第7話 理想の嫁は荼吉尼!?

 平太はショック冷めやらぬなか、なんとか学校を一日乗り切り、妖協連の寮に帰ってきた。


 どうしよう……。

 学校怖い……。


 食堂で焼鯖定食を突っついていると、


「どーしたのー?? 平太クーン??」


 いきなりアルさん。

 何かもう驚く気力がない。


「アルさん……。学校って、おっかない所ですね?」


「アレ? もしかして……もう妖怪女子に目ぇつけられたの??」


 平太はビクッとした。


「なるほどねー。」


「今は妖怪の婚活事情も変わったからねぇ……。

 昔は、強い妖怪同士でカップリングして、お互い寝首を掻き合ってたけど……(今でもやってるパワーカップルもいるけど)。

 妖怪女性からしても、立場の弱い男の方が好都合と……。」


「俺はそういうの……しんどいんですが……。」


「まーっ。一部ニートには羨ましく見えるけど、内実そう楽じゃないよねー。立場弱いし、体力でも勝てないし、マジ奴隷ダヨネー。どMな性嗜好なら大喜びだけどさー。」


 どMの意味がわかっちゃうから、ヤダ。

 虐げられて喜ぶとか……怖い。


 平太は涙目で、美味しいご飯なのに箸が止まった。


 ご飯美味しいのに……喉通らない。


「折角だから学校行きたいのに……どうすれば……。」


「方法はあるよ?」


「どんな!?」


「上昇志向がなくて、性的興味が薄くて、枯れきった上位妖怪女性とカップリングすることー♡」


「え、それって……。」


 出来るの?


「場合によっては? 先ず、見つけるのが大変かなー??」


 平太はかは石になった。


 ……そんなの絶対出来ねぇべっ!!


「馬鹿者っ!!」


 荼吉尼さんが後からアルさんの頭をはたいた。


「目についた妖怪をイジメるなっ!!」


「いったーい♡ でもどうせ叩くならオシリがいい♡」


「永久に口がきけないように、針金で縫ってやろうか? その口……。」


 荼吉尼さんの目が据わっている。


「ああの、荼吉尼さん……。」


「あぁ。安在、学校はどうだ?」


「それが……。」


 学校でのアレコレを、荼吉尼さんにも色々と話すと、


「全く、親子そろって……。」

 

「親子そろって?? 」


「あぁ。妖狐一族、山城家現当主の揚羽の子だろう? 揚羽は大物政治家から妖怪、果ては他所の国の大物まで食い散らかして……トラブルメーカーで有名だ。カトリックの神父にまで手を出したときはホントに胃が痛かった……。」


 と、荼吉尼さんは青筋立てながら顔を伏せた。

 本当に大変だったのだろう……。


「あったね〜そんなことぉ。しかもバチカン市国から来た若い子だったものねぇ〜。

 まぁ……でも一応、揚羽チャンの旦那ってことで収まったじゃない? 

 これぞ人魚姫の男バージョン。お姫様に捨てられたら泡になって消えちゃうぅ~。(実際はホームレスからのぉ、野垂れ死に……。)」


 アルさん、あなたおどけておっしゃいますが……なんて恐ろしい!


 平太は震えが止まらない。


「あ! そう言えば!」


 アルさんポンと手をたたいて言った。


「いたねー。枯れきった上位妖怪女性。枯れたっていうか、本人がぶっちぎりだからぁ、周り関係ないっていうのが、正確かなぁー??」


「? 何の話だ?」


 荼吉尼さんは眉を寄せた。


「荼吉尼チャン☆」


「え?」→僕。


「は?」→荼吉尼さん。


 俺は石になりましたとも。ハイ。


 荼吉尼さんはさっきの話聞いてないから、さっぱり分かってない。


「あの…………畏れ多すぎて……。」


 平太はぷるぷると震えながら、人さし指同士を突っつき合わせた。勿論、顔色は青い。


「ねー、ねー、荼吉尼チャーン。

 性的欲求不満とかないのー??? お手軽にワンコでも飼って発散したりしない???」


 言い方ァァァァァァァァ!!!!!


「は? 犬? 性的欲求不満と何の関係がある? 第一、この年でそんなものある訳無かろう。お前じゃあるまいし……。」


 心底呆れて荼吉尼さんは言った。


「アハハハハハハハハハっ!!!! 枯れてる枯れてるっ……!! ヴァージンのままドライフラワー……化石かな?? あーっハハハハハハは…………――――――――――――。」


 ギラッ!!!!

 チュドーーーーーーーーン!!!!


 何かが一閃して何かが炸裂した。


 アルさんはどこか物理的に遠くに行ったようだ…………。


 そして、


「今の話は塵芥とも比べ難い程無駄な話だ。忘れるように。」


 と、やたら爽やかに笑う荼吉尼さんに、俺はもう、首が取れる勢いで首を縦に振った。


 そうして、なんら解決策の見いだせぬ中、二日目の登校を迎えた。


「えーと……。昨日の今日ですし、休んでも……。」


 銀嶺さん俺の顔を見るなり心配してくれた。

 心配してくれるだけ有り難いけれど……。


「俺みたいのが、学校に通わせてくれるだけでも……有りがてぇだよ。休むなぞ勿体無ぇ。」


 と言うと、銀嶺さんは、そうですか。

 と、優しく答えてくれた。


 すると……――――。


「あっ!! ワンコちゃん〜♡♡♡。」


 いきなり後ろからのしかかられたと同時に、あのフェロモンが……。


「今日も学校に来るなんてエラーイっ!! やっぱり私に飼われる気になった???」


「姉さんっ!?!?!?!? 貴女いくらでも相手がいるでしょ!? 」


「えー!? そろそろ新しいのが飼いたいのっ!! 最近皆マンネリだし? アンタみたいな禁欲修行僧みたいな真似マジムリ〜wwww。」


「きっ禁欲修行僧って!!! か彼女くらいいますっ!!」


 銀嶺さんの顔が真っ赤だ。(なんか可愛い。)


「あー。あの地味系の……。まさか弟がロリコンだったなんて―――――。」


「アンタに引かれたくないわっ!!! つーか同い年だし、ロリじゃないっ!!!!!」


 こんな感じで、教室まで山城姉弟にはさまれ教室まで移動した。山城姉、華鈴かりんのフェロモンに耐えながら……。

 お陰で、教室に着く頃には気力と体力を使い果たしてゲッソりしていた。

 しかし、


 これで命拾いしてたなんて思いもしなかったが……。


 平太と山城姉弟の後ろで気配を隠し、遠すぎない距離で妖怪女生徒が……。


「半妖はさして珍しいものじゃないけれど……500年の封印を耐えきったというのは、普通じゃ無いわ……。ぜひ欲しいの。が増えるのも悪くないでしょう? ねぇ?」


 そう聞かれたツインテールの垂れ目の彼女は


「雅様がおっしゃるなら……何でもいたします。」


 と、恍惚と答えた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る