第11話『伝言ゲームde協力ゲーム!』

 VTuber学力テストの配信はすさまじい再生回数を叩き出した。

 あっという間に50万再生を超え、このペースだと100万再生に届きそうだ。


 これまでも切り抜きはバズっていたが、配信そのものがこんなに再生されたのははじめてだった。

 チャンネルの総再生時間も4000時間をゆうに超え……。


 収益化の条件が満たされた。

 俺はあー姉ぇに教えてもらいながら、手続きを完了していた。


「承認までの日数は時期によってまちまちなんだよねぇー。けど、たぶん1週間もしたら結果が返ってくるんじゃないかなー?」


「そっか~。って、待って。考えてみたら今回のコラボ企画の収益ってみんなにどう還元したらいいの? わたしまだ収益ゼロなんだけど」


「今回はチャンネル主――すなわちイロハちゃんの総取りだから気にしなくていいよ。みんなもおもしろそうだから企画に乗っかってきただけだし」


「そういうもんなの?」


「そういうもんだよ。まぁ、まったく思惑がないわけでもないだろうけど。あたしとのコネ作りとか、今度はイロハちゃんを自分のチャンネルに呼ぶためだとか、自分の宣伝とか」


「へぇ~」


「でもこんなのは全部オマケ。一番大切なのは自分がやりたいと思ったかどうか。だってMyTubeは――」



 ――”好きなことで、生きていく”場所。



「でしょ?」


 あー姉ぇはそう言ってウインクした。

 そういえば今回、一番最初に参加表明してくれたのも彼女だった。


「つまり、あー姉ぇもこの企画、おもしろそうだと思ってくれたの?」


「いや、あたしは小学生相手に無双して気持ちよくなりたかったから」


「おい!」


「おかしいよねー? なんであたしが最下位だったんだろう? あれ絶対に不正だよ! 点数操作だ!」


「点数よりも性根直したら?」


 とまぁ、そんな話をしていたらあー姉ぇの言っていたとおりになった。

 今度は俺がほかのチャンネルに呼ばれたのだ。


 恩義に報いぬわけにもいくまい、と俺は笑顔で了承の返事を送った。

 送った直後に自己嫌悪で崩れ落ちた。


 いつの間にかVTuberと交流することが当たり前になってる。

 ファンとしての自分と、VTuberとしての自分との境界があいまいになってきているぅ。


 ほんと、慣れって恐ろしいな。


   *  *  *


「というわけで今回は国際コラボでーす! いぇーい! ぴすぴす!」


 ひとりのライバーが叫んだ。

 彼女こそ、俺が今日お呼ばれされたチャンネルの主、今回のコラボ企画の主催者だ。


「ウチのチャンネルの視聴者は知っちょると思うんじゃけど、ウチってよく韓国組のライバーと一緒にゲームしちょるんよなー。で、せっかくじゃったらもっと多国籍にしたらおもしろいじゃろー思って!」


 主催者のライバーが独特な方言で話す。

 配信画面には男女混合、合わせて5人のVTuberが映っていた。


 その中のひとりはもちろん、俺。

 一方で今回、あー姉ぇは不参加だった。


 あー姉ぇは「出たいけどスケジュールが~!」と嘆いていた。

 コラボ配信であー姉ぇがいないのははじめてだ。


「では順番に自己紹介いってみましょい! ウチは――」


 自己紹介が進んでいく。

 俺もいつものフレーズに「日本語と英語がそれなりに話せます」と付け足してあいさつした。

 視聴者もだんだんと企画の趣旨がわかってきたようだ。


「みなさん自己紹介ありがとうございました~。もうみなさんもおわかりですよねー。そう、今回集まってもろたんは各国のモノリンガルとバイリンガルのライバーたちなんよ!」


 改めて今回のコラボメンバーを確認する。


 韓国語しか話せないライバー。

 韓国語と日本語が話せるライバー、本企画の主催者。

 日本語しか話せないライバー。

 日本語と英語が話せるライバー、俺。

 英語しか話せないライバー。


 総勢5名。自分でいうのもなんだがすごいメンツだ。

 バラエティに富んでる、というかもはや取っ散らかってる?


「今回みんなでやるんは『伝言ゲーム状態で協力ゲームをクリアすることはできるのか!?』ゲェ~ム! それじゃあさっそく、やっていきまっしょい!」


 そんなこんなではじまった配信。

 これがもう想像通りにめちゃくちゃだった。


 いろんな言語が飛び交い、ライバーも視聴者も大混乱。

 いい意味でお祭り騒ぎだ。


 あー姉ぇがいないなら楽チン。いつもみたく振り回されずに済む、と思っていたのだが……。

 くそぅっ! 見通しが甘かった!


「いやこれほんまムズない!? こんな企画考えたんだれじゃ!? ウチかぁ~っ! みんなはダイジョブ~? 【問題ない?】」


【問題だらけだよ!】


「ダメです!」


《みんな大丈夫? だって。「わたしも限界でーす」》


《クソ疲れたぞー!》


 調子ひとつ尋ねるだけでこのありさまだ。

 しかし、なんだろう? さっきからすこし違和感が。いやむしろ違和感がないというか。


「アハハ。じゃあゲームも落ち着いてきたし、せっかくこんなメンバー揃っちょるんやから、息抜きに質問コーナーでもやってみる? コメントのお前らー。なんか聞きたいこととか、あるかー?」


>>みんなはどうやって外国語を覚えた?

>>お互いの国についてどう思う?(米)

>>※▲□★↑※↑↑


【あ~、それウチも気になる! みんなは自分の国で、オススメの料理とか変わった食文化とかある?】


【自分は韓国でプルコギとかトッポギをよく食べます。あとラーメンコンビニをよく使ってました】


【ラーメンコンビニ?】


 思わず気になって口を挟んだ。

 それはちょっと、想像がつかないな。


【いろんなインスタント麺が売ってる無人のコンビニで、無料トッピングのセルフバーがあって。……うーん、説明が難しい】


【いいえ、ありがとうございます。理解できました】


「ちょちょちょ、ちょぉおおおっと待ったぁあああ!?」


>>!?!?!?

>>今、韓国語しゃべってたのだれだ!?

>>★↑※※


「うおぉおおおいっ!? まだウチ、翻訳しちょらんかったよな!? この場に韓国語しゃべれる3人目がおるんじゃけどぉおおお!?」


>>マジ???

>>★↑↑←※▲▲

>>なにが起こっているんだ(米)


「ちょっ、イロハちゃん韓国語もしゃべれたん!?」


>>この幼女、毎回コラボでやらかしてるな!?

>>彼女は韓国語も話せるのかい!?(米)

>>バイリンガルじゃなくてトリリンガルってコトぉ!?


 ライバーたちもコメント欄も大混乱だ。


「えぇっ!? あ、いや、そのっ……」


 しかし、一番混乱しているのはほかでもない俺自身だった。

 え、俺さっき韓国語を話してたのか!? そんな自覚なんてなかった。


 バカな、さっきまでは本当に韓国語を聞き取れていなかったはず。

 どうして急にこんなことに!?

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