第4話 お買い物に行こう♪
嵐壊は、始めて書類手続きというものをしている。
「ジャックさん! できました!」
「ハイハイ〜。さんって、呼び捨てでいいスッよ!」
「あーっ、すみません。俺……低辺で生きてたので……。」
ジャックはリアル苦労の悲壮感を前に言葉を失った。
「…………………。あーっ……そうだ! 名前!」
「名前?」
「人間ネーム考えなきゃ!!」
「人間ネーム?」
「そ! 俺たち妖怪の名前って強さを全面に出すでしょう? 今どきの妖怪名付けはそんなことないんですけど……。嵐壊さんなんかもろじゃないですか? 人間界では悪目立ちするんで、人間ぽい名前で、人間の戸籍を作るんですよ。」
「なるほど……。じゃぁ……。」
嵐壊はペンを走らせ、
「こんな感じ?」
と、ジャックに見せた。
“きちべぇ”
と、ある。
「あ……、それはちょっと……シワシワすぎるかな?」
「シワシワ?」
「うーん。じゃぁ……本屋さんへ行きましょう! 名付け辞典で色々見てみましょう? 買い物もあるし……!」
こうして、僕は、妖協連本部の職員寮を出て、ジャックさんとお買い物に出た。
思えば、ずっと山暮らしで、物々交換ばかりだったので、買い物など行ったことがない。
初めてだ!
そういえば、昨日、寮のお部屋を一つ借りたときもビックリした。
火がないのにお湯が沸く機械、レバーを下げればお水やお湯が出る蛇口、泡が出る石鹸、シャンプー、アルズブートキャンプでぶっ倒れなきゃ、使い方も想像つかない摩訶不思議な物ばかり……。
荼吉尼さんから渡された紙幣という紙のお金……。
紙なのにお金。
どうなってんのかと見てみると、何と、光にかざすと、真ん中の丸いところに絵が浮き上がる。それに、隅についてる銀箔、動かすと五色の艶が現れる!!
流石お金!! ただの紙じゃない!!
夕飯のときも、あの紙幣を券売機に入れ、ボタンを押すとお釣りが勝手に出た。
夕飯は、ジャックさんと一緒に食べたのだが、白飯のボタンを押そうとしたら、何故か止められた……。
白飯なんて贅沢なのに……。なかば強制的に定食に変えさせられ、その美味いことと言ったら……!!
ウキウキで寮の門まで出てくると、ジャックさんが待ってた。
「それじゃ先ずこれを……。」
綺麗な青い玉のついた、小さな輪っかを二つ手渡された。
「これは?」
「人間に擬態するためのイヤリング型、変身機です。」
「耳につけて……そのイミテーションがスイッチなんで触って……。」
「こう……?」
すると、シュンッと音がしたかと思えば……。
「し……尻尾がない!! 耳も!!」
「どっからどう見ても人間でしょう?」
そう言ってジャックが、鏡を出した。
見てみると、瞳孔が切れ長なのが、丸くなってて、色も、琥珀だったのが黒くなってる。
「お俺の目も……人間だ!」
「外でソレ外さないように……。」
「ははい。」
「それじゃ電車乗るんで、駅に行きますよ?」
と、ジャックが親指を後ろにクイッと指した。すると、
「で電車……。動く大きな鉄の箱。」
嵐壊は生唾を飲んだ。
「うん……。概ね合ってます。さっ! 行くっす!」
嵐壊はジャックについて歩き出した。
アスファルトで舗装された道、ガードレール、それに、
始めて車を見た。
ビュンっと、走っていって怖いぐらい速かったが、とても格好良い!!
