確認しておくけど、ガチ小学生なんだよね?」


「えーっと、はい。一応……」


>>ヤバすぎて草しか生えないwwwwww

>>多言語話せるのは知ってたけど、こんなに使えたの!?!?!?

>>こういうのを本物のギフテッドって言うんやろなぁ


 俺は改めて文字にしてみて、自分の能力の異常さを痛感した――。


「はえー。23ヶ国語ってすごいですねー。調べてみたら現在のギネス記録が58ヶ国語らしいので、そのうち越しちゃいそうですねー」


「ワー、スゴイです!」


 うぅっ、尊敬の声が耳に痛い。

 こうやって本物のマルチリンガルと比べられると、自分がズルをした気になる。


「では自己紹介も出揃ったところで質問していきましょうかー。みなさんは好きな言語や、好きな文字はありますか?」


「うぇっ、好きな言語ぉ? そんなの日本語しかぁわかんにゃいよぉう! とゆーか、アチシ日本語しか話せにゃいんだけどぅ、にゃあんでこの場ぁに呼ばれてるにょ~!」


>>草

>>怪物たちの檻に放り込まれた小動物なんだよなぁw

>>これ呼ばれたの数合わせだろwww


「あっ、でも漢字は苦手だからひらがなのが好きかもしれないにゃぁ」


「エー、なんだろ? ハングルとか? 文字そのものも母音と子音の組み合わせだから、すごく合理的で覚えやすい」


「アラビア語とかどうだい? 日本じゃ変な文字の代表、みたいに言われてるみたいだけれど。右から左へ読んだり、子音の上に母音が書かれる二段構造になっていたり、すごくユニークでおもしろいじゃないか」


「イロハちゃんはなにが好き?」


「わたしもアラビア語、けっこう好きかも。とくにクーフィー体とか」


「スクエアクーフィー? いいよねっ、アレ! 超クール!」


「ええっと、それぇってどんなのかにぁあ……?」


「こんなの」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/kawaiiiiiii_kei/news/16817330668050896688


「うぇぇっ!? なにこれQRコードぉ!? 迷路ぉ!? こぉんなの読めるのかにゃあ!?」


「わたしはアラビア語も習得してるからそれなりに。さすがに読みやすくはないけどね」


「あと似たような書体だと九畳篆くじょうてんとかもビューティフルだよね! 中国語の篆書体てんしょたいの派生書体なんだけどさ!」


「あ、暗号かにゃあ? 知らにゃい単語が飛び交ってるにょお。びゅーちふるってどういう意味にゃぁあああ!」


>>落ち着けwww

>>それはわかるだろw

>>赤ちゃんだから仕方ないwww


「ひぇー、すっご。こんなのまで読めるなら、QRコードも読めちゃいそう」


「あはは、さすがにQRコードのほうが読みにくい・・・・・ですよ」


>>えっ?

>>ん?

>>今、ヤバいこと言わなかったか?


 あっ!?

 やべっ、口が滑った!

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