第12話『韓国と日本とアメリカと』


 なんで急に韓国語を理解できるようになったんだ?

 俺は韓国語を勉強したことなんて、ないはず。


 それこそ韓国語との関わりといえば、前世で交換留学生が来たときと、前世で母親が韓流ドラマにハマってリビングで録画を垂れ流されていたときと、韓国圏のVTuber配信を見るときくらいのもの。

 ……あれ? 思ったよりあるな?


>>これ企画倒れなのではwww

>>わからんフリしてた、って雰囲気でもなさそうやが

>>もしやドッキリか???


「ちがうんです、ちがうんです! 最初は本当にわからなかったんです! けど、聞いてるうちになんとなく」


「なんとなくで!?」


>>韓国語はなんとなくで話せるようになるものだったのか

>>んなわけねーだろ!www

>>さすがにこれは嘘松


「え、ちょ、ちょっと待って。具体的にどうやって覚えたとか説明できる? ウチ、めっちゃ気になるんやけど! 正直、それがホンマなら参考にしたいんじゃが!」


「ええっと」


 俺はもはや大混乱だった。

 にも関わらず、驚くほどスラスラと言葉が出てきた。


「まず、おふたりの会話を聞いていて日本語と近い発音の単語が多いなーと思ったんです。そこから文法が日本語とすごく近いってことに気がついて。そこまでわかれば文章の意味はおおよそ類推できるので、内容から助詞を対応させていって」


>>???

>>なるほどわからんwww

>>日本語でおk


「補足しておくと、さっきの文章がわかったのはあくまで、出てきた名詞が日本語と同じ発音だったり、すでにわかってる動詞だったりしたからですよ!? それでカチリとハマったというか、一気に理解が進んだというか――”話せるようになりました”」


>>話せるようになりました←意味わからなすぎて草

>>なにを言ってるんだこの天才はwww

>>これってようするに、1回聞いた単語はすべて覚えてるってことなんじゃ?


「うわっ、本当だ!? 一度でも意味を理解したら、その単語はもう使いこなせてる!?」


>>無意識とか、ギフテッド感あるな

>>一度聞いたら覚えられるって、むしろギフテッドの能力としてはメジャーなのでは?

>>ギフテッドってじつは全体の2%もいるらしいし、ありえそう


>>あー、わかってきたかも。成長って坂じゃなく階段やん? 英語の長文問題もあるときから急にスラスラ読めるようになったりする。さっき一気に理解できるようになったのは、そのすごい版が起きたってことじゃない?

>>長文すぎ、だれか10文字でまとめてくれ

>>イロハ、ワープ進化!


「はぇ~、すっご」


 本企画の主催者ライバーが感嘆するように息を吐いた。

 待って。俺がまだ、よくわかってないんだけど!?


「たしかに、日本語と韓国語ってかつては地理的に同じ場所にあったこともある、って言われちょる言語じゃし。似ちょる部分がかなり多いんよ」


>>えっ、そうなん?

>>日本語は朝鮮語から分かれ出た、って聞いたことあるな

>>↑それはデマ。けど、日本語の祖語は朝鮮半島経由で渡ってきたのかも、とはいわれてる


「すくなくとも、両方とも漢字語がもとになった名詞を使っちょるのは事実やな」


>>つまり、ガチってこと?

>>今までネタで言ってたけど、これマジもんのギフテッドでは???

>>ありえない、すごすぎる(米)


「イロハちゃんの説明聞いて、むしろこっちが納得しちょったわ。そして、わかったことがもうひとつ。……こんなん参考にすんのムリじゃボケぇえええ!」


>>そりゃそーだwww

>>俺もムリだわw

>>だれでもムリだっつーのwww


「とゆーかチョイ待って? イロハちゃんが韓国語を話せるってことは、もしかしなくても……ウチの立場なくない!?」


>>草

>>これはヒドいwww

>>これは泣いていいw


「グスン、グスン。視聴者の対応はイロハちゃんに任せるけぇのぅ。みんな今のうちにイロハちゃんに質問あったら投げちょいてくれ。ウチは敗北者じゃけぇ……」


>>★*+$※?

>>#★※●?

>>●+□★●●?


 韓国の視聴者を中心にさまざまな質問が飛んでくる。

 しかし……。俺は「あの~」と声をかけた。


「わたし、ハングル読めないんですけど」


「えぇえええっ!?」


>>マジか!?

>>それは予想してなかった

>>なるほど……日本では先に書き文字から外国語学ぶけど、赤ちゃんや海外なんかだと聞く→話す→読む→書くの順番で覚えるっていうもんな


「あっぶねーセェ~~~~フ! ウチ、あやうくいらない子になるちょこじゃった!」


>>草

>>□★●##

>>●###


 そうやってイレギュラーは起こったものの、ゲームが再開された。

 すると、ハングルを読む以外にもできないことが、ちらほらあることに気づく。

 たとえば……。


【すいません。まだ、話もカタコトくらいにしか】


 スムーズに話すのが難しかったり、発音が正しくなかったり。

 韓国語も日本語と同じように一人称が複数あるのだが、使い分けできず【わたくし】となっていたり。


【これ韓国語でなんて言いますか?】


 韓国語で話そうとしても言葉を翻訳できないことがある。

 そもそも韓国語に対応する単語がなかったり、まだ知らなかったり。


 当たり前だが、知らない単語は話せない。

 話の内容から類推できない場合はニュアンスを伝えて教えてもらうしかない。


 徐々に修正されつつはあるのだが、このチート染みた外国語の理解能力にはいろいろと制約があるようだ。

 なんでもかんでも万能に翻訳できるわけじゃないらしい。


 同じような問題は英語でも起こっていた。

 そして、わからないことを英語で聞いたり、韓国語で聞いたり……を繰り返していたら、いつの間にかみんなが俺の先生のようになっていた。


 わからないことを素直に質問できる。

 ほかのライバーも相手が子どもだから、聞かれたことにはしっかり答えてくれる。


 しかも、俺はチート染みた外国語の記憶能力で教えられたコトを100%吸収するのだ。

 相手も物覚えの良さに、だんだんと教えるのが楽しくなってきちゃったらしく……。


 ”ぅゎょぅι゛ょっょぃ”。


 これこそが勉強における最強のバフなのではなかろうか?

 また、一緒に説明を聞いているうちに、ほかのライバーたちもお互いの言葉が断片的にだが聞き取れるようになってきていた。


「小学生にもわかるように噛み砕いて説明してくれていたから」


「小学生にできるんなら自分にもできんじゃね? と思った」


 と。結果、協力ゲームは予想外にスムーズな進行を見せた。

 想定以上のところまで攻略に成功し、本企画は大団円で終了した。


 この配信も切り抜きが大量に作られた。

 とくに『ウチの立場なくない!?』と『話せるようになりました』のシーンが伸びた。


 主催者から「ぜひまたコラボして欲しい」とのお誘いももらった。

 なにげに、この一言が俺にとっては一番のご褒美だったかもしれない。


 そうこうしているうちに無事チャンネルの収益化審査が通っていた。

 そして、俺の肩書は名実ともに『小学生』から『小学生VTuber』になったのだった。

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