興奮で小鼻を膨らませていると、ジャックさんが少し笑って言った。
「車! 良いッスよね! 俺もいつかJeepとかオフロード系のヤツ乗りこなしたいッス!!」
「おっ俺も銭貯めたら買えるかな!?」
嵐壊は目を輝かせて言った。
心なしか、見えないはずの尻尾をちぎれんばかりの勢いで振っているのが判る。
「まぁ、ピンキリなんで……バイトでも頑張れば軽ぐらいは?」
「おぉ!」
嵐壊の夢は膨らむ。
それを和やかーにジャックが見守った。
そうして、ほんわかしながら歩いていると、最寄りの駅についた。
「じゃぁ、まず、切符から……。」
「切符……あの“改札”ってヤツを通るための、紙切れだな?」
「紙切れ……まぁ、確かに……。」
「ここも券売機で買うッス。画面にこうやって……タッチするッス! 行き先ごとに値段が変わるので、上の路線図で確認するっす!」
ジャックは、平らな、なんだかチカチカする四角い板? を慣れた手付きで操作する。
「ほぉぉーっ……。」
「ハイ! これで完了!」
ジャックから切符を渡された。
「じゃぁ、いよいよ電車に乗るッスよ!」
「はいっ!!」
改札を抜けて駅のホームへ、
ふと上を見ると、電光掲示板がぶら下がっている。それを見た時、字が動き出したので驚いた。
「字が……動いてる!」
「あはははっ……確かに、動いてるッスね。」
こうして、数分待って電車がやって来た。
おっ大きい!!
風を巻き上げ、大きく重厚な車体をガッシュウゥ……と止め、ピコピコ音がなったら一斉に戸が開いた。
なんだか乗るのがちょっと怖い。
及び腰になっていると、
「さぁー、乗りますよぉ。」
とジャックに手を引かれ乗り込んだ。
電車は、ピコピコ音がなったら閉まって、ウゥゥ……ガシャッガシャッ……と小さく音を立て、思ってたよりもずっと静かに走り出した。
「わぁぁぁ……。」
景色がぐんぐん変わってゆく……。
嵐壊は窓にへばりついた。
駅につくとこれまた驚いた。
人。人。人。人。人。人。人。人。人!!
人だらけである。
あまりの人の多さにクラクラしていると、
「さぁ、こっちッス!」
ジャックに引っ張られてエスカレーターに乗った。
動く階段だ。
令和の日本は、驚いたことに、何でも勝手に動いてしまうのだ!!
しかし……、
「何でもかんでも勝手に動いちまって……足生えて逃げないんですかね?」
「あはははーっ。五百年のジェネレーションギャップですもんねぇ……。最近の子供もそういう発想無いっスよ。」
「さて、まぁ……、先ずはあれッスね~。」
「あれ?」
「財布とカバン。」
と言ってジャックは店に入った。
適当にたすき掛けのカバン黒と、長財布こちらも黒を購入。
そして、さっそく使った。
「おっ! 現代人ぽくなってきましたよ!」
「へへへっ、ありがとう。」
そして、本屋さんへ!
「えーっと。 店員さーん!」
「名付けの辞書的なやつ探してんスけど……。」
「でしたら……。」
店員さんに連れられ、名付け辞書、購入。
帰ってジャックと一緒に辞書を開く……。
15分経過。
「どうしよう……。いっぱいありすぎて……。」
「じゃぁ、元の嵐壊から、“嵐”ってどうです?」
「それは……ちょっと。」
嵐壊は渋った。
「嫌……なんですか?」
「おっ母ぁがつけてくれた名だけども……。俺は嵐の中生きていくのは……疲れちまった。おっ母ぁが嵐を壊せるほど強かったら、たとえ半妖でも生き延びれるじゃろと、つけてくれたが……俺は平和に暮らしたい。」
「そうですか……スミマセン何か……。」
「良いだよ。」
コンコンっとノックがして振り返れば、
「「荼吉尼さん!」」
「順調か?」
「えぇ。今、人間ネーム考えてて……。」
とジャックが嵐壊の方を見た。
「俺、平和に暮らしたくて……、名前ちょっと悩んでるんです。」
「平和か――――。ふむ……。では……、
「あんざい へいた。」
「あぁ。字はこうだ。」
荼吉尼さんがメモの片隅にサラサラ書いた。
“安在 平太”
「安在 平太……。ああの、これ! これにします!!」
「いいのか? 思いつきだぞ?」
荼吉尼さんはちょっと驚いたように目を丸くした。一方、嵐壊は満面の笑みで
「はい!!」
と、答えた。
こうして、僕は、
嵐壊改め、安在平太となった。
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