第43話『オヤビン面接』

 説明しよう! VTuberに『バカ』と言ってもらう企画とは!

 VTuberに『バカ』と言ってもらうだけの企画である!!!!


>>うおぉおおおおおおおおお!

>>うおぉおおおおおおおおお!(米)

>>うおぉおおおおおおおおお!(韓)

>>うおぉおおおおおおおおお!(仏)

>>うおぉおおおおおおおおお!(英)


「えーっと、イロハちゃんもコメントのみなさんもいったん落ち着いてもろて。この企画はタイトルのとおり、いろんな国のVTuberさんを呼んで、罵倒してもらうだけの配信です。愛しげに言うもよし、茶目っ気たっぷりに言うもよし、軽蔑を込めて言うもよし。表現はそのVTuberさんにお任せをしています」


「ふんすっ! ふんすっ!」


「はいはい、イロハちゃん。興奮してるのはわかったから! 鼻息、配信に乗っちゃってるから! とまぁ、そんなわけで通訳として翻訳少女イロハちゃんをゲストにお迎えしています。先日、新衣装が発表され、今日は魔法少女の姿での登場です。いやー、すごくかわいいですねー」


>>かわいい

>>魔法少女かわいい

>>おまかわ


「あと彼女には該当する国のVTuberがいなかった場合の代役もしてもらいます」


「え」


「ちなみに方言もアリです。希望があれば今からでもマッシュマロに投げておいてくださーい」


「ちょっと待って? わたし聞いてない」


>>了解

>>草

>>今なら好きな言葉でイロハちゃんに罵倒してもらえるってマ???


「よっしゃお前らー、いくぞー! 最初のゲストはアメリカからの参加だぁあああ!」


「だからわたし聞いてな――」


 くっ、想定外が……え?

 この企画のどこが能力解明に役立つのかって?


 ……や、役に立つかもしれないだろ!?

 少なくとも俺が捗るんだよぉおおお!


   *  *  *


 放課後、居眠りしてしまった男子高校生。

 目を覚ますとそこには微笑むクラスメイトの女の子。

 起きるまで待ってくれていたその子が――韓国語で。


【ばーかっ】


   *  *  *


 旅行先の外国で出会った少女。

 海辺でふたりしてはしゃぎまわる。

 もう帰国しなければならない彼に告げるように――英語で。


《……バカ》


   *  *  *


 吸血鬼のお嬢さま。

 食料として連れてきたはずの男に愛着が湧いてしまう。

 身体を張ってまで尽くそうとする男に対して――フランス語で。


〈お莫迦さん?〉


   *  *  *


 いっつもエッチなイタズラをしてくる男の子。

 幼なじみの女の子はけれどそんな彼のことが好き。

 今日もまた彼はバカなことをして――関西弁で。


「っのアホぉーーーー!」


   *  *  *


「次は――」


「ええ加減にせぇえええいっ!」


>>草

>>怒涛のイロハラッシュで草

>>関西弁たすかるw


「ぜぇーっ、はぁーっ。わたしの思ってた企画とちがうんだけど!?」


「いやー、予想外にマッシュマロが届いちゃったからねー。あはは、イロハちゃんがこんなにアドリブに強いと思ってなかったから、ついやりすぎちゃった」


「あー姉ぇに鍛えられてるからねぇ!?」


「あははー、なるほどー。っと、そろそろ時間なので配信を切りあげたいと思います。みんなイロハちゃんに興奮してたけど、言っとくけどリアル小学生だからね? ロリコン自覚しなー?」


>>イロハちゃんかわいかった(韓)

>>なんてこった俺はロリコンだったのか(米)

>>最高だったよ(仏)

>>さすがのイロハちゃんでも知らない言語があると知って安心した(英)


「えー、私には読めませんがおそらく好評だったのだと思われます。イロハちゃんもなんだかんだ、結構な数のVTuberから『バカ』って言ってもらえて満足だったでしょ?」


「まぁ、うん。それ以上にダメージのほうが大きかったけど」


「というわけで本日はご視聴ありがとうございましたー。せっかく今日は海外勢も多いので、あのあいさつでいきたいと思いまーす。せーのっ」


「「”おつかれーたー、ありげーたー”」」


>>おつかれーたー

>>おつかれーたー

>>おつかれーたー


   *  *  *


 ヘトヘトになりながら配信を終了する。

 どうしてこうなった……。


「そもそも世の中に言語が多すぎるんだ!」


 バベルの時代まで戻して欲しい。

 結局、何ヶ国語でセリフを言わされたことか。

 なんで日本だけで9つも言語があるんだ。方言まで入れたら数え切れない。


「じつに頭為になる企画ではあったけれど」


 ……え? 結局、なんの役に立ったのかって?

 それはさておき次の動画のサムネイルでも作るかー。


 背伸びをして気合を入れ直したそのとき、メッセージの着信音が響く。

 発信者は先ほどまでのコラボ相手。


『本日はありがとうございました。よければまたウチの配信に出てもらえませんか? じつは今、マルチリンガルのVTuberだけを集めた企画を考えていて』


 本当に能力解明に役立ちそうな企画だった。

 冗談で言ったつもりだったのだが、ウソがまことになってしまった――。

